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50_スッゴイデッカイではありません

 クラスから浮いた俺を、コジローと月子がそれとなくカバーしてくれた。一体いつからそんなに連帯感が強くなったのかもさっぱり分からんが、今の俺にとってはとてもありがたい。

 二人には異世界に行ってきたことを話してしまったので、俺は昼休み、弁当がてらに二人を屋上に呼び出し、これまでの冒険について詳しく話した。二人とも興味を持って、俺の話を聞いてくれた。


「じゃあ、向こうでは有人はその……ほにゃらら悪魔とかいうのを倒す、勇者ってわけか」

「いや、俺は台車だ」

「……台車?」

「まあ、こまけえこたあいいんだよ。問題なのは、その『ビーハイブ』って連中が地球にモンスターを送っているって噂があるってことだ」


 ……ムサシ・シンマの話は、やっぱりできなかった。新真小次郎のドッペルゲンガーが異世界じゃあ悪者だなんて話は、あんまりしたくないからな。

 俺は鞄から『勇者の血』を取り出し、二人に見せた。


「そんで、これが『勇者の血』っていう武器だ」


 俺は軽く剣を振り、そして。

 ――アホ踊りを踊った。

 なんで――!?


「……何してるの、有人?」


 ああいかん、ここで踊っていると弁当を蹴る。だが、身体の自由が効かない。ちょっとほんと、勘弁してくれよ。


「何だか分からんが、ものすごくアホだな……」


 コジロー、お前は黙っていてくれ頼むから。

 イ・フリット・ポテトはどこ行ったんだよ!! まあ、ここじゃあ出て来なくていいけどさ!!

 やはり伝説の武器は、伝説の武器だったようだ。使えるようになるタイミングも、いまいちよく分からないんだけどな……

 と思っていたら、剣の刀身に僅かに顔が見えた。


「シイ――」


 ……ここでは使うな、ということらしい。まあ、こいつが出て来ても困るか。色々と。


「しっかし、すげえなあ。ちょっと想像できねーよ」

「……だろ? ゲームの世界だよな」

「まあまあ、そう言うなって」


 コジローは俺の肩を組むと、にやりと笑った。


「ゲームなんてのは、人が考えたもんだ。人は実在するものからしか、物事を考えられない。つまりだ。何が言いたいか、分かるだろ?」


 ……くだらん。


「やめろよ、そういう観念的な話」

「観念的じゃねえって。この世の全ての想像は、どこかに実在するものだって言うぜ。なあ、月子」

「……もちろん、確実ではないけれど……そういう話は……あるわね」


 やれやれ。月子も合わせるの、大変だろうに。

 しかし、平和だ。ここなら今のうちは『ビーハイブ』の事を気にする事もないし、戦士がどうのとかいう話もないし、戦うこともない。

 なんか、ボケたような感じがするなあ。……むしろ、あっちの世界が正しいような気さえしてくる。

 トイレの世界に長く居すぎたせいだ。


「……何の音?」


 月子がそう言った。何を言っているのか分からなかったが、程なくして遠く、地鳴りのような音が聞こえた。

 コジローがいつになく、険しい顔をして立ち上がった。……何? このシリアスな空気。ここ、学校なんだけど。


「――出たのか、化け物が」


 もしかしてそれって、モンスターのことか……?

 屋上で食べていた俺たちは柵に駆け寄り、遠くを見た。地鳴りは東の方から聞こえてくる――海から? 海沿いの街なので、その方角には何もない。

 しばらく、その音をただ聞いていた。


「なんだ、あれは……!!」


 思わず、呟いてしまった。海の上に、空間を裂くような謎の亀裂が生まれたかと思うと、そこから巨大な……なんだあれは。ワニのような身体に、蛇の頭のようなものが八本……ヤマタノオロチか?

 スッゴイデッカイ・ヤマタノオロチか!?


「テレビで見た奴だ。名前は確か……『マリンクイーン』」

「違うのかよ!! スッゴイデッカイシリーズだろあれはどう見ても!!」


 なんでちょっと名前カッコ良いんだよ!!


「は……? 有人、お前大丈夫か……?」


 ……心配された。ちょっとショックだ。

 マリンクイーンと名乗る水生生物のボスみたいな奴は、陸地に上がっていく。サイレンの音がそこら中に鳴り響き、学校にもアナウンスが流れた。


『モンスターの出現です。各自、速やかに地下シェルターに避難してください。繰り返します……』


 人造人間なんとかゲリオンじゃねえんだぞ!!

 俺は屋上から飛び降りようと、柵に力を込めて――

 ……柵が飛び越えられない。


「何してるんだ有人、逃げるぞ!!」


 そうだった。こっちの世界では、俺はただのもやし猫背だった。

 なんてこった……どうしよう。

 とにかく、ひとまず逃げるしか――ないのか? 考えながらも階段を降り、校庭まで逃げる。既に校庭は地下へと続くゲートのようなものが開き、生徒は避難していた。

 アニメの世界だ……


「避難してください!! 走らないで、落ち着いて!!」


 ……ちっ。ひとまずは、俺も逃げこむしかないのか。

 この分じゃ、トゥルーやミヤビもトイレの世界のように戦う事ができるかどうか、分からんし――……


「有人!! ……立ち止まってないで、早く!!」


 ――――やばい。

 そうだ。トゥルーがトイレの世界のように動ける保証なんて、どこにもないんだ。憲法だって、使えるかどうか……

 そもそもミヤビはシモンズが無いから、完全に無力じゃないか!!

 俺は月子の手を振り払い、家へと――マリンクイーンに近付く方向へと、走った。


「有人!!」


 月子が叫ぶ。


「すまん月子、必ずどこかに避難するから!! 先に行っててくれ!!」





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