38_パーティーと言ったら四人です
俺が戻る頃には、もう最後の試合は終わっていた。ワドリーテの対戦が見られなかったのは仕方がないが、無事にオヤジ? を倒してワドリーテが勝ち上がったようだった。
二回戦は明日行うようなので、俺は一度控室まで戻って来ている。
ルナの手厚いヒールを受けてようやく回復したサラミが、所在ない様子でベッドの上に座っていた。部屋が狭くてほんと申し訳ない。
「……あの、本当にどうもありがとうございました」
「気にしなくていいって。大丈夫か?」
「大丈夫? キューティクル」
「もけー!!」
「おや、そっちのピンク玉じゃなくて、お前の方ね」
こいつ、『もけー』しか言えないのかよ。キューティクルはサラミの周りをぐるぐると飛び回りながら、元気良く答えた。
そういえば、こいつはムサシの攻撃受けてないもんなあ。元気なわけだ。
ルナが腕を組んで、サラミを見詰めていた。トゥルーもいつになく真剣な様子で、椅子に座っている。ミヤビは――寝ていた。モンクはコーラを飲んで――なんでお前まだここに居るんだ。国に帰れよ。お前にも家族がいるだろう。
「あなたは、どういう目的で戦士選抜に参加したの?」
ルナが聞く。サラミはルナを見て、その真剣な様子に少し挙動不審になっていた。もじもじと膝を動かして、手を擦り合わせた。
「……えっと、戦士選抜に勝って、パーティーを組んで、魔物使いとして認めてもらいたいなと」
「じゃあ、ビーハイブとは何の関係もないのね?」
「へ? ビートルズ?」
どうしてそこで一昔前に一世を風靡したバンド名が出てくるんだ。
サラミのすっとぼけた様子にルナは少し安堵した様子だ。やはり、自分をさらう計画をしているビーハイブの人間は、トーナメントに少ない方がいいもんな。
まあ、そのサラミはビーハイブに負けてしまったわけなんだが。
「良かったわ。あなたが普通の人で」
普通ではないと思うが。
「私も、皆さんのような親切な方が居て助かりました。相手がちょっと、強かったので……」
「娘よ、あれは仕方がない。規格外のようなものだ」
上から物を言うモンクの言葉に、サラミは下から上までモンクをまじまじと眺めてから答えた。
「……はあ」
やっぱ、慣れないよね。俺もついこないだまでただのおっさんだと思ってたし。
サラミもあの一回戦を見ているんだろうからな。
そういえば、タマゴ・スピリットが来てないな。何かあったんだろうか。
……ああ、そうか。あいつ次の俺の対戦相手だから、居るわけないよな。
まあ、別に居なくても良いんだが。それを言ってしまうと、トゥルーもモンクも居なくてもいい存在なんだけどな。
「なんかダーリン、今失礼なこと考えなかった?」
「いえ気のせいですが」
「そっかあ。良かった!」
なんて勘の良い奴だ。そういえば、トゥルーはパーティーに混ぜてくれと言ってきた人間な訳で、ハブるのは少し可哀想だった。
サラミが立ち上がって――胸は控えめだが、いい尻をしている――いや、何を考えているんだ俺は。こちらに一礼した。
「あ、あの、ありがとうございました。助かりました。私はこれで、失礼します」
礼をした瞬間に、眼鏡が落ちた。
「あっ。あっ、えっ、わっ」
……落とした眼鏡の位置が分からずに、屈んで眼鏡を一生懸命探していた。
そんなに目が悪いのか。リアルでそれやってる所を俺は初めて見たよ。
いや、ここはトイレの世界なんだけどさ。
「ほら、眼鏡」
「あ、ありがとうございます。バルスさん」
いや、それ目の悪さ関係ねえだろ。
天空の城が崩壊するわ。
「そ、それでは、私はこれで」
「……あんた、これからどうすんだ?」
俺が聞くと、サラミは穏やかに笑った。おお、茶髪おさげの眼鏡娘が穏やかに笑うと、妙にサマになるな。
「――来年の戦士選抜を目指します。私、ぼっちなのでパーティーに誘ってくれる人いないんです」
どこか、寂しそうな顔をしていた。
その後ろ姿を、全員ぼんやりと眺めていた。やがてモンクが立ち上がり、でかい斧を魔法で担いだ。
「……さて、妾もそろそろ国に帰るとするかの」
元々こいつはパーティーを組んだ訳でもなんでもないので、まあ当たり前か。でも、やってたことって結局お菓子食ってただけだよな。
まあ、ビーハイブを潰すためには、こいつもパーティーを組まないといけないわけで――……。
あれ、どうしてパーティーを組まないと国から出られないんだろう。それもまた不思議だな。
戦士選抜が終わったら、サムライさんに聞いてみようか。
「それでは、またの。楽しかったぞ」
「おう。元気でな」
モンク・コーストが消え、再び俺たちは四人になった。
うん、やっぱりパーティーって言ったら四人だよね。このくらいの人数が一番落ち着くぜ。男は俺だけだけどな。
今日はさっさと寝て、明日のタマゴ戦に備えよう。
……そろそろ、家に帰りたいな。ホームシックって訳ではないけれど、もう随分長いこと帰っていない気がする。
学校のみんな、元気かな――……
……考えていたら、気分が悪くなってきた。俺、意外とトイレの世界の方が合っているのかもしれない。