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43_戦士選抜、ラストバトルです

 背後の声援が俺の緊張を促進させる。

 戦士選抜、ラストバトル。とうとうここまで来てしまったか。俺はステージに上がると、敏捷の鉢巻を装備した。このラストバトル、相手が『ビーハイブ』であることが分かっている以上、負けることは許されない。

 だが、勝算はない。それが難しいところだ。

 強く息を吐いて、俺は準備運動をした。反復横跳びもアルコールランプを消せるほどに速くなれば技になるって、どこかで見た気がするしな。


「俺たちはこの瞬間を待っていた!! 決・勝・戦・だ――――っ!!」


 ワアア、という観客の声援を受けながらも、タマゴのように挨拶を返すことはできない俺。なんか、俺みたいなのが勝ち上がっていて本当に申し訳ない。

 程なくしてステージには、かのムサシ・シンマが現れた。逆立てた短髪と、凛々しい顔は相変わらずの無表情だ。

 ――今まで小手先ばかりで勝って来た俺にとって、この対戦だけはマジでヤバい。

 サラミ・サンドイッチの対戦を見る限りだと、能力は圧倒的。あいつでさえ一瞬で黒焦げになったのだ。俺が太刀打ちできる筈もない。

 くそ。未だに奴の攻略の糸口なんか、かけらも見えてきやしない。

 俺、どうする。


「シープコーナー!! 数々の相手に合わせた『呪い』によって、ほぼ戦うことなくここまで勝ち上がって来てしまった男!! アルト――・クニミチ――――!!」


 ほんとだよ。格ゲーの知識しかない俺が、このいかにも純正魔法剣士っぽい奴とどうやって戦えと言うんだ。

 こちらは短剣。相手は長剣。だが、こいつが剣を抜く所すら見たことがない。

 一応、決勝まで二戦はあったんだぞ。冗談じゃないぜ。


「ホースコーナー!! もはや説明は必要なし!! 無敗の男!! ムサシ・シンマ――――!!」


 俺の後ろでは、ミヤビがいつになく真剣な表情でシモンズに座り、ルナが両手を合わせて祈り、トゥルーが拳を握り締めて俺を凝視している。

 みんな、相手がいかにヤバい奴かってことは、よく分かっているみたいだな。

 呪いとか言ってるが、俺の必殺技なんて一つもない。あるのは格ゲーの知識と、なんか有耶無耶に戦いを終える力だけ。

 …………こいつは、本当に、もう。


「お前がムサシか」


 くそ。頷きもしない。完全に無視だ。

 奴の視線は、ただひとつ――ルナ・セントに向いている。ハナから俺の事なんて眼中に無いってわけだ。

 黒い閃光とかいう、奴の技。一度見てしまったからには、あれだけでも対策を立てなければ。

 俺は汗を垂らし、合図を待った。


「それでは――!! レディー・ゴ――――!!」


 ――そうして、対戦は始まった。

 油断しているのかふざけているのか、ムサシ・シンマは一歩もその場所から動かない。サラミ・サンドイッチは、この動かない間にラッシュを仕掛け、そして一つも効かなかった。

 もはや俺の攻撃なんぞが通用する筈もないとハナから決めて掛かっていた俺は、ステージ中央まで走って屈み込んだ。吹っ飛ばないように、しっかりと両手を地面に付ける。


「どうした。来ないのか。ならば、こちらから行くぞ」


 ムサシは無表情に、そう言い放つ。――これが一番、お前の攻撃を受けて場外に飛ばない方法なんだよ。俺はどうやってこいつに降参宣言を出させるか、それしか勝つ手段がないんだからな。

 なんとかして、こいつのシリアスではない一面を見付けなければ……

 ムサシ・シンマは目を丸くして、俺の行動を見ていた。まあ、分かるわけもないよなあ。対戦が始まって攻撃をしないなんて、俺以外の奴はやらなかっただろうし。

 俺は、ムサシをガン見して弱点を探した。

 奴はゆっくりと、こちらに近付いてくる――


「アルト――!! しっかり――!!」


 ルナが悲鳴にも似た声援を浴びせる。

 ひとつ、その時に気付いた。

 奴の周囲だけ、なんか空気の形が違うような……


「びびってないでダーリン!! ぶちのめせ――!! 殺せ――――!!」


 トゥルー、お前はいろんな意味で物騒すぎだ。乙女が殺すなんて言葉、使っちゃいけません!

 奴の後ろに見えているステージが、僅かに歪んでいる気がする。ほんの僅かだが、角度がおかしいような……まるでそこだけ水の中に居るみたいな感じだ。

 ……サラミはこいつに、どんな攻撃を仕掛けたっけ?

 確か、天使の矢と火の魔法の同時攻撃――……。


「アルトさーん!! 落ち着いてくださーい!!」


 ミヤビの声が、俺の脳内を研ぎ澄ます。

 そうだ。範囲攻撃なのに、ムサシは傷一つ負っていなかった。それどころか、マントのひとつでさえ欠けていなかった。

 ムサシの口は、よく見ると僅かに動いている。


『――くだらん』


 その後、『黒の閃光』はサラミに襲い掛かった。

 あまりの眩しさに全員が目を覆い、その間に勝敗は決着する。場外に飛ばされ、黒焦げになったサラミ。

 その前もあった。モーションがあったはずだ。そうだ、ムサシはサラミに向かって右手を差し出すと、次の瞬間に光は襲い掛かってきた。


「――さらばだ」


 ――――そうか!!


「ルナ!! たのむ!!」


 言いながら、俺は既に至近距離に居るムサシ目掛けて一足飛びに近付き、懐目掛けて右手を伸ばした。

 俺の突飛な行動に、ムサシは驚く。だが伸ばされ始めた手はもはや止まることなく、俺を指し示そうとした。

 間に合うか!?

 間に合ってくれ!!


「<ラビット・ダンス>!!」


 ルナの支援が始まり、俺の俊敏性は著しく上昇する。会場内は静まっている。ルナの特性がバレなきゃいいが……だが、この攻撃をかわすためにはどう考えてもルナの支援が必要だ。

 ムサシに向かって伸びた俺の右腕が、ぐにゃり、と不思議な感触を通して奴の長剣に触れる。

 やっぱり、これは結界の類だ。


「――むっ」


 サラミの攻撃は、こいつに全く効かなかった訳じゃない。

 当たっていなかったんだ。

 無色透明の防御結界なんて反則と言いたくなるが、それがこの世界に存在する魔法なら、それは仕方ない。

 俺はムサシの長剣を引き抜くと、後ろに飛んだ。

 奴の右腕が光り始める――――

 ルナのラビット・ダンスの効果を頼りに、俺はムサシから一瞬にして離れる。

 ――やれるか?

 この、俺に――……


「アルト――――!!」


 ルナの叫びが聞こえた。

 ドン、という大きな何かの音がして、会場内は光に包まれる。

 大丈夫、俺は大丈夫。絶対に大丈夫だ。

 何故なら、ムサシ・シンマは眉を動かして、俺の奇怪な行動を凝視していたから。

 俺は頭を抱えて耳を塞ぎ、地面に伏せた。


 ――ステージ中央、俺とムサシの間に、奴から引き抜いた長剣を突き立てて。


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