28_お風呂場でハーレム（？）です
当然のように風呂場に入って来たトゥルーは、バスタオルを巻いていた。いや、何かを身に付けてるから良いとか、そういう事ではないと思う。
俺は慌てて、トゥルーから背を向ける。
「ダーリン、お背中流してあげるー」
「いらねえよ！！ お前は何故世の銭湯が男女に別れているのか、少しは察しろ！！」
「え、別れてるのとか見たことないんだけど。そんな所あるの？」
え、この世界には無いの！？ 俺、またすごい所に飛ばされてきたな！！
まあ確かに、ファンタジーの世界で風呂ってあんまり見ないけどさ！！
湯浴み？ 水浴び？ まあ、風呂ではないよな。あまり。
トゥルーは俺の背中にぴったりとくっついてきた！！
「もう――、ダーリンったらあ、恥ずかしがり屋さんっ」
「恥ずかしがり屋さんっ、とか、可愛く言えば良いと思ってんじゃおわ――！！」
俺の言葉は、そこで切り替わった。
目の前に先程の金髪ムキムキマッチョマンが現れたからだ。
なんで！？ ちゃんと鍵閉めたはず……ってこじ開けられとる！！
「アルト、ひどいじゃないか鍵まで閉めるなんて。流石の俺様もヒヤっとしたよ」
「いやほんとあんた誰！？ 怖すぎるわ！！」
「俺様のファイティング・スピリットさえあれば、鍵の一つや二つ楽勝さ」
「お前は鍵屋か！！」
俺は思わずムキムキマッチョマンに背を向け、後ろの人間に抱き付いてってうわ――！！
こっちもまったく健全じゃねえ！！
「きゃっ。ダーリンったらあ、ダ・イ・タ・ン」
「もうこんな風呂嫌じゃ――！！」
「私も入りま――す！！」
何も考えずに入って来たミヤビが俺に向かって渾身のジャンプ！！ こいつはそこまで危険なバディはしていないけど年齢的にはあんまりよくない！！
お前は大人しくシモンズにでも入ってろ！！
俺はミヤビを受け止めて、うわ意外と肌が柔らかくってやばい！！
ここに居ると変な気分になりそうだ……！！
「さあ！！ アルト！！ 俺様の胸に飛び込んで来いよ！！」
色んな意味で！！
「ちょっと、何風呂場で騒いで――」
――ああ、ルナさん、ちーっす。
一同、ルナを見て固まった。
飛び込んで来たミヤビを受け止めている俺と、その背中に張り付いているトゥルーと、今にも俺に襲い掛かろうとしている謎のムキムキマッチョマンを見て、ルナは。
「……え？ あんた誰？」
ムキムキマッチョマンを見て、そう言った。ムキムキマッチョマンは爽やかな笑顔で、ルナに謎アピールをしている。
って誰も知らなかったアァ――――！！
「初めまして。俺はタマゴ・スピリット」
今更自己紹介来たアァ――――！！
っていうかタマゴ・スピリットって何！？ 卵魂！？ 卵かけごはんでも食ってろ！！
「好物はナポリタン」
いやそこは卵って言っとけよ嘘でも！！
卵魂が聞いて呆れるわ！！
タマゴと名乗ったムキムキマッチョマンは爽やかに笑ってルナに近寄り、握手を求める。
「キャ――――！！」
ルナがマッチョマンを見て、叫び声を上げた。当たり前だ。こいつ何も着てないんだから。
ドタドタと音を立てて、後ろからもう一人現れる。
「ルナ様！！ 大丈夫でいらっしゃいますか！？」
プレゼントさんがマッチョマンを見て、顔色を変えた。
瞬間、ルナが――俺に向かって飛んでくる。一体なんだこの状況は。
マッチョマンがルナをこっちに向かって投げたせいだと気付いたのは、少し後のことだった。俺はルナが怪我をしないよう、瞬間的にミヤビを離し、その柔肌を受け止めて――
――その、攻防を見た。
「――やはり、君に化けたか。残念ながら、お付きに化けて主人を狙うのは常套手段だ」
「くっ……タマゴ・スピリット……何故、貴様が……」
全裸のマッチョマンはプレゼントさんに向かって手刀を繰り出し、爽やかな笑顔のままでいた。手刀をプレゼントさんは受け止め、青い顔をしてマッチョマンを見ている。
……なんだ、この状況。展開が急すぎてまったく付いて行けないんだが。
「君たちがやっている事は知っている。フェアじゃないな、『王女の口付け』は選ばれるからこそ、受け取る価値があるというものだ」
瞬間、プレゼントさんの様子が変化した。背中が盛り上がり、翼が生える。ボブカットだった髪は伸び、銀髪になった。って、男……！？ プレゼントさんは男に変化し、マッチョマンの攻撃を受け止めていた。
――しまった。そうか、俺とトゥルーとミヤビがここに居るということは、ルナは一人になっていたのか……。
ルナの王宮とはいえ、完全に油断していた。
「タマゴ・スピリット。勇者に選ばれていないお前に、この私が止められるとは思えんが」
「――俺様に勇者の武器などいらないのだよ。スターだからね」
な……
何を言っているんだ、こいつは。アホか。勇者とスター、何も関係ないだろうが。
だが、空気的にあんまり突っ込む余裕がない。
「また会おう、アルト・クニミチ。ルナ・セント」
銀髪の男は翼で身体を隠すと、何かの魔法で消えてしまった。
ふう、と一息ついて再び浴槽に入ろうとするマッチョマン――ってだから、あんた誰よ。
「……あ、あんたは？」
「改めて、俺様はタマゴ・スピリット。『彼ら』と対抗するに当たって、俺様は有力な情報を持っているぜ」
マッチョマン改め、タマゴは俺に手を伸ばすと、笑った。
「俺様はタマゴ・スピリットさ！！」
いや名前言い過ぎだろ。
「ひ――！！ マッチョきもい――！！」
トゥルーが筆頭で風呂から出て、どこかに逃げて行った。俺はその様子を見て、なんとなく彼の手を握り返すことができず、苦笑した。
「……と、とりあえず、ここを出てお話しませんか？」
「はっ……！！ まったくだ！！ そうだよな！！ ありがとうミヤビ！！」
ところで、ルナはというと。
「アルト……アルトがはだか……」
理由は分からないが、なんか顔を真っ赤にして伸びていた。
