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04_会話の語尾に永遠に『オシリスキー』と付く呪いです

 さて、結論から言うと、ミヤビパパのふんばり剣術とかいうのは、意外とまともだった。

 小剣術とは短剣の剣術のことで、大きい方は長剣のことらしい。

 ネーミングセンスなさすぎだろ。

 そして、ミヤビパパはサムライと言うらしい。

 それにしたって髪は長すぎるし、眉は太すぎる。

 事の展望は、こうだ。

 トーヘンボクの悪魔とかいうのは、影響こそ現れているが誰も見たことがなく、その正体は闇に包まれているらしい。

 そして、そいつは世界を闇に包む計画とかいうのをしているらしいのだ。


「シモンズは、各地の水を使うことで魔法を生み出す。その使い手がミヤビなのだが、シモンズには合計で四種類の『伝説の攻撃魔法』と、六種類の『伝説の支援魔法』が存在する」


 なーるほど。合計十種類というわけだな。

 かくいうシモンズは、形こそただの温水洗浄便座だが、本当に恐るべき魔力を秘めた、いわば大砲のようなものらしい。

 正直、温水洗浄便座の大砲なんて、見るのも勘弁願いたいほど間抜けな光景だが。


「タンクの上に、水を吸い込む皿のようなものがあるだろう」


 ……ああ、あの手を洗うやつね。


「あの場所に水を入れるのだ」


 シモンズは水を入れて、レバーを回すことで魔法を発動させる。……ということは、流す水によって魔法の種類も変わるというわけか。

 ということは、もしかしたら伝説じゃなくても良いのなら、色々な魔法があるのかもしれないな。

 ここまでくると、どうして俺が呼ばれたのかということについて、ただの運び役だというミヤビの見解も少しおかしい気がしてくるな。

 運べる人間なら、誰でも良かった。ということは、俺が選ばれたのはただ『台車』だからではない。


「実は、アルトくんにもトーヘンボクの悪魔と戦うための武器が残されているのだ」


 おお、きたきた!


「なるほど。ということはやはり、俺は勇者なんですね」

「いや。君は台車だ」


 そこはぶれないのね……。


「アルトくんには、ひとしきり修行をした後、セントラルシティで行われる戦士選抜に出てもらう」


 セントラル、シティ? なんだか、急に現代っぽい単語が出てきたな。

 セントラルシティと言うくらいだから、きっととても栄えているのだろう。

 戦士選抜ということは、勇者の選別みたいなものだろうか。俺の知っている限りでは、そんなもののような気がする。


「そこで優勝し『王女の口付け』を貰うことで、このアイテムと共鳴し、武器となるのだ」


 ミヤビパパは戸棚の奥から、……あれだ、剣道か何かの大会で好成績を納めると貰えるトロフィーを仕舞う箱程度の大きさの箱を取り出した。

 真っ赤な箱の中には、真っ赤な短剣が入っている。


「へー……意外とまともなんですね」

「ただし、HPが尽きてしまうと負けになってしまうので、気を付けて欲しい」


 なんだよHPって。ヒットポイントか。ゲームではよく見るけど。

 まあ、とにかく内容はなんとなくだが、分かった。ワノクニに居る戦士選抜に出られる男の中で、シモンズに触ることのできる男が居ないとか、そんな話なのだろう。

 先程軽く教えてもらった小剣術とやらを、俺は思い出す。

 どうも、この世界だと身体が妙に軽いんだよな。反復横跳びさえ百回できなかった俺なのに。

 ちなみに、腕立ては十回しかできない。

 筋金入りのもやしである。

 そんなもやしでもこれだけ動けるのだから、もしかしたら屈強な男はもっと速いのかもしれないが。こういう中途半端なファンタジーは出来損ないの人生ゲームみたいにルーレットが少し壊れていて、決まった値しか出なくなっていたりするものだ。

 さっさと終わらせて、家に帰ろう。

 まったく、異世界で生活するのも楽じゃないぜ。


「おーい!! 魔物が現れたぞ!! みんな隠れろー!!」


 男の声がして、俺は振り返った。ミヤビパパが太い眉を動かし、トイレに下半身を突っ込んで寝ていたミヤビが目を覚ます。

 やけに静かだと思っていたが、いつの間にか寝ていたのか。


「……おそらく、グモモモ・モモモンクスの谷からやって来たのだろうな」

「ぐもももふんっ……なんですか、それは」

「最近、魔物に侵され始めているのだ」


 舌を噛んだ。言い辛すぎるだろ。なんだよそれ。

 兎にも角にも、どうやら悪魔の手先はこの世界でも魔物らしい。ここはゲームと同じだな。

 さて、いっちょ俺の剣技とやらがどこまでいけるのか、試してみますか。

 かったるいなー……


「んじゃ、ちょっくら戦って来ますかね」

「あ、あとついでなんだがアルトくん」

「はい?」


 ミヤビパパは、太い眉を動かしながら言った。


「君には、トーヘンボクの悪魔から授かった呪いが掛かっているんだ」

「それ一番最初に言うべき事だよね!? ついでじゃないよね普通!!」


 変な納得の仕方をしていたが、どうやらこっちが俺の召喚された理由っぽいぞ。

 なんだろう、呪いって。レンタルビデオ屋のおっちゃんがついに、異世界にもホラーを浸透させる時代になったんだろうか。

 ふと、思う。あのおっちゃん、今どうしているのかな。


「アルトさんの呪いは十個あります」


 今度は黙っていることに耐えられなくなったのか、ミヤビが横から口を挟んだ。


「……多くない?」

「まず、二十歳まで呪いがそのままだと、会話の語尾に永遠に『オシリスキー』と付く呪いです」


 ……なんというか。


「――それは――かっこわるいな」

「はい。死ぬほどかっこわるいです」

「俺の世界でもか」

「はい。アルトさんの世界でもです」

「……直し方は」

「分かりません」


 俺は――このまま二十歳になったら、何を喋るにも語尾に『オシリスキー』と付くことになるのか。

 こんにちは、オシリスキー。

 さようなら、オシリスキー。

 きっと、世間からは冷めた目で見られ、俺は就職もままならなくなるだろう。

 ……あれ、なんか呪いって聞けばやる気になるかと思ったけど、くだらなさすぎて全く冒険を進める気にならない。

 なにこれ……


「……あとの九個は」

「分かりません」


 よし、家に帰ろう。

 俺は異世界に来なかった。ファンタジーもやってない。

 ゲーセンに行くんだ。


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