40_死亡フラグは蜜の味です
さて、またしても実況をし難い展開を創り出してしまったが、勝てればなんでもいいだろう。
外道極まりない笑い方で、俺はうずくまって苦しむタマゴの腹を蹴った。
「ッパ…………パァッ……!!」
余程言いたくないらしく、タマゴは『パ』を発音するところで止まってしまっている。別にパンツ以外の単語を言えばいいのに。パイナップルとか、パラッパ○ッパとか、色々あるだろう。
しかし、とにかく隙だらけだ。このまま場外に叩き落としてしまうか。俺は転がるタマゴを場外に突き落とそうと、近付いた。
「んじゃ、まあゲームセットだ。悪く思うなよ」
「パパッ…………パァッ……!!」
やれやれ。案外、相手にもならなかったかもしれない。まともに戦っていたら、たぶん俺の勝ち目はゼロに近かったんだろうが。
しかし、次のムサシ戦ではこんなことは通用しないだろうなー。
「パンツァーファウスト!!」
――あら?
気付いた時には既に遅く、俺は気が付くと屈んでいたタマゴに蹴り上げられ、ステージ中央を放物線を描くように飛んでいた。
痛みも去ることながら、俺はタマゴがついに見付け出した解答に脱帽していた。
パンツァーファウストとは、第二次世界大戦中のドイツ国防軍が使用した対戦車擲弾発射器でだな――……まさか、『パンツ』を単語に入れながら、わりと格好良い単語を選択してくるとは。
――こいつ、本物だ。
「俺様の名前は!! タマゴ・スピリットさ!!」
決めポーズを取ることも忘れない。俺はその決めポーズの背後でステージに激突し、後頭部を強く打ってダウンしていた。
「きゃー!! ダーリーン!!」
トゥルーが絶望の眼差しで悲鳴を上げた。お前は俺の心配をしているのか、それとも俺に勝利するタマゴに心配を感じているのか、一体どっちなんだ。
まあ、どっちでもいいけどさ。
「今度は俺様の番だぜ、アルトくん!!」
いかん。奴の次の攻撃が来る。俺はまるでスタン状態のように、頭の周りを鳥が飛んでいて身動きが取れなかった。
――って本当に飛んどる!?
しかも、よく見ると鳥じゃなかった。なんか天使の顔だけおっさんバージョンみたいな全裸の男が、白い羽をはばたかせて俺の周りを飛んでいた。ラッパを吹いている!!
「おじさんラッパ・キックさ!!」
パンツって言うより余程格好悪いだろォ!? ていうかなんなんだよそれは!!
何キックだよつまり!!
それ食らうとどうなるんだよ!!
こうなるのか!! スタン攻撃か!!
天使の顔だけおっさんバージョンみたいな全裸の男は、周りを回りながら小憎たらしい笑みを浮かべた。
「スタンドアローン」
「それ孤立って意味だから!!」
言いながら、俺はラッパ爺(命名)を殴り飛ばした。意外とあっさり飛んでいき、俺は自由になる。
立ち上がると、仁王立ちして俺が立ち上がるのを待っているタマゴを見た。
小細工はしないってわけか。上等だぜ。
既に小細工だらけだけどな!!
俺は短剣を捨て、上半身の服を脱いだ。あまり見せられる筋肉はないが、服をルナに渡した。
「きゃっ……ちょっ……アルト?」
俺は振り返り、ルナに笑顔を向けた。
「――必ず勝って帰って来るから、その時に返してくれ」
ルナの頬が紅色に染まる。短剣を捨てると、あえて俺は首を鳴らし、そして――グローブを握った。
え、どこから出てきたのグローブとか。まあ、いいやこの際。
本物には本物で対抗しなければな。
「――アルトくん」
タマゴが笑う。俺も笑った。
よし、うまく乗ってきているな。タマゴもリンゴのアップリケを付けた戦闘装束を上半身だけ脱ぎ、ステージ外に投げた。
俺はファイティングポーズを取り、左右にステップを踏んだ。
「冥土の土産に教えてやろう」
タマゴは前傾姿勢を取りながら、言う。
まさかここで死亡フラグが出てくるとは。
「今日が貴様の命日となる!!」
――ん?
「俺様、この戦いが終わったら結婚するんだ……」
死亡フラグ立てすぎだろ!! 馬鹿か!!
だが、ここは乗るが吉だな。
「――言いたいことはそれだけか」
「兄貴が出る幕でもないですよ!!」
「いやキャラクターくらいは安定させてくれよ!!」
俺はグローブを握り、マウスピースをはめると、タマゴに向かって突っ込んだ!!
八の字を描くように回転する。どこからか、高揚感を昂ぶらせるBGMが流れた。
流星の!! 愛が君に!!
「うおおおおおっ!!」
一瞬の!! 光、送って!!
もちろん、タマゴに殴り合って勝てるとは、微塵も考えていない。
俺の上半身のカオスな動きを掻い潜って、タマゴは俺の懐に潜り込んだ。
「デンプシー・ロ――ル!!」
それでも、俺は叫ぶ。
ちなみに、デンプシーロールってのは某ボクシング漫画が最初じゃなくてだな。
ボクシング界には元々ジャック・デンプシーっていうヘビー級の王者がいてだな。
俺はタマゴに殴り上げられ、真っ直ぐに天空へと飛んだ。
アッパーカットを打たれたのだと気付いた時には、既に俺のマウスピースは飛んでいた。
果てしなく痛い。
「五十パーセントくらいか……」
いや、だからね。キャラをね。
もういいや。