表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/110

47_ただいま!です

『ありがとう!! アルト君、本っっっ当にありがとう!!』


 ワノクニに帰るとサムライさんは俺の胸に付けられたパーティーリーダーの証を見て、涙を流して喜んだ。まあ結果的には、サムライさんの希望通りになったということか。

 俺としては、このままもうトイレの世界に来ることはない、というシナリオまで考えているんだが。

 まあ、ここは意見を合わせておこうと思い、俺はこう言った。


『これでワノクニ町興し、できますかね……』

『アルト君が冒険をして好成績を納めれば、あるいは。いけると思うんだ』


 知ったこっちゃねえ。

 というわけで、一度ルナの王宮に戻って打ち合わせた後、俺とミヤビとルナとトゥルーは準備をして、ミヤビ宅の近くの古井戸までやってきていた。

 驚きだったのは、トゥルーも俺が地球の人間だと知るや、興味津々といった様子で俺の話を聞いていたことだ。

 本当はトゥルーともこれでお別れの筈だったのだが、ここまで付いてきていた。


「はーい、それじゃあシモンズを発動させますので、少し離れてくださいね」


 俺の左腕には、相変わらずトゥルーがへばり付いている。ルナは少し離れて、それを腕を組んで見ていた。

 怖い。怖いぜ。


「ダーリン、ダーリンの世界にも結婚制度ってあるの?」

「え? あるけど……え、トイレの世界……げふん、こっちの世界にもあるのか」

「あるよお。結婚するとね、お互いの居場所を知ったり、呼び寄せたりする魔法を使えるようになるんだ」


 なるほど。ということは、俺はトゥルーとだけは結婚しちゃいかんということか。

 俺の意思ではなく、いつでもこの娘に呼び出されるということだ。

 俺はもうちょっと平穏な生活がしたい。

 ミヤビがシモンズを発動させると、便器……げふん、いつもミヤビが入っている場所から虹色の光が現れる。相変わらず、何の希望も感動もないエフェクトだ。

 三大魔導器具、カッコ笑ってとこか。


「はい、それじゃあ入ってください」

「トゥルー、お前先に行けよ」

「え、いいの?」


 仮に移動ができない奴が現れたら、俺が先に行ってしまったら判別が付かない。ここはトゥルーとルナを先に通すべきだ。

 ビーハイブの連中に見付からなきゃいいが……一応、周りを確認する。特に誰も居ないようだ。

 優勝してしまったので、一応俺は有名人だ。尾行されないように気は使ったつもりだが。


「それじゃあ後でね、ダーリン」

「おー」


 トゥルーがシモンズに消えるのを見送る。続いて、ルナが前に出た。


「……また、このメンバーかあ」

「まあ、ビーハイブの連中に見付からないためでもある。トゥルーは付いてきただけだけど、お前は行かないといかんだろ」


 ルナは頷くと、シモンズに入った。姿が消え――……


「……あれ?」


 ない。ルナはシモンズの上で、呆然と立ち尽くした。俺は眉をひそめて、ルナを見た。

 ……駄目、なのか? それはまずいな。トゥルーが駄目で、ルナがオーケーという展開はまだ良かったが。

 ルナが移動できないとなると、今後のルナに危険が付き纏う可能性もある。


「アルト……これ、駄目ってことなのかな」

「……みたい、だなあ」

「うー」


 ルナが悔しそうな表情をした。

 どうしよう。俺もちょっと、これは困るなあ。ルナが来られないとなると、俺のトンズラ作戦にも支障が……


「……サムライさん、ルナの面倒、見てやってくれませんか」

「ああ、君が戻るまでの間だね」


 ……俺がルナを地球に連れて行くまでの間だよ。こんな訳の分からん世界で冒険なんかできるか。

 そう思ったが、口には出さないでおいた。

 ルナは諦めてシモンズから出ると、俺の手を握った。柔らかい感触に、一瞬胸が高鳴る。とびきり切ない顔で、ルナは俺の目を真っ直ぐに見た。


「……すまん、ルナ。協力させただけになっちまったな」

「ううん。私こそ、守って貰っちゃって」

「暫くはサムライさんに目を掛けて貰うから。『ビーハイブ』には捕まらないようにしてくれよ」

「うん……」


 やめてくれ。そんな顔をするな。

 ちくしょう、なんとしてもルナを地球に連れて行く手段を探さなければ……


「また、誘ってくれる?」


 俺が死ぬ。

 主に萌える方で。

 なんだろう、このトゥルーとは違う純粋さというのか、あざとくない感じというのか……そういう何かが、俺のハートがをしっかりと掴んで来るんだよなあ。


「……ああ、なるべく早く、戻って来る」

「わかった。……トゥルーに気を付けて」


 最後にルナは、シモンズを睨み付けると言った。

 俺はミヤビに目配せすると、先に虹色の光の渦に向かって飛び込んだ。

 ああ、便器の形が遠ざかり、虹色の光に包まれていく……。暫く虹色遊泳を楽しんだ後、もう一度見慣れた便器の形が目に飛び込んできた。

 その向こうには丸い電球と、白い壁。

 手を掛けた。


「……ただいまー」


 それとなく呟いて、俺はトイレの扉を開いた。何の変哲もない廊下も、今では懐かしく思える。

 階段の上は、俺の部屋だ。真正面のリビングでは、トゥルーが目をキラキラと輝かせて周りの物を物色している。


「わー!! へー!! 外国に来たみたーい!!」


 外国だからな。それとなく言うと、世界すら違うからな。

 随分と長いこと帰っていなかったからか、新鮮だ。自分の身体がやけに重く感じられる。重力が一回り違うような気分だ。

 そうだ、こんな感じだった、と再確認。


「アルトさん、手を貸していただけませんか」


 お前は一人で便器から上がることもできないのか、ミヤビ。まあ、そんなシチュエーション中々無いもんだけどさ。

 俺はミヤビの身体を持ち上げた。

 ……そういえば、ルナのスカートをこいつは身に着けたままだ。どこかで返さなければな。


「母さん!! ただいま!!」


 返事はない。こっちの時間は今、何時頃なんだ……? 時計を確認する。夜の七時だ。そろそろ帰って来ていてもいい頃だ。そういえば、時間は向こうの世界と大して違いはないんだったか。

 そもそも、カレンダーが日曜日じゃないか。今日は母さん、仕事じゃないはず。

 買い物にでも行っているんだろうか。


「ん? なんか、臭い……」


 見ると、テーブルのバナナが腐っていた。げえ、まじか。どんだけ放置されていたんだよ。

 大至急バナナを生ゴミ入れに投下し蓋を閉め、窓を開けた。


「うええ、すさまじいニオイだな……」

「あれ? ダーリン、何か飛んだよ」


 トゥルーがリビングのテーブルを見て、そう呟いた。振り返ると、リビングをメモのようなものが舞っていた。

 何だ一体。俺はそのメモを片手で捕まえると、内容を見た。

 そこには、こう書いてあった。


『世界の謎を解き明かしに行ってきます サンシャイン・ブルー』


 口を開いたまま、俺は固まった。


「わあ、日空さん、どこか行っちゃったんですね」


 ――――誰。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ