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15_おすわりに抗える動物はいません

 振動に身を転がしながら、俺はどうにか生きながらえていた。ルナのくれた敏捷の鉢巻のお陰で、ゾウの動きを一応確認し、避けることができる。エルメスの時は相手が遅いだけかと思ったが、どうやらそういうことではないらしい。

 しかし、弱点が背中のてっぺんにあるのに腹の下を逃げ回っている俺に勝ち目はなく、とにかくひたすら攻撃をかわすことで精一杯になっていた。


「アルト――!! しっかり――!!」


 ありがとうルナ、今となってはお前のお陰で生きてるようなもんだぜ。

 ゾウに踏み潰されてジ・エンドなんてまっぴらだ。

 一瞬でもいい。こいつの気を逸らす事ができれば――……

 俺は邪悪な笑みを浮かべ、腹にある目と口目掛けて言った。


「スッゴイデッカイ・ゾウよ!!」

「――どうした? 急に自信満々になって」


 俺は飛び上がり、ゾウの攻撃を避ける。二回転して体制を立て直すと、しっかりと目を見据えて言った。


「――中二病って、知ってるか」


 笑うことも忘れない。

 これで、相手は動きを止め――

 ――ないか。やっぱ。相手ゾウだもんね。中学二年生がどうとか、ないよね。

 俺は涙を流し、ゾウの腹の下から逃げ出した。振動に何度もずっこけながら、ステージの端――二人の居る場所へと、走って逃げる。


「おおっと――!? アルト選手、防戦一方だ!! 呪いの言葉もゾウには通じないか――!!」


 まず、気付けよ。相手がゾウってなんかおかしいだろ。

 観客も、見世物小屋じゃないんだからもうちょっと平常心持ってくれよ。

 俺は全速力でゾウから逃げると、ステージ端のルナに向かってヘッドスライディングした。ステージにしがみついていないと、振動で場外になってしまうかもしれない。


「ルナ!!」

「大丈夫!? どうにか、あいつの上に登れれば……」


 俺は涙ながらに、ルナに訴える。


「――降参していい?」

「ダ・メ」

「選抜に出てなくても、守るからさ」

「嫌よ。優勝杯の壇上じゃ守るに守れないでしょ」


 鬼か。俺はお前のために戦っているんだぞ。

 ゾウが迫ってくるたびに、振動が厳しくて動きが鈍る。一体どうしたらいいんだ……!! 俺は立ち上がると、ゾウを見た。

 五メートル、あるよなあ。やっぱ。……登るのなんて、不可能なんじゃないのか。

 ……でも、よく見てみたら踏み付けこそ速いものの、移動速度自体は遅いな。


「アルトさん、鼻から登るというのはどうでしょう!!」

「無理だろ、あんなにブルンブルンしてるもんをどうしろと」

「尻尾からは?」

「変わんねーよ」


 そろそろ、ここに居るのも限界だな。俺はステージ端を走り回って、近付いてくるゾウを振り切った。

 腹の下は死角だと思ったのが、そもそもの間違いだ。図体のでかい奴は動きが鈍い。一番初めに抑えておかなければいけない内容だったぜ。

 さて、どうやって反撃しようか……ルナとミヤビの声が遠ざかり、何を言っているのか分からなくなる。俺はゾウ側のコーナーまで走り切ると、振り返ってゾウを見た。

 案の定、まだこちらに来るまでには時間がありそうだな。

 ……ん?


「ちょこまかと!!」


 なんかゾウが喋っているが、それはいい。

 俺はステージ端に居る、あれは多分ヒーラーだろう――男の存在を見た。

 小さな縄を握っている。犬の散歩に付ける首輪のようだが――……

 ――ピンときた。


「そろそろ降参したまえ、アルトくん」

「おっさんヒーラーか? 悪いが、俺は降参しない。約束しちまったもんでなあ!」

「君の存在さえ居なくなれば、ルナ・セントの捕獲自体は大したことないのだから」


 くそ。こいつもルナを追い掛けてる奴か。優勝した後にどうにかしようってんだな。

 この場でルナに攻撃すれば、さすがに観客もまともな運営も黙っていない。おそらくは、壇上で唯一、ルナと優勝者が触れ合うほどに近くなるってタイミングだ。

 おそらくそこで、何かを仕掛けるつもりだ。

 見てろ。


「こっちだ、ゾウ!!」


 目の前に巨大なゾウが近付いてくる。体長が五メートルもあれば、ステージの端から端は十歩掛からない距離だ。着々と近付いてくるゾウに、俺は言った。


「<おすわり>!!」

「な……」


 俺の目の前で、巨大なゾウが尻餅をついた。やはりか。体長五メートルはあろうかというゾウが、人の出入りする場所を通れるわけがない。

 つまり、こいつは元は小さかったってことだ。おそらく、魔力か何かで巨大化しているのだろう。

 俺は近付いて、ゾウの急所目指して顔を上げ――

 ……登れないだろ、これ。


「小癪な!! これくらいの事で私が倒れると思うなよ!!」

「既に倒れてるじゃん。どうなんだ、お前の本体はやはり腹なのか」

「はっはっは!! バカめ、全て本体だ!! 弱点は背中にあるのだ!!」


 へー、そうなんだ。分かりやすいのね。ミヤビの情報は、どうやら本物らしいな。

 しかし、どうしたもんかな。動く五メートルなんて登ったことないし……

 ……おや? ルナが手招きしている。


「<おすわり>!!」

「ぐあァ!!」


 とりあえずゾウを大人しくさせて、俺はルナのもとへ走った。

 俺が近付くと、ルナは小声で俺に耳打ちした。


「応援に見せ掛けて、支援するから。走って、飛び上がって」

「……いいのか? それはルール違反なんじゃ」

「武器もへったくれもない連中にルールもないでしょ!!」


 ……まあ、確かにそうか。エルメスはともかく、まだ一応こいつはルール違反はしていなさそうだけど。

 ま、勝てりゃなんでもいいか。

 俺はルナに背を向け、ゾウに向かって走った。


「この、まだまだ……」

「<おすわり>!!」

「ぎゃふんっ!!」


 ひとまずコイツは、機能停止だ。俺は高く跳躍するため、ステップを踏んだ。



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