39_バーサス決めポーズ、です
戦士選抜、二日目。俺は再び、ステージへと帰って来ていた。
なんと、これに勝てば決勝である。ベストフォーに残ったというのは、個人的にはかなりすごいことだ。ルナとトゥルーの支援もあって、だが。
そういえば、ミヤビって支援魔法も使えるって聞いた気がするけど、一向にその頭角を表さないな。……まあ、戦士選抜は基本的に対戦中の支援は禁止なわけだし、やることもないんだろうけど。
極めてグレーに近いブラック(つまり違反)と、ねちっこい精神攻撃で戦う俺。
外道中の外道である。
なんとでも言え。勝てばよかろうなのだ。
「さて――!! 準決勝だ――っ!!」
観客も盛り上がるなあ。でも、今回の対戦は多分混沌とした展開になるぜ。
薄ら笑いを浮かべながら、俺はステージ端に向かった。
「アルト!! 頑張って!!」
ルナが可愛らしい応援をくれる。俺は軽く手を振ると、ステージに上がった。
「シープコーナー!! 意外な方法で勝ち上がり続けてきた男!! その実況のし辛さは圧倒的!! アルト――!! クニミチ――!!」
悪かったな、戦いが分かり難くて。
「解説のジヨン・カービラさん。彼はどうでしょう」
「ジヨン・カービラです。いやあ、戦士選抜も盛り上がってきましたねー」
お前誰!?
居なかったじゃん!! 決勝トーナメント一回戦ですら居なかったじゃん!!
なんで急に解説とか付いてんの!? そろそろ選抜終わるよ!?
「そうですねー。クニミチは、セントラルのスラングで『脇の下』という意味ですからね。脇が活躍しそうですねー」
てめえ脇の下で挟むぞ!!
「対するは!! 決めポーズだけで敵を圧倒してきたこの男!! 無駄な前振りは天下一品!! タマゴ――――!! スピリット――――!!」
あれ、今日は普通にステージに上がってきた。タマゴは俺を見ると、良い笑顔になって頷いた。
ごめん、悪いけど何のアイコンタクトなのか全然分からない。
なんで急に以心伝心の友みたいになってんの。
「みんな――!! 俺様の名前を――!! 知ってるかい――!?」
しかしタマゴが叫んだ時の、この観客の息のぴったり合った黙り具合は一体何なんだろう。
「タマゴ――!! スピリットさ――――!!」
輝くリンゴのアップリケ。タマゴ・スピリットが壇上に立った。俺はいつも通り、短剣を抜いて構える。
さーて、どうなることやら……
「ダーリン!! そんな変態に負けないで――!!」
トゥルー、応援ありがとう。お前本当にこいつ嫌いなんだな。
応援に邪悪な念がこもってるよ。
とにかく、タマゴ・スピリットは頭のおかしい動きで相手を翻弄し、その中に技を仕込んで戦うという、あざといスタイルらしいということは前回の戦いで学習した。それなら、俺にも考えがある。
俺は喉を鳴らして、試合開始の合図を待った。
「それでは――!! レディー!! ゴ――!!」
開始と同時に俺はタマゴの真正面を避け、ステージ端を走り出した。とにかく、『輝かしい筋肉』を受けてしまったら、俺は戦闘不能になってしまう。それだけは避けなければならない。
どういう効果なのかもよく分からないが、真正面に居るよりは横に逃げていた方が安全なはずだ!!
「アルトくん、俺様の攻撃を恐れているね?」
おっかねえよ!! 悪かったな!!
だが、俺もルナのために勝たなければならない。悪いが、ここは先手で仕掛けさせてもらうぜ……!!
俺はタマゴの横を取ると、タマゴに向かって走った。
「ふんばりっと!!」
この、攻撃を繰り出す瞬間の間抜けな掛け声なんとかならないのかよ。
俺は少しテンションを下げながらも、タマゴに向かって短剣を繰り出した!!
タマゴはその短剣を――手の甲で受け止めている!? な、なんだかよくわからないが、さすがだぜ……だが、俺の攻撃もここからだ!!
「タマゴ!! しりとりをしよう!!」
「しりとり……だと!?」
タマゴが驚いて、目を見開いた。……そう、まず最初にしなければならないことは、俺のペースに乗せること。
奴のペースに乗っかっていては、よく分からない攻撃を受け続ける駒になってしまう。それだけは、なんとしても避けなければならない。
一回戦のフルートのようには、なってはいけないからな。
先手必勝だ!!
「リンゴ!!」
「お、おっとっと……ゴリラ?」
俺は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「――――ラッパ」
タマゴは驚愕の表情になり、頭を抱えた。――もう、気付いただろう。こいつは格好付けるのが得意な男。ならば、ほぼ全てのステータスで負けていそうな俺にも、対抗の手段はあるってことさ。
俺は膝をついたタマゴを、白い目で見詰めた。
「ぐ、うっ……!! まさか、こんなにも速く攻撃を仕掛けられるとは……!!」
「――ほら、言えよ。お前の番だ」
腕を組み、屈んだタマゴの背中を蹴ることも忘れない。奴の目には、俺が残虐非道な男のように映ることだろう。
「……く、くそっ!! なんて奴だ……」
「俺は言えるぜ? ――ほら、言えよ『パンツ』って。この、大勢の観客が居る前で叫んでみろよ」
「ぐっ……!! ぐおおおおっ……!!」
まともに強そうなキャラほど、俺の不得意とするところだ。タマゴはまさに、その真逆を行く存在。尖ったキャラクターには、必ずそれ相応の落ち目や弱点があるということだ。
――悪いがこの勝負、俺の方が優勢だと思うぜ。