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20_勝利の秘訣は乙女チック、です

 トゥルーに斬り掛かった俺は固まってしまい、一切動く事ができなくなってしまった。その様子を見て、トゥルーが残酷な笑みを浮かべる。

 一体、どういうことだ? 俺は何かに気付いた気がして、数秒前を思い返した。

 思い返した瞬間――俺は、蹴り飛ばされていた。


「モモンガァ――!!」


 蹴りは痛い!! 蹴りは!!

 そのまま、俺は再びルナの足元へと転がっていく。綺麗に三回転すると、俺はすぐに体制を立て直した。


「アルト!!」

「ルナ、支援頼む!!」


 注文も忘れない。今はラビット・ダンスがないと、こいつのスピードには付いて行けそうもない。

 跳躍力だけじゃない、この支援、俺の動体視力も向上するみたいだ。

 さて、モモンガ流、憲法。定義こそ意味不明だったが、こいつはつまり、拳法と憲法の融合だ。

 おそらく魔力のようなもので、このステージ上に決められたルールを作る能力。

 この手の類のもんは、効果範囲が決まっているのが一般的だ。


「……どれくらいなんだ、範囲のほどは」

「範囲に気付くなんて、なかなかやるじゃない。――あたしの憲法の効果時間は三分、効果範囲は半径二メートル。……だけど、接近戦なら二メートルなんて障害でもなんでもないわ」


 ご丁寧に説明ありがとう!! 対策が打てるじゃないか。

 つまり、三分さえ経過すれば、『モモンガと言わなければ攻撃できない』憲法が解けるってわけか。

 ――ん? モモンガと言わなければ攻撃できない?


「憲法第二条!! 『効果音が全てモモンガになる』!!」


 考えているうちに、二つ目がきた。――いかんいかん、今回の相手は思考時間なんて待ってはくれないぞ。

 俺は場外にならないよう、ステージ中央にいるトゥルーに向かって走る。


「受けなさい!! <モモンガ中段の拳>!!」


 トゥルーから繰り出された拳を、俺は剣の腹で受け止めた。

 衝撃波が走って、剣と拳のぶつかる鈍い音が場内に響き――


『モモンガ!!』


 ……まじか。

 続け様に、トゥルーから繰り出される乱舞を俺は短剣で受け止める。そういえば、ラビット・ダンスの効果時間は何分なんだろう。最初の大跳躍以降、叩き付けられてからは時間が分からなくなっていたが。

 トゥルーがモモンガモモンガ言いながら繰り出す攻撃を、俺は必死になって受け止めた。何か――何か、勝つための手段があるはずだ。


「モモンガモモンガモモンガ……」

『モモンガモモンガモモンガ……」


 だあァ!! トゥルーの言葉と効果音が一緒になってモモンガ乱舞を繰り出すせいで、ちっとも集中できねえ――

 とか言っている間に俺は受け切れず、そのまま殴られた。


「げっふんっ」


 世にも情けない声が俺の口から漏れた。

 ――だが、その時俺は見た。

 一瞬、トゥルーのエロい衣装からちらりと覗いた胸元が、俺の視界に入った。

 俺の目線に気付いたトゥルーが羞恥に顔を染める。

 ――見えた!!


『モモンガモモンガ……』


 俺が飛ばされて転ぶ音も『モモンガ』になりやがる。

 間抜けな上、鬱陶しくて仕方がない。


「だ、大丈夫!? アルト!!」


 何度もルナの足元に来るせいで、すっかりルナの表情は曇り空だ。

 どうにか、しなければな。


「……ああ。お前のお陰でどうにか戦いになってるぜ」

「さ、さすがに今回は無理かな? ……もしアレだったら、降参しても」

「安心しろ。たった今、俺は勝つための手段を手に入れたとこだ」

「――え」


 俺は立ち上がった。見ると、既にHPバーはレッドゾーンに突入していた。RPGで言うところのレッドゾーンと言えば、もうあと一発も攻撃を受ければ瀕死になってしまう状態を意味する。

 ――上等だぜ。


「まだやる気? 正直弱すぎて話にならないんですけど!」


 トゥルーは相変わらず、馬鹿にした態度で俺を見た。

 俺は不敵な笑みを浮かべて、汗を垂らした。ステージ中央にいるトゥルーに近付いていくと、右手を前に差し出し、『止まれ』のポーズになった。


「何言ってるんだ? 戦いはまだ何も始まってないぜ」

「……は? 始まる前にもう終わってんじゃない」

「――今から、俺の本気だ。覚悟しておいた方がいい」

「はっ、上等!!」


 トゥルーが鬼神のような顔になり、俺に向かって本気で走って来る。

 大丈夫だ。俺は自分に言い聞かせる。もう、俺は殴られない。

 そっちが憲法なら、俺は――

 トゥルーが一瞬にして俺の顔面すぐ近くに現れる。まったく、驚異的な素早さだぜ。


「<モモンガ上段のとう>!!」


 俺は笑みを浮かべたまま、精一杯のイケメンボイスを創り出し、呟いた。


「――綺麗だ」

「はえっ!?」


 俺の脇をトゥルーはすり抜け、初めて俺に攻撃を当てることができず、自らの勢いによって前につんのめった。

 おお、こいつが転ぶ所を今日、初めて見たぞ。


「おおっと――!? アルト選手、一体何をしたんだ――!!」


 まあ、分からないだろうな。

 俺は格好付けてステージ中央に立ち、額に指を当ててトゥルーに振り返った。

 背後に薔薇を咲かせるのも忘れない。


「トゥルー・ローズ。君はまるで戦場に咲く一輪の薔薇だ」


 トゥルー・ローズの強みは、男女関係なく圧倒的な体術を持って殴り掛かることができること。おそらく、相手にとってすれば女性を攻撃するのは抵抗があったに違いない。俺は弱すぎて話にならないが。

 だが、男女関係なく接するということは、つまり『性的な話』に滅法弱いということだ。ジェンダーフリーなシナリオにしか対応できないに違いない。


「はっ!? え、ええっ……ちょ、あんた何言って……」


 ――予想通り、トゥルーは混乱している。

 立場、逆転だぜ。




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