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49_学校は不穏です

 ネクタイなんて、もう長いことしていなかったので巻き方が分からない。それとなく月子がネクタイを締めてくれて、俺はすぐにキッチンにあったパンを適当に咥えて家を出た。

 何しろ、学校に行くんだったら時間が無かった。ひとまずミヤビはトゥルーに任せる事にした。トゥルーはぶーぶー言っていたが、帰りに地球の食べ物を買って来てやるという条件で承諾した。

 そんなわけで、俺は久しぶりに月子と学校に向かっている訳であるが。


「なあ月子、最近はどう?」

「……うん。普通」

「……そか」

「……うん」


 会話ねーよ!! なんでこいつこんなに無口なの!?

 さっきまでの威勢はどこに行ったの!?

 何かのブーストが掛かるタイミングみたいなのがあるんだろうか。これから本気出す、みたいな。

 そんな事は考えたって仕方ないんだけども。


「有人は? ……異世界で、何をしてきたの……?」

「ん……」


 説明し辛いな。


「まあ、なんか異世界を冒険するための許可証みたいなもんを手に入れたよ」

「……何それ……」


 俺にも分からん。そもそも、世界観が曖昧すぎんだ。

 そんなヘンテコな世界が地球にも影響を及ぼしていると言うのだから、たまったもんじゃない。


「あ、そうだ。変なモンスターはどうなった?」

「相変わらず、来てるよ。そのたびに、よく分からない人が倒しに来るの」


 異世界の問題は異世界で解決してくれよって思うが。トイレの世界からモンスターが来て、それをトイレの世界から来た戦士が倒すんじゃ、地球はいい迷惑だよなあ。

 その辺、どうなんだろう。まだそんな話にはならないか。

 モンスターが出てきたのも、つい最近の話だし――……。


「ね、有人。また、小次郎と三人で遊べたら、いいね」

「……ん?」


 そんな日、あったか?

 新真とゲーセンに行くことはよくあるし、月子も小学校の頃は何度か遊んでいた記憶があるが……三人でなんて、あったかなあ。

 もしかしたら異世界からモンスターが現れることで、俺達の世界も色々変わっているのかもしれないな。

 なんてったって、サンシャイン・ブルーだもんな……

 母よ。それはキラキラネームだったとしても、かっこ悪いぞ。

 お袋戦隊サンシャイン・ブルー。


「おっ、もしかして有人か!?」


 背中から声を掛けられ、俺は振り返った。

 そこには、短髪を逆立てたガタイの良い男の姿が。

 俺は咄嗟に身構えた。鞄に忍ばせておいた、『勇者の血』を取り出そうとして――……


「おお、有人。どうした」


 何してるんだ、と自分に思った。反射的に身を引いてしまったじゃないか。こいつは黒髪だから、違う。あいつじゃない。

 ムサシ・シンマはどちらかと言うと、赤茶っぽい髪の色だったからな。


「コジロー、おはよう」

「おお!? なんか、変な気分だな。学校に来るのも久しぶりだもんな」

「……まあ、ちょっとな」


 ……なんとなく、新真と呼ぶことを躊躇ってしまった。如何せん、ムサシ・シンマと似過ぎているんだよ。

 これからはコジローって呼ぶか……。


「小次郎……おはよう」

「おう、月子。来月の中間試験、数学が分かんなくてさー。ノート貸してよ」

「嫌よ……ちゃんと勉強しないでゲーセンに行ってるから……分からなくなるんでしょ」


 ――あれ?

 金島月子と新真小次郎って、こんなに仲良かったっけ……?

 いや、違う。そんな筈はない。そもそも、文学派の月子とサボり魔のコジローじゃあ、住んでいる世界が違い過ぎる。

 俺は立ち止まった。


「ん、どした? 有人」

「……早く行かないと、遅刻になっちゃうよ。……有人」

「……あ、ああ。お前等って、そんなに仲良かったかなあ、と思って」


 俺が聞くと、コジローは笑顔になった。月子も、どことなく表情が和らいでいる。


「こないだ、グループワークをやったんだけどさ。その時に、ちょっと月子と意気投合しちゃってな」

「……そうなの。それから、小次郎も学校に来るようになって」


 ……うーん。

 まあ、いいか……そんなことも、あるんだろう。俺は結構な時間、二人と会っていない事だし……


 学校に到着すると、俺は意外過ぎる真実に眉根を寄せた。

 黒板の隣にあるスケジュールを確認して、その見たこともない張り紙に首を傾げる。

 その名を、『対モンスター対策訓練の日程』と。

 出来てから結構経つのか、誰も気にしちゃいない。……まるで浦島太郎の気分だぜ。その昔戦争で人々が防空壕に逃げ込んだ時のような、隠れる手段について軽い説明がされている。

 つまりあれだ、避難訓練とノリは一緒ってことか。だが国の地下シェルターなんて単語が出てくるんじゃ、あんまり洒落にならんぞ。


「授業始まるぞ、有人」

「……あ、ああ」


 コジローに肩を叩かれ、俺は席に戻る。周りが俺を見てひそひそと話しているのが、妙に気になる。

 ……くそ。俺はワノクニじゃあ英雄だったんだぞ。

 そんなこと、話せる訳もないが。


「はい、席に着けー」


 見たこともない先生が教壇に立った。そういや、俺が不登校になってから、もう随分立つもんなあ。

 先生も変わってしまった、ということか。

 今更ながら、学校に来てしまったことに不気味な違和感を覚えて俺は居心地が悪くなった。教室中の生徒に見られているような気さえする。

 ……うーむ。




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