57_太陽のオッサン、月のオッサンです
何の音だ……? どこからか発された轟音に、全員外へ出て耳を澄ました。
田舎道の遠く――あれは、俺の家の方角だ。『マリンクイーン』出現の時と同じような、虹色の空間が出現している。
月子が険しい顔で遠くの空を見ていた。
「……きた……」
俺だって、焦らずにはいられない。何が現れて、果たしてここまで来るのかどうか、ということはさておいて、どうして二度も続けてあの辺りで――……
少し、嫌な予感がする。
俺はミヤビの台車に手を掛け、トゥルーと月子に合図した。
「すぐに戻ろう。……タマゴがまた現れるかもわからん」
「そう、だね。ダーリン、あたしもミヤビ押すの手伝――」
瞬間、真後ろから同じように轟音がして、後ろを振り返った。
――――そんな、――――まさか、
空間の裂け目が二つ――――!?
俺はあまりの衝撃に、固まってしまった。他の三人も、深刻な顔で裂け目を見詰めている。
程なくして、そこからモンスターが現れた。俺の学校の方からは、まるで太陽の化身のような大男。田舎町を挟んで隣の街からは、月の化身のような大男。どちらも屈強な肉体を持ち、顔の部分が太陽と月といった感じで、太陽の大男は大きな斧を。月の大男は長い槍を持っていた。
――――なんというか、
何で顔がオッサンなんだ……
ミヤビが喉を鳴らして、呟いた。
「あれは――『太陽のオッサン』、『月のオッサン』」
「いやまんまかよ!!」
しかし、俺達は太陽と月のオッサンに挟まれる格好だ。山よりも大きな二体の大男は、電信柱を踏み潰しながら、
えええこっちに向かってくるのか!? 何で!?
トゥルーが青ざめた顔で、月のオッサンを見ていた。
「……どうした? トゥルー」
「やばいよアルト……『トーヘンボクの悪魔』の住む城で門番を任されるっていう、『両壁のオッサン』が相手なんて」
「ああ、二つ名みたいなのもあるのね……」
オッサンすぎて全然シリアスに集中できない。
だが、トゥルーの一言で全てはひっくり返った。
「『太陽のオッサン』はレベル百二十七、『月のオッサン』はレベル百二十三。……今のあたしらじゃ、とても……」
――――は?
ひゃく……なんだって?
「んん? よく聞こえなかったなァ。トゥルー、つまりあれはレベル二十くらいの敵なんだな? よーし、みんなで力を合わせて戦おうぜ!!」
「駄目だよダーリン落ち着いて!!」
俺は叫んだ。
「RPGでレベルが極端に違う時っていうのは、負けていい時だけなの!! おかしいでしょ!? どうやって戦うんだよ!!」
「だから困ってるんじゃないのよ――!!」
ミヤビが右手の人差し指と中指で空を切って、ぼそぼそと呟いた。
「ステー・タス」
瞬間、ミヤビの前方にホログラムのような画面が現れる。全員、それを覗き込んだ。なんだこれ、ステータス表か。そんなもん見られるんだったら、戦士選抜の時に教えて欲しかったぜ。
まあ、あの時はパーティーと言うよりは、俺の一人舞台だったが……
……あれ。
○アルト
だいしゃ レベル3
○ミヤビ
まほうつかい レベル28
○トゥルー
ぶとうか レベル35
○ツキコ
ぶんがくしょうじょ レベル8
●たいようのオッサン レベル127
●つきのオッサン レベル123
ああ、使えなかったから使わなかったのか。情報がすっごく少ないね。
読み辛っ……って、ええ。俺、あれだけ戦ったのにまだレベル三なのか……まあ、ほとんどノリと勢いで勝って来た所あるしな。
それ以前に、職業『台車』って……
あ、さり気なく月子の方がレベルが高い。五くらい高い。結構違うなー。
文学少女は職業じゃないだろ。常識的に考えて。
トゥルーはやっぱ強いんだなー。
いやあ、
無理だろ!!
どういうことなの!?
「ちょっと、厳しいね……」
「いやかなり厳しいよ無理ゲーだよ!!」
詳細な情報が分からなくても一目で無理ゲーだって分かるレベルだよ!! ふざけんなよ!! ファイアーとアイスストームだけじゃ戦えない事もあるんだよ!!
うげえ、どうすんだこれ……
言いながらも、両壁のオッサンは真っ直ぐにこちらを目指して歩いて来る。まるで俺達が狙われているかのようじゃないか……あれ? もしかして、
『マリンクイーン』の時も、俺が学校に居るという狙い撃ちで、学校目指して進んでいた……?
少しだけ、背筋が寒くなった。
「……ダーリン、ちょっと考えたんだけど」
「なんだよ、こんな時に」
「ダーリン、戦士選抜で優勝したよね? ……『勇者の血』も、見せちゃったよね。覚醒した瞬間も見られてるよね」
トゥルーは俺の手を取った。
「――――逃げよう、ダーリン!! 逃げる場所くらいあるんでしょ!?」
トゥルーが叫ぶ。
え……? 俺の所に伝説っぽい武器があるから、俺が狙われている?
つまり、『ビーハイブ』には俺の居場所がバレている、ということか……? だから、明らかに強い魔物ばかりを送って来ている?
俺を倒すために……?
俺はミヤビの台車を押し、トゥルーに従った。月子も後ろから付いて来る。
……俺は、何を喋れば良いのか分からなかった。




