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52_決めポーズが激しく無駄です

 タマゴは屋上で意味ありげに笑うと、マリンクイーンに向かって跳び掛かった。

 ――高い!!

 トゥルーでさえ、地球では一般的な力しか出せないというのに、まるでそれを物ともしない跳躍力だ。トイレの世界のような――もしかして、あいつにはリミッターが掛かっていないのか……?

 タマゴが上腕二頭筋を主張すると、彼の身体から金色の光が発された。


「<輝かしい筋肉>!!」


 うおっ。まぶしっ……

 思わず目を覆ってしまった。光が消えてから恐る恐る目を開くと、なんとそこには動けなくなっているマリンクイーンの姿が!

 タマゴはそのまま下降し、グラウンドに着地した。


「えー。なんかそんな予感してた予感してたわー。アバババア、じゃあ俺っちはピエロのコスプレするー」


 イ・フリット・ポテトは不満そうに声を漏らすと、『勇者の血』に帰って行く。なんとも一人称の安定しない、気まぐれな勇者の剣だな。剣なのかどうかも、最早疑わしいが。また、元の短剣に戻った。

 まだ俺、戦士選抜からこいつの力量を判断できていないんだけど。これで弱かったらどうしよう。

 タマゴの周囲に風が渦巻いた。グラウンドの砂を巻き上げると、金色の前髪が上昇気流に乗って揺らめく。これだけ見ていると、本当にただのイケメンなんだけどな。

 タマゴは両手の人差し指と中指を立てて、胸の前でクロスさせた。


「<ハイパーブースト>!! <大臀筋>!! <ハムストリング>!!」


 なんか、タマゴの太腿周りの筋肉が突如として肥大化した。

 どうでもいいが、気持ち悪い。


「<ハイパージャンプ>!! とう!!」


 モーションと技の気持ち悪さは一目瞭然だが、効果は折り紙付きのようだな。タマゴはマリンクイーンの頭と同じ程の高さまで跳躍すると、今度は腕の筋肉を肥大化させた。

 なんじゃこりゃあ。

 ふと、俺の左腕に重みを感じて振り返ると、トゥルーが青ざめた顔で口を抑えていた。


「……大丈夫か?」

「ごめん、あたしちょっと気分悪くて……」


 ……まあ、あれを見ちゃあなあ。


「俺の後ろに隠れてろよ」

「ありがと……」

「ほあ――!! タマゴさん、カッコ良いです!!」


 ミヤビ、お前は一体奴のどこらへんに格好良さを感じているんだ。

 タマゴは自信満々な表情で、肥大化した右腕を構えた。


「俺様の名前は!! タマゴ・スピリットさ!!」


 いや、蛇に名乗っても理解はされないだろうよ。


「喰らえ!!」


 そろそろトドメか。一体どんな技で……やはり筋肉系だろうか。


「<ハイパー殴る>!!」


 だっさ!!

 名前だっさ!!

 ……とにかく、タマゴは八つ首の蛇の頭それぞれに向かって、マシンガンのように巨大パンチを浴びせた。マリンクイーンの頭上に表示されていたHPバーが、みるみるうちに減って――

 ――HPバー? なんであんなもんが地球に……

 マリンクイーンのHPはゼロになった。


「ギャアアアアア!!」


 悲痛な雄叫びと共に、マリンクイーンは消滅する。……今回も俺、何もしなかったな。

 タマゴは肥大化した筋肉を元に戻すと、そのまま降りて来た。それとなく後ろを振り返ると、地下シェルターに避難していた何名かの学生がタマゴを指差して何やら喋っている。

 ――やばいな。一転して、俺たちも周囲の注目に晒されかねない。

 まあ、タマゴとは何の関係もないと言えなくもないが……


「輝く!! リンゴの!! アップリケ!!」


 だからどうしてお前はこの状況で目立つことをするんだ!!


「俺様の名前は!!」


 俺はトゥルーとミヤビを引き連れて、そそくさとその場を離れることに決定。トゥルーは本当に気分が悪いようで、動きがのろい。俺はトゥルーを抱き、ミヤビのみかん箱に入れた。


「あっ……これはお一人様席で」

「注文多過ぎだろ!!」


 さてと。そろそろ、学生たちが上がってくる時間だろう。


「タマ――――すまないアルトくん、君にちょっと話が。まだ帰らないでくれ」


 馬鹿野郎ォ――――!!


「アルト……? アルトって誰だ……?」

「あそこにいる奴……って、学生じゃね?」

「いや、待て。異世界っぽい赤髪の女と一緒に居るぞ」


 いや、まだ俺は奴等に顔を見せていない!! 何か良い物は――そうだ、勇者の血!!


「ポテト、ちょっとこの場を誤魔化してくれないか」

「アイアイサー、ご主人!!」


 イ・フリット・ポテトは剣から上半身を出し、その手の平から球体の黒炎を出現させた。一、二、三、四、五、六……何する気だ?

 合計九個の黒炎を出現させると、ポテトは大手を振って学生たちにアピールする。


「みんな――!! 世にも不思議な、サーカスの始まりだぜ――――!! ナインボ――ル!!」


 そして、ポテトはその九個の黒炎をグラウンドに向かって投げ付け――

 ぼふん、とグラウンドに埃が舞った。

 ……何してんだ。


「おえっふ、おえっふ!!」

「いや自分で咽るのかよ!!」

「今のうちだご主人!!」


 た、確かにそうだが!!

 俺はタマゴに合図をすると、台車を押してその場を速やかに離れた。

 さっき、地下シェルターから一瞬だけ、月子の顔が見えた気がしたんだが……見られていないといいな。


「タマゴ・スピリットさ!!」

「いやアピールの続きをしろって合図じゃねえから!!」



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