27_お風呂場でラブラブ(?)です
そしてその日、俺は見た。
あれほどに髪の長かったミヤビが、まだ長いとはいえ腰くらいまでの長髪にし、前髪を綺麗に切り揃えている姿を。初めて桃色の唇をはっきりと見ることが出来たし、くりくりとした大きな瞳も邪魔すぎる髪越しに眺めることもない。
ミヤビはシモンズから出て、恥ずかしそうに俺の前に立っていた。
「ミヤビ様のお髪があまりに長すぎて邪魔でしたので、ばっさりとカットさせて頂きました」
「いやまずあんた誰よ」
「申し遅れまして、わたくしルナ様のお付きのメイドで、プレゼント・ヘヴンと申します」
プレゼント・ヘヴン……冥土の土産とでも言いたいのだろうか。頼むから名前をギャグにするのはやめてくれ。
いや、しかし。それにしても、まさかあのミヤビがこんなに可愛くなるとは……背が小さい事も相まって、さながら妹属性のようだ。ついこの間まで出来損ないのちび○子のようだったのに、もはやその面影もない。
いや、ちっちゃいホラーって意味ね。某エッセイマンガの主人公じゃないぜ。
「……あ、あの。アルトさん」
ミヤビは恥ずかしそうに身を捩らせて、もじもじしている。そんな馬鹿な。ミヤビが可愛くなったら世界の終わりだと思っていた。
言い過ぎか。さすがに酷いな俺。
俺は正直に、そのままの感想を伝えることにした。
「お前、可愛いな」
「えっ!? 本当、です、かっ!?」
ミヤビは何故か驚愕の眼で俺を見て、ずい、と身を乗り出した。風呂上がりのつやつやとした肌が俺を変な気持ちにさせる。
いや、待て。こいつは元・ちび○子だ。ちび○子……
まず、家のトイレから出てきた奴が可愛いってのも。まあ、あの時はわりと可愛かったが。
「しかし、魔力はいいのか?」
「あ、あれは嘘です」
「嘘かよ!!」
中途半端に信憑性の高いホラ吹いてんじゃねーよ!! 紛らわしいだろうが!!
まあ、思えばサムライさんも趣味だと言っていたしな。
「アルトさん、長い髪が好きだと仰っていたので」
「一度もそんな事を言った記憶はない好きだが」
いかん、本音が漏れて変な日本語になってしまった。
ミヤビは俺の言葉に頬を赤らめて、そっと左手を握った。柔らかい感触にドキっとさせられる。
ミヤビは頬に手を当てて、言う。
「……じゃあ、私をシモンズまで連れて行ってください」
「え、いやー。それは、嫌だな……」
ああ、まああれか。小さい妹をトイレに連れて行くと思えば、そこまで嫌な気分もしないか。
「キャー!! ミヤビ様、可愛いですわ!!」
本当にお前は一体誰なんだよ。
ルナの王宮の風呂は大変広く、露天もあるようだった。まるでホテルか旅館の大浴場だな。中央に配置された月の女神的なオブジェクトはさておき、広い風呂というものは心地が良いものだ。
家の風呂は小さいからな。俺もたまに、銭湯には行きたくなった。でもホテルや旅館の大浴場と違って、銭湯って実は行くと少しだけがっかりすることあるよね、広いだけで。
俺は身体を洗うと、外に出て露天風呂に浸かった。
「ほふー」
いや、寒すぎず、暑すぎず。外も湯の中も、良い気温だ。
ん? なんか、湯の中に人の影らしきものが見えるな……俺は目を凝らして、その先を見る。
……まさか、本当にトゥルーが入って来たりとか、しないよな。うん、奴もそこまで節操のない娘ではあるまい。
さっきまでは大分節操のない感じだったが。
「良い湯・だ・なっ。アハハン」
……なんか、歌っている。男の声だ。
やたらと筋肉質な影だ。
「良い湯・だ・なっ。アハハン」
アハハンじゃねえよ。
お前、ここ誰の家の風呂だと思ってるんだ。
いや、もしかしたら王宮の誰かかもしれないし、なんとも言えないか。むしろ、働いてくれている人だったら客の俺は挨拶すべきか。
俺は近付き、その男に声を掛けた。
「いやあ、良い湯ですね」
「まったくだよ青年。俺様も大変に気持ちが良い」
俺様って……
ま、まあ。あまり悪い人ではなさそうだぞ。爽やかな感じだ。
近付くと、インナーマッスルのすごそうな爽やかイケメンが現れた。
金髪のイケメンって、栄えるな。
「決勝トーナメント進出、おめでとう。アルト・クニミチ」
「あれ? 俺のこと、知ってるんですか?」
「もちろんさ。王宮では噂になっているからね」
ルナが言っているのだろうか。いや、なんというか照れるな。
「いやー。申し訳ない。俺なんかが勝ち上がってしまって」
「そんな事無いよ。君も立派な戦士さ」
俺が近付いた、その瞬間だった。
金髪の爽やかムキムキマッチョマンは立ち上がると、俺の下顎に人差し指を這わせた。
「――ところで君、良い身体してるね」
俺は逃げ出した。
すかさず露天から戻り、扉を閉める。鍵も閉めた。ぜえぜえと、荒い息が収まらない。
――ああそうか、夢か。
ふー、何か悪い夢を見ていたようだぜ……
俺は浴槽に腰を下ろした。
「どうしたの?」
「ああ、ちょっとものすごく凶悪な幻覚に襲われてな……」
「幻覚? やばいよ、ダーリン大丈夫?」
……ん?
「連戦だから、ちょっと休んだ方が良いんじゃ……」
いやいやいや待て待て待て!!
それ駄目だから!! 少年誌で規制が入るやつだから!!