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45_封印解除・武器誕生です

 初めは、俺の右手に持っている『勇者の血』がぐにゃりと奇妙な感触で伸びた。

 俺の戦士選抜用の短剣と同じくらいのサイズだったものは、ムサシお持っている長剣とも互角に張り合えるほどのサイズになる。呆れるほどに黒い刀身は陽の光を浴びて光り、やがてそこから炎が吹き出した。


「アバババァ――、ちょっとまだお目覚めには早いわよダディ。このままじゃ本気の力なんて出せっこないわ。早く封印を開放するんだジョージ!!」


 炎はどんどんと大きくなり、そのままドラゴンのような形になって、一直線にムサシに伸びていく!!

 喋っているのはなんだ!? この剣か!?

 ジョージって誰だよ!!

 ムサシは眉をひそめて俺の動きを見ると――初めて真剣な危機感を覚えたように見えた――ミヤビを放し、後ろに『跳んで避けた』。

 今まではどんな攻撃が来ても、何もしなかったのに?

 炎のドラゴンはステージごとミヤビの手前を喰らい、ステージが欠ける。


「ほら言っただろ、避けられちまったよ。遅い攻撃じゃあまるで豚がライオンに挑むようなもんだぜ」


 言いながら、ドラゴンは『勇者の血』の中へと戻っていく。俺はミヤビの前まで走ると、ミヤビとルナの盾になるようにムサシに立ちはだかった。


「……『勇者の血』? ……なんで、封印もまだ解けてないのに」


 ムサシが呆然と呟く。俺にだって、何が起きてるのかなんて分からねえよ。


「少年少年少年。はやくそそそこの王女の口付けを貰うんだ」

「はあ? 俺にどうしろと……」

「アルト!!」


 俺が振り返ると、震えていたはずのルナがすぐそこまで来ていた。


「お願い!!」


 何をお願い――

 俺の思考は、そこで止まった。

 ルナは俺の首に腕を回し、俺を引き寄せたかと思うと、そのまま唇に――――


 ――に――


 なんだか分からないが、ものすごく柔らかいということは分かる。脳が溶けそうだ。

 勇者の血はさらなる光を放ち、その真の姿を開放し始める。

 ……いや、王女の口付けって。

 アイテムじゃないのかよ。

 お前自身が王女の口付けなのかよ。


「……はあ……」


 ルナは唇を離すと、ため息を付いた。紅潮した頬が至近距離に。俺の鼓動が速まる。

 ――――可愛い。


「やったなジョージ!! 俺っちはおめえ様のもんだぜってことよ!! ヒィ――――ハァ――――!!」


 右手に持っていた『勇者の血』はもはや長剣の枠も越え、歪み、球体になり、刀身の部分だけが形を変えていく。

 そして――

 俺は、それを見上げた。


「さあ、どうして欲しい? あいつ倒しちゃう? あいつ捕らえちゃう? プリーズ・テルミー・プリーズ」


 でかい髭面のおっさんが、黒い。

 ……俺の右手に持っている『勇者の血』から生えてる。

 生えてるとしか、言い様がない。


「ハハハハア!! なんだよまだ寝てるのかいご主人様? あいつやっつけるんだろう? 手ェ貸すゼェヘヘ」

「……おまえは?」

「俺は素晴らしき炎の神!! イ!! フリット!! ポテト!!」

「いやそこはイフリートって言っとけよ!!」


 覚醒した『勇者の血』の正体は、なんかどこかで見たような黒いおっさんだった。見た目の話だけをするなら白人系の軍人みたいな顔で、随分とノリが良い。髪の毛はポマードで固めているように見える。黒いが。

 上半身だけマッチョで、俺の剣から生えていた。

 ……あー、ね。


「ちっ……なんでお前が『勇者の血』なんか持ってんだよ」


 ムサシが毒付いた。……まあいいや、なんでもいいけどとにかくあいつが倒せれば――……

 俺はルナを庇うように前に出て、おっさんの剣を構えた。

 同時に後ろから、ムサシを捕らえる男の影が。


「……タマゴ?」


 俺は思わず、呼んでしまった。

 そういやこいつ、決勝開始時から居なかったな。タマゴはムサシに向かってナイフを突き付けている。


「すまないね、アルトくん。他の『ビーハイブ』は始末を付けてきた。ワドリーテ・アドレーベベだけは魔法で逃げたみたいで、捕まらなかったんだけどね」


 ……そんな事をしていたのか。


「後ろの司会者も無事だ。かなりダメージを負っているが、死んではいないぜ」

「タマゴ・スピリット……てめえビーハイブから逃げ出して何してやがる……」

「俺様は俺様の正義に基いた行動を取るだけさ」


 ムサシはタマゴを思い切り睨み付けている。……タマゴって、もしかしてビーハイブの中でも重要人物だったりするんだろうか。


「前にイ・フリット、後ろにタマゴ・スピリットときちゃ、ちょい厳しいな……」

「そうだろう? 大人しく降参して」

「バイバイ!!」


 一言そう告げたかと思うと、ムサシはマントに身体を隠してしまった。手品のように、ムサシの姿がそこから消える。

 おそらく、テレポート系の移動技を使ったんだろうが……

 静寂が訪れた。


「……え? 何? あたくしの出番ナッスィング? ナッッスィン?」


 ぶう、と唇を震わせて、マッチョの白人――黒いが――は、炎と共に再び刀身に戻っていく。やがてそれは、元のままの短剣になった。

 なんだか分からないが、騒がしい剣だな……

 タマゴは胸を撫で下ろした様子で手にしていたナイフをポケットに仕舞い、トゥルーが頭を抑えて起き上がった。

 ルナは目を閉じて、俺の背中にしがみついている。ミヤビは――何故か、期待と信頼に満ちた眼差しで俺を見ている。


「ルナ、ひとまず、どうにかなったみたいだ」

「……え? ほんと?」

「ムサシ・シンマは、アルトくんが追っ払ったぜ」


 追っ払ったのは俺とタマゴだが。

 ルナはステージ上にムサシが居ない事を確認すると、脱力したのかその場にへたり込んでしまった。

 トゥルーが駆け寄ってくる。


「ダーリン!! どうなったの!?」


 ……どうなったんだろうねえ。


「……よく、わからん」


 本当に。何故『勇者の血』に選ばれていないはずの俺が――とか、色々確認したいことはあるけど、

 とりあえず、大事故には至らなかったらしい。


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