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41_勝利のカギは友情です

 タマゴの攻撃を受けた俺は放物線を描くように飛び、そしてステージに仰向けに転がった。いつになく劇画タッチになる俺は、唇から血を垂らしてタマゴに笑い掛けた。

 ――どうだ。これが俺の最後の手段。


「――――なかなかやるな」


 気付けばタマゴもまた、あたかも俺に殴られたかのように仰向けに寝転がっている。

 いや、それはおかしいだろ。

 お前寝ただけだろ。

 思ったが、ちゃんと俺の筋書きに乗ってくれているということで、ここはぐっとツッコむ事を堪えておく。


「お前もな」


 俺は立ち上がり、タマゴに向かって歩いて行く。観客一同、俺とタマゴのやり取りをぐっと集中して見ているようだった。

 ――俺がタマゴに勝つために思い付いた作戦とは、たった一つ。

 勝つのではない。

 引き分けを狙うことだった。


「だが、これから先、どれだけの脅威が俺たちを待ち受けているのか分からない」


 俺はタマゴに向かって手を伸ばし、微笑んだ。

 男の微笑みである。


「ここは俺に任せて欲しい。そして、いつか共に戦おう」

「アルトくん……!!」


 茶番でも何でもいい。とにかく筋書きを作るんだ……!!

 勝利の鍵はそこにある。というか、そこにしかない。


「分かった。決勝戦は、君に任せよう」


 タマゴは手を伸ばし、俺の手を握った。


 ――その日、二人の間に友情が生まれた。


「いつかきっと、共にパーティーを」

「ああ……!!」


 美しい友情が結ばれ、俺たちは『仲間』になった。

 いや、俺、こんな奴を仲間にして大丈夫なのか。もしも何かの間違いでパーティーを作って冒険しなければいけなくなったら、俺は真っ先にこいつを誘わなければいけないということにならないだろうか。

 ……まあ、今はルナを守ることが先決か。


「俺様こと、タマゴ・スピリットは、今後の対戦をアルト・クニミチに任せて辞退するぜ!!」


 高らかに手を挙げて、タマゴは司会にそう言い放つ。何故かハンカチで目元を拭っている観客のお前等、一体何に感動したのか俺に一部始終を説明して欲しい。

 司会は呆然と俺たちを眺めていたが――……ふと気付いて、手を挙げた。


「わ、わかりました!! 勝者!! アルト・クニミチ――――!!」


 俺は右腕を挙げ、勝利者であることをアピールした。観客から温かい拍手が浴びせられる。いつの間にか消えたグローブとマウスピースは、どこかに行ったようだった。

 ほんっと、適当な世界だなあ……。

 ステージからルナ達の下まで戻ると、トゥルーは涙を流していた。

 ……なんで?


「うっ。……うっ。いい話だったよぉ」

「いや、お前それは嘘だろ目を覚ませ」

「ふえ?」


 ルナに預けたシャツを返してもらい、俺は再び服を着る。


「おかえり、アルト」


 ルナが嬉しそうに微笑んだ。俺も微笑み返した。

 いいなあ、こういうの。中身はどうあれ。


「ただいま、ルナ」


 さて――……。とにかく、タマゴ戦はどうにか何の苦労もなく終わったな。あいつが熱い男で助かったというのか、なんというのか。

 念のため、向こうの準決勝を見ておくか――……。ムサシとワドリーテ・アドレーベベ。今度こそ、ワドリーテの正体を見ることが出来るだろう。


 ――そして、


「まいりました」


 俺たちは全員、驚愕の出来事に目を丸くしてステージを凝視していた。

 一瞬だった。ステージに上がるなり、ワドリーテはムサシに向かって頭を下げ、ただ一言、そう宣言したのだ。当然のようにムサシも頷き、準決勝は終わった。決勝に上がるのは、もちろんムサシ・シンマ――……


 こいつら、グルか。ワドリーテ・アドレーベベは、決勝の枠を一つ埋めるために今まで戦ってきたのか。


 俺は黙々とステージから降り、帰って行くワドリーテを追い掛けた。


「ちょっと、アルト!!」


 ルナが声を掛けるが、今は立ち止まっている場合ではなかった。一直線にホール内部まで追い掛けると、もはや見慣れたベレー帽の女は、怪訝な表情で俺に振り返った。


「おや。君は、脇の下」

「それはもういい。……お前、どうしてこんな事をした。ビーハイブ関係の武器チェックを通過させたのも、お前のような人間が絡んでいるな」

「正解。……でも、半分ね」


 生気を失った、といった表現が一番正しいだろうか。ワドリーテはそのような表情になり、ふ、と口の端を吊り上げて笑う。


「武器チェックを通過させたのは、全部私だよ」


 どうしてだろうか。

 どこか、悲しそうな表情をしているように見えたのは。

 ワドリーテ・アドレーベベは俺と距離を縮めた。ふらふらと無表情に近寄る。俺は思わず身構えてしまった。

 そうして胸の前まで来ると、ワドリーテは俺の胸に頭を預けた。

 どこか見覚えのある黒髪が、俺の視界を埋め尽くす。


「誰にも知らされていないと思うけど、『勇者の血』は、本当に勇気を持った時しか武器にならないの。全然分かってないみたいだけど、変な誤魔化しとかしてないで、次はちゃんと覚醒させて」


 ――どうして、俺がそれを持っている事に気付いているのか。

 問い返す暇もなく、ワドリーテは続けた。


「この世界には秘密がある。ぐちゃぐちゃに掻き乱された世界から、ちゃんと元の世界に戻す必要がある。……だから、こんな所で挫けないでよ。まだ、冒険はずっと続くんだから」

「――お前、一体、何を知ってるんだ?」


 ひたすらに、周りを気にしている。もしかしたら、他の連中に見られている可能性を案じてだろうか。ワドリーテは俺から身体を離すと、すぐに二、三歩離れた。

 振り返り際、彼女は俺に言った。



「――――じゃあね。『国道有人』くん」



 ――俺は、

 驚きを隠せなかった。


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