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33_『戦士』はロリっ子です

 奴の説明をする前に言っておくっ!! 俺は今、奴の真相をほんのちょっぴりだが体験した!!

 あ、ありのままに今起こった出来事を話すぜ……!!


 俺は中年過ぎたぐらいのおっさんと戦っていたと思ったら

 そいつの胸は(若干)膨らんでいた


 な……何を言っているのかわからねーと思うが

 俺も、何が起きたのか分からなかった……


「や、やめろ!! 小僧、何をしている!!」


 その時の俺は、一体どんな顔をしていたのだろう。よく見れば、喉仏の所に何か光るものがある。

 そっと擦ると、その光が消えた。


「は、あっ……!! あんっ……!!」


 やめろ、変な声を出すな。

 おそらく、声質の変化は魔法だったのだろう。消えると、何だか妙に可愛らしい女の子のそれに変化した。

 ……と、いうことは。俺は顎鬚を掴むと、強く引っ張った。


「あっ、ちょっと、やめ、やめろっ!!」


 べりべり、と音がして、顎鬚が取れた。同時に、筋肉質だった腕や脚はすごく華奢な女の子のそれになり、気が付くとそこには。

 ただの白髪の、褐色の女の子が横たわっていた。

 見掛け倒しだとか変装だとか、そんなチャチなものじゃあ、断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの、片鱗を味わったぜ……。


「お、女だ――――!? モンク・コースト選手、実は女だった――――!! なんだそりゃ――――!!」


 なんだそりゃ、とか言われてるぞ。

 なんだそりゃ。

 俺も言っちゃった。


「……こ、こぞう」


 何だろう。さっきまでは、小僧って呼ばれることにちょっとしたプレッシャーを感じていた筈なんだけど。

 俺は少女のほっぺたをつんつんと突付いた。


「あっ!! ……こ、こぞうっ……!! やめろっ!!」


 あー、ね。

 どうしよう。どう反応したらいいんだろう、これは。


「……なんで、男になろうと思ったの?」

「だ、だって!! こんな小さな女が戦っていると知ったら、お前たちは舐めてかかるではないか!! 悔しかったのだ、妾だって、妾だって、立派な戦士であるに!!」


 なんだろう。この、幼稚園児とかがごっこ遊びで戦う時の『俺だって本当は強いんだもん!!』を素でいくような発言。

 俺の中に、唐突に湧き出た温泉のようなあたたかい気持ちが生まれた。

 俺は思わず、モンクの頭を撫でた。


「やっ、やめろ!! あた、あたまを撫でるなっ!! そして、そろそろそこをどけっ!!」

「はいはい」


 言われた通りに立ち上がる。まあ、いつまでも馬乗りになっている訳にもいかないしな。

 しかし、驚異的な事実だ。これのお陰で、絶望的と思われたこの対戦もひっくり返りそうな気がしてきたが。

 何しろ、最強無敵の戦士と思われた中年男性が実は見掛け倒しで、小さな少女だったって言うんだもんな……。これは衝撃的だぜ。

 モンクは立ち上がると、斧を持とうとしていた。


「あっ、おもっ……!! あ、そうだ、魔法を使わないと……」


 素では持てないらしい。

 なるほど、道理でミヤビが「振り回すのが大変そう」という感想を持っていたのだ。確かに、自分の身の丈ほどもある斧を軽々と振り回すなんて、そう簡単にはいかないか。何らかの魔法が絡んでいると考えても不思議じゃない。

 俺はモンクが魔法を掛け直す前に、モンクに近付いた。


「ちょ、ちょっとまて!! 今、魔法を掛け直す!!」

「待つか馬鹿。お前の弱点を知った以上、もう好き放題はさせねえよ」

「い、いやだいやだ!! 私はお前をひとひねりするのだ!!」


 話し方にもボロが出てきたぞ、モンクよ。

 俺は穏やかな笑顔になって、モンクの頭を撫でた。


「いいか、モンク。一捻りっていうのはな、そう簡単にはいかないんだ」

「えっ……、そうなのか……?」

「そうだ。せんべいというのがあるだろう?」


 俺はモンクの唇をなぞる。すると、せんべいのことを思い出したのか、モンクがずる、とヨダレをすすった。

 いやあ、自分より背が低いと思っていたら、実はロリっ子だったなんて。

 しかも白髪褐色だったなんて。俺、結構そういう女子力(物理)なノリ、好きだぜ。


「あれを捻って揚げるのがひとひねりだ。結構難しいだろう」

「……そ、そうなのか? たしかに、それは難しいな」


 適当な話をした。それは一捻りではなく、ただの『ひねりあげ』である。

 俺は場外を指差し、爽やかな笑顔でモンクに言った。


「よし、ひねりあげを食べに行こう!! モンク!!」

「うん、わかった!! 小僧も付いて来い!!」

「おう、後で行くよ」


 そして、モンクは走り――ステージを、降りた。

 俺はルナに目配せをして、モンクの回収に行かせる。呆然と見ていたルナは目が覚めたように、慌ててモンクのそばに行った。

 そして――俺は右腕を高らかに掲げた。


「な、何が起こったんだ? 実況し辛いな……」


 ガチの本音が漏れていらっしゃる。ごめんなさい、いつも変な勝ち方で。


「と、とにかく勝ったのはアルト・クニミチだ――!! 二回戦に進出するのは、アルト・クニミチです!!」


 申し訳程度の歓声が上がった。まあ、あまりに状況が状況なので仕方がないと言えば。

 俺はルナとトゥルーとミヤビの元に戻り、首を鳴らした。いやあ、接戦だったぜ。あと一歩気付くのが遅ければ、負けていただろうな。

 ……別に、大人気なくはないぞ。


「あれ? 妾は負けたのか……?」

「すまないが、俺の勝ちだ。お互い、よく頑張った。お前、トゥルーと同じくらいには強かったぜ」


 俺はそう言って、モンクの頭を撫でた。あれ? あんまり嫌そうじゃないな。どういう心境の変化なんだろうか。

 嬉しそうに笑って、俺に言った。


「うん!! ひねりあげ食べたい!!」


 ……ま、いいか。


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