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17_奇襲の意味はあまりありません

 夜遅くの出来事だった。

 俺は物音を感じ、目を覚ました。普段なら、こんなことで目は覚めない。もしかしたら、いつもと違う場所で寝ているため、寝付きが悪くなっているのかもしれない。

 すうと、身体を起こす。ミヤビは相変わらずシモンズの中で頭から毛布を被って眠っていて――怖いわ。毛布を避けたら居ませんでしたってオチじゃないだろうな。

 ルナは、俺の隣で寝ていた。

 ……いや、変なことはしてないぞ。単にベッドが一つしかないから、隣で寝てるってだけだ。

 俺は短剣を手に取り、部屋の外へ出た。


「――誰か、居るのか?」


 声を掛けたが、反応はない。

 俺は口元に手を添え、暗闇に目を凝らして辺りを見回した。円形のホールは廊下も円形になっていて、先を見るとやがて窓に阻まれてしまう。

 ……うーむ、まいったな。

 こんな場所では、隠れるのも自由だな――


「マツボックリクリクリ」


 ……隠れてない。めっちゃ聞こえる。


「マツボックリクリクリ」


 ああ、めっちゃ聞こえる!!

 偵察の意味ねえ!!

 俺は一人、あまりの情けなさに涙を流した。


「ルナを守っているとかいうのは、あの男かクリクリ?」

「そうみたいだクリクリ。我々の音もない偵察に気付くんだから、大したもんだクリクリ」


 いやめっちゃ音出てるから!! お前達が気付いてないだけだから!!

 俺はその声の主を探す。……マツボックリとか言ってたから、あんまり大きくはないかもしれないってでっかっ!!

 突っ込みもさることながら、俺は剣を抜いた。

 なんだこれは、サッカーボールくらいには大きな……コウモリか!? コウモリにしては身体が丸く、そして目元はくりくりと愛らしい感じになっているが……申し訳程度に被られたシルクハットが、何故か逆さを向いているのに落ちていない。

 そんな生物が数十体、上からぶら下がっていた。

 いや、どうして今まで気付かなかった俺。


「お前がマツボックリか。一体俺たちに何の用だ」

「いや、私はスッゴイデッカイ・コウモリだ」

「マツボックリじゃねえのかよ!!」


 スッゴイデッカイなんとかってシリーズなのかよ!!

 心の中で突っ込みを入れつつ、俺はコウモリに剣を掲げる。


「悪いが、ここを通す訳にはいかない」


 防具は一切無いが、この際このまま戦うしかあるまい。

 中ではミヤビもルナも寝ている。ミヤビはこんな所で魔法を使う訳にいかないし、ルナはもともと戦闘要員じゃない。

 ここは俺が追っ払わなければ……

 瞬間、あっさりと俺は横から殴られ、吹っ飛ばされた。痛々しい音を立てながら、廊下を転がる。


「お前は邪魔だクリクリ」

「なんだ、戦闘の方は大したことないクリクリ」


 これあれか、なんとか羊と同じ感じで、弱そうだけど強いってそういうタイプかよ。

 コウモリがゾウより強いってありなん……?

 やばい、扉の中に通す訳には……!!


「おいお前らァ!!」


 俺は立ち上がり、大きなコウモリ達をずい、と見渡した。

 数十体ほどのサッカーボール大のコウモリが、揃って俺を見る。……ごめん、超怖い。死ぬほど怖い。

 だが、今は戦わなければ……!!


「なんだクリクリ」

「まだ殴られたいのかクリクリ」


 くそ、間抜けな語尾共め。戦いは腕っ節だけじゃない所を見せてやるぜ。


「題名。『恐怖の味噌汁』」


 今にも扉を開けようとしていたコウモリ達が、顔色を変えた。俺は暗闇の中、さも亡霊のようにゆらりとふらつき、コウモリ達に近付く。

 無駄にコツ、コツと靴音を響かせる。ヒョオオ、という風の音を口から演じるのも忘れない。


「ある、夜の出来事でした。私があの事件に遭遇したのは」

「……な、何だコイツ。さっきとはまるで様子が違うクリクリ」

「怯えることはないクリクリ。さっさと殴り飛ばせば良いクリクリ」

「お前行けクリクリ」

「お前が行けクリクリ」


 よーし、怯えているな。……何故怯えているのか、俺にも分からん。まだ何も言ってねえよ。

 だが、この世界の連中はやたらとこういう言葉責めに弱いということが分かったのは、収穫だったな。


「私が家に帰ろうとすると、どこからか何かのニオイがするのです。……どこからだろう。不穏なそのニオイは、何故か私が家に向かうと、より強くなっていきます」


 両手を前に出し、ゾンビのようにコウモリに近付いた。コウモリ達はガタガタと震え、俺から離れた。

 ……よし、扉は一応守れそうだぞ。


「なんだろう。どうしたんだろう。分からないのに、ニオイはやがて強くなっていきます。……その時でした。私は家の扉を開けようとドアノブに触れると、ある事に気付きました。中で、何かが煮えている……!!」

「な、なんだクリクリ……!!」


 ずい、と俺はコウモリに近付き。

 白目を剥いて、八重歯を見せた。


「今日……麩の味噌汁よおォォ――――!!」

「ギャ――!!」


 ……おお。コウモリ達が逃げ帰って行く。

 訳が分からないが、素晴らしい効果だな……


「るっさい死ね!!」

「おわあっ!?」


 と思ったら、コウモリが吹っ飛んで帰って来た。俺は唐突に襲い掛かったコウモリ(気絶)のマシンガンを受けて、思わず転んでしまった。

 なんだ……!? 暗闇の中から、何か人が現れた……!!


「うるさくて眠れないんだけど!!」


 そうか、よく考えたら今は他の人達も寝ている時間じゃないか。

 少し悪いことをしてしまったな……


「あんた親玉!?」


 戦士にしては高い声で、転んだ俺の前につかつかと歩いて来た。やがて、近付くことでそいつの様子がうっすらと見えてくる。

 そいつは俺のそばに歩いて来てゲフゥッ!!

 ――腹を踏まれた。

 顔よりも先に、胸に目が行ったのは俺がスケベだからでは無いはずだ。

 ここは誤魔化すが吉だな。


「……いえ、替え玉です」

「いくらよ!!」


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