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22_アルトさんと嫁入り競争です

 さて、ここまでの流れをおさらいしよう。

 サムライさんに言われ、『勇者の血』こと別名アホ踊りの剣をまともな武器にするため、戦士選抜に参加した俺。どうやらこの戦士選抜、とてつもない人数の戦士が参加しているようだった。

 どうも、このイベントの優勝者が貰える『王女の口付け』とやらは、勇者シリーズを覚醒させるための大切なアイテムらしいということが分かった。

 戦士選抜で俺は、支援魔法の使えない支援系ダンサー『ルナ・セント』と出会う。初めはただの金髪美女だったが、正体はなんとセントラル・シティの王女だった! ルナは異世界からきた人間(つまり俺の世界のことだ)に興味があるらしく、俺とルナは戦士選抜にヒーラーとしてルナを使命する代わり、俺の世界に連れて行くという交換条件を呑むことで結託した。

 そこで、戦士選抜にはルナを狙って捕獲を企もうという連中――エルメス・ジョーズとその仲間が居ることを知る。奴等は催し物の垣根を越え、容赦なく対戦相手を瀕死にしようと目論んでいる。

 ルナが奴等と何の警戒もなく触れる機会は、たった一回。優勝者に与えられる『王女の口付け』の譲渡時、手渡しする瞬間だ。

 その瞬間に連れ去られないよう、俺は戦士選抜を勝ち抜くことにしたのだった。


 さて、何故今更になってこんな話をおさらいしているかと言えば、この戦士選抜、次に勝ち抜けばいよいよ決勝トーナメントに入るらしい。

 まったく何のルール説明もされなかった俺は(第八話参照)、何故か勝ち上がる事に成功しているため、ここに存在している。

 苦い顔になってしまうのは仕方がない。


「アルトさんアルトさん!! ついにベストエイトに残りそうですね!!」

「……ああ、本当にな。まったく理解できんが、そういうことらしいな」


 ミヤビの言葉に俺は頷き、トーナメント表を見た。

 そもそも、とてつもない人数が居たはずのトーナメントで何故かトップバッターになってしまった俺は、このトーナメント表を真面目に見る時間すらなかった。四回戦まで勝ち上がると、一度トーナメント表が切れているのだ。

 そして、そこから先は八人で再度トーナメントを組み直すらしい。ということは、俺はこの対戦に勝ちさえすれば、Aブロック代表として戦うということだ。

 Aブロック代表が呪いの言葉使いでいいのか。運営よ。


「私、アルトさんと一緒に冒険できる日を楽しみにしてますから!」


 ミヤビの純粋な笑顔が胸に痛い。……すまんミヤビ、俺、この選抜に勝ったとしても『勇者の血』に選ばれてないから一緒に旅はできないんだが。

 俺は敏捷の鉢巻を巻いた。四回戦でベストエイトになるってことは、一ブロックあたりの人数は十六人。実に、十六掛けることの八で百二十八人もの人数が、この戦士選抜に参加していたことになる。


 ……ん? 百二十八人?

 じゃあ何で、俺のナンバープレートはナンバーオブ・ビーストなんだ……


 ……まあ、いいや。とにかく、これを勝ち抜けば決勝トーナメントだ。


「アルト、次も勝ってね」


 俺の左腕に張り付いているトゥルーが言う。ただでさえミヤビを押しているのに、ものすごく歩き難いんだが。

 一歩後ろから、ルナが付いて来ていた。


「離れなさいよトゥルー。アルトが迷惑してるでしょ」

「えー、やだー。お嫁さんにしてくれる、愛してるって言ってくれたもーん」


 嫁にするとは一言も言ってないが。というか、ものすごい態度の変わり様だな。

 これが(まるで)イケメン(のような)笑顔の力なのか……

 ルナは額に青筋を浮かべながら、俺の右腕を引っ掴んだ。


「……おい、ルナ」


 ルナは不貞腐れている!!

 可愛いが、これから戦闘だということを考えると気が重い。

 何せ、この格好で観客の目に触れなければいけないのだからな。

 そんなことを考えながら、俺は太陽の光を浴びた。


「シープコーナー!! 名立たる強豪を一蹴!! ハーレム・キング!! 我らの最強の敵!! アルト・クニミチ――!!」


 紹介が悪化した!!


「なんと、彼のセコンドには三回戦で戦ったトゥルー・ローズも付いています!! まさか、対戦の最中に惚れてしまったか――!?」

「みんな――!! 私トゥルー・ローズは、アルトさんとお付き合いすることになりました――!!」


 観客から酷いブーイングが飛んだ。いや、勘違いにせよ、祝福とかできないのかよお前等。


「こら――!! あなた本妻をなんだと思ってるの――!!」


 ……本妻、て。ルナ、お前も振り回され始めてきたな。

 言ってから、ルナの顔が真っ赤に染まった。恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。


「二股だ――!! アルト・クニミチ、二股を掛けています!! 最低だ――!!」

「ブ――!!」


 ほら、実況も酷い事言うし。観客の俺への評価も最悪になるし。俺はため息をついて、ステージに上がった。トゥルーとルナからも離れる。

 こんな事に付き合ってられるか。


「ホースコーナー!! その特異な武器で対戦相手を翻弄し、ここまで残ってきました!! 若干十二歳にして、大人よりも強い!! ビストロ・クワトーロ――!!」


 ああ、そっちは声援なんだ。なんという違い。

 三回戦が(トゥルーが)強すぎて、あんまり脅威には感じないけど。四回戦は野球帽を被り、スケートボードを持った少年が相手らしい。帽子を被り直すと、少年は不敵に笑った。

 ……あまり、舐めて掛からない方が良いだろう。四回戦と言ったら、いよいよ強さは本物だ。


「ねえ、スケベなお兄ちゃん」

「初っ端から失礼なガキだな!! ぶん殴るぞ!!」


 ほんとにぶん殴るぞ!!


「ルナ・セントだけくれれば、後は好きにしていいんだけど」


 ――俺は、面食らったような表情になることを抑えられなかった。

 まさか、こいつは。トゥルーが例外だっただけで、どいつもこいつもルナを捕獲することばかり考えてやがる。

 こんな少年までもが――……


 天誅、下さなければなるまい。


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