表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/110

38_パーティーと言ったら四人です

 俺が戻る頃には、もう最後の試合は終わっていた。ワドリーテの対戦が見られなかったのは仕方がないが、無事にオヤジ? を倒してワドリーテが勝ち上がったようだった。

 二回戦は明日行うようなので、俺は一度控室まで戻って来ている。

 ルナの手厚いヒールを受けてようやく回復したサラミが、所在ない様子でベッドの上に座っていた。部屋が狭くてほんと申し訳ない。


「……あの、本当にどうもありがとうございました」

「気にしなくていいって。大丈夫か?」

「大丈夫? キューティクル」

「もけー!!」

「おや、そっちのピンク玉じゃなくて、お前の方ね」


 こいつ、『もけー』しか言えないのかよ。キューティクルはサラミの周りをぐるぐると飛び回りながら、元気良く答えた。

 そういえば、こいつはムサシの攻撃受けてないもんなあ。元気なわけだ。

 ルナが腕を組んで、サラミを見詰めていた。トゥルーもいつになく真剣な様子で、椅子に座っている。ミヤビは――寝ていた。モンクはコーラを飲んで――なんでお前まだここに居るんだ。国に帰れよ。お前にも家族がいるだろう。


「あなたは、どういう目的で戦士選抜に参加したの?」


 ルナが聞く。サラミはルナを見て、その真剣な様子に少し挙動不審になっていた。もじもじと膝を動かして、手を擦り合わせた。


「……えっと、戦士選抜に勝って、パーティーを組んで、魔物使いとして認めてもらいたいなと」

「じゃあ、ビーハイブとは何の関係もないのね?」

「へ? ビートルズ?」


 どうしてそこで一昔前に一世を風靡したバンド名が出てくるんだ。

 サラミのすっとぼけた様子にルナは少し安堵した様子だ。やはり、自分をさらう計画をしているビーハイブの人間は、トーナメントに少ない方がいいもんな。

 まあ、そのサラミはビーハイブに負けてしまったわけなんだが。


「良かったわ。あなたが普通の人で」


 普通ではないと思うが。


「私も、皆さんのような親切な方が居て助かりました。相手がちょっと、強かったので……」

「娘よ、あれは仕方がない。規格外のようなものだ」


 上から物を言うモンクの言葉に、サラミは下から上までモンクをまじまじと眺めてから答えた。


「……はあ」


 やっぱ、慣れないよね。俺もついこないだまでただのおっさんだと思ってたし。

 サラミもあの一回戦を見ているんだろうからな。

 そういえば、タマゴ・スピリットが来てないな。何かあったんだろうか。

 ……ああ、そうか。あいつ次の俺の対戦相手だから、居るわけないよな。

 まあ、別に居なくても良いんだが。それを言ってしまうと、トゥルーもモンクも居なくてもいい存在なんだけどな。


「なんかダーリン、今失礼なこと考えなかった?」

「いえ気のせいですが」

「そっかあ。良かった!」


 なんて勘の良い奴だ。そういえば、トゥルーはパーティーに混ぜてくれと言ってきた人間な訳で、ハブるのは少し可哀想だった。

 サラミが立ち上がって――胸は控えめだが、いい尻をしている――いや、何を考えているんだ俺は。こちらに一礼した。


「あ、あの、ありがとうございました。助かりました。私はこれで、失礼します」


 礼をした瞬間に、眼鏡が落ちた。


「あっ。あっ、えっ、わっ」


 ……落とした眼鏡の位置が分からずに、屈んで眼鏡を一生懸命探していた。

 そんなに目が悪いのか。リアルでそれやってる所を俺は初めて見たよ。

 いや、ここはトイレの世界なんだけどさ。


「ほら、眼鏡」

「あ、ありがとうございます。バルスさん」


 いや、それ目の悪さ関係ねえだろ。

 天空の城が崩壊するわ。


「そ、それでは、私はこれで」

「……あんた、これからどうすんだ?」


 俺が聞くと、サラミは穏やかに笑った。おお、茶髪おさげの眼鏡娘が穏やかに笑うと、妙にサマになるな。


「――来年の戦士選抜を目指します。私、ぼっちなのでパーティーに誘ってくれる人いないんです」


 どこか、寂しそうな顔をしていた。

 その後ろ姿を、全員ぼんやりと眺めていた。やがてモンクが立ち上がり、でかい斧を魔法で担いだ。


「……さて、妾もそろそろ国に帰るとするかの」


 元々こいつはパーティーを組んだ訳でもなんでもないので、まあ当たり前か。でも、やってたことって結局お菓子食ってただけだよな。

 まあ、ビーハイブを潰すためには、こいつもパーティーを組まないといけないわけで――……。

 あれ、どうしてパーティーを組まないと国から出られないんだろう。それもまた不思議だな。

 戦士選抜が終わったら、サムライさんに聞いてみようか。


「それでは、またの。楽しかったぞ」

「おう。元気でな」


 モンク・コーストが消え、再び俺たちは四人になった。

 うん、やっぱりパーティーって言ったら四人だよね。このくらいの人数が一番落ち着くぜ。男は俺だけだけどな。

 今日はさっさと寝て、明日のタマゴ戦に備えよう。

 ……そろそろ、家に帰りたいな。ホームシックって訳ではないけれど、もう随分長いこと帰っていない気がする。

 学校のみんな、元気かな――……

 ……考えていたら、気分が悪くなってきた。俺、意外とトイレの世界の方が合っているのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ