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14_怪物もアリです

 戦士選抜が終わるまでの間、俺はルナ・セントを守ることに決めた。得体の知れない連中ことエルメス・ジョーズの仲間たちが、ルナを狙って戦士選抜に紛れ込んでいるといった由来だ。

 すなわちそれは、戦士選抜で勝ち抜かなければならない事を意味する。

 ルナを連れて歩く以上、俺は内側からこそこそと事態の収拾を付ける、といった作戦が取れなくなるからだ。そして、俺は一つ大きな勘違いをしていた。

 戦士選抜には、王女はあまり関係しないらしい。王女専用の観客席などというものもないし、挨拶もしないようだ。そもそも、王女の存在事態が形式的なものらしい。

 なるほど、道理でルナが俺の後ろにいても、何も騒ぎが起きないわけだ。

 ルナ・セントが戦士選抜で行うことは、たった一つ。

 優勝者に『王女の口付け』を授ける時に、王女の格好をして壇上に上がるというものだ。

 逆に言えば、ルナの登場はその時に絞られる。それまで俺とミヤビと一緒に居れば、ルナは襲われることがない。

 後は、誰が優勝するかだが――……。


「アルトさん、がんばってくださいね!!」

「おー」


 やる気のない声を出して、俺はステージに上がった。別に勝ち上がりたかないが、ルナは一応、数少ない『今の世界に疑問を持つ者』だからな。

 ここで少し、恩を売っておいても損はしないだろう。

 少しだけ、準備運動をしておくか。どれだけの効果があるのか知らないが――……

 ステージの反対側に上がってきた『それ』を見て、俺は口を開けて固まった。


「……ああ、こういうのもアリなの?」


 ――マンモスだ。

 全長五メートルはあろうかという、巨大なマンモスが立っている。

 胸(?)に付けられたナンバープレートの数値は四十四。ナンバーオブ・ビーストの称号は是非、彼に授けたい。


「きたー!! シープコーナー、一回戦では相手をひと踏み!! スッゴイデッカイ・ゾウだ――!!」


 めっちゃ適当だな名前!? 逆に愛嬌あるわ!!

 すっごいでっかいぞう!!

 俺は申し訳程度の短剣を抜くが、まずこれはダメージなんて与えられそうにない。こいつにもレベルがあるんだろうか……一体、あの羊が十五だとしたらいくつくらいなんだ。


「……アルト、大丈夫……? 頑張って……」

「……お、おう……」


 思わぬゾウの出現に苦笑いをして、ルナが俺のことを応援する。マジか。勝ち抜くなんて言わなければ良かった。

 どうやって戦えば良いんだ……


「対するは!! 一回戦では謎の呪いにより、強豪エルメス・ジョーズをあっさりと倒した両手に花!! アルト・クニミチ――!!」


 一応、ミヤビは花扱いなのか。俺にはどう見ても、前髪が長すぎて奇人にしか見えないんだが。

 まあしかし、一回戦よりはいくらか司会者の発言がマシになったような気がする。


「アルトさん!! そういえばスッゴイデッカイ・ゾウには弱点があるって、聞いたことがあります!!」

「なにっ!? ナイスだミヤビ!!」


 異世界始まって以来のファインプレーかもわからん!!


「ゾウの弱点は、背中の鱗を鼻の先から数えて十五番目、背骨の間です!!」

「それつまりどこだよ!!」


 俺は目の前に広がる、もやは壁も同然の物体を上まで眺めた。まずどうやってこのホールに入って来たのかちゃんと見ていなかったが、鼻の先はえらく固そうで、そこから鱗が背中まで繋がっている。

 つまり、あれを数えて十五番目ってことは……背中のてっぺんってことだ。

 俺にこれを登れと……


「レディー!! ゴー!!」


 ゾウは何食わぬ顔で、俺を踏み潰しに掛かった。真上に広がるゾウの影に、俺は咄嗟に避ける場所を考える。

 四本は足があるわけで、奴はどこからでも俺を潰しに掛かることができるってわけで――

 考えている間に、目前まで足が迫っていた。俺は場所を決め、ゾウの腹の下に向かって走る。


「お前の死角は腹の下!! 潜られれば、どこに居るのかなんて分からねーだろーが!!」


 ――瞬間。

 とてつもない地響きと共に、俺の身体は宙に浮き、バランスを崩して転がった。

 やばいやばいやばい死ぬ死ぬ死ぬ!!

 しかしまあ、これで奴は俺を見失な――――


「……」


 俺は、腹の下から真上を見上げた。

 巨大なゾウの腹には、二つの丸く愛らしい目と口。

 ……そうか、こいつ魔物だったか。ただのすっごいでっかいゾウじゃなかったんだな。

 その目と口は、俺の場所を確認すると微笑んだ。


 俺も微笑んだ。


「嘘だろ――!!」


 怒った顔になった腹の下の目と口が、俺の居場所を指示してゾウの足を誘導する。踏みつけるたびにとてつもない地鳴りと振動で、俺は立っていることもままならない。

 周囲の観客の声など、もはや俺の耳には届かなかった。

 まるで腹の下に居る奴を踏みつけるためだけにあるかのような目と口。間抜けなのかグロテスクなのか分からないが、とにかくこのままでは俺は死ぬ。

 ああ、どうして教会とリザレクションがあるのかどうかをルナに確認しなかった、俺。

 異世界誕生の話に気を取られて、すっかり忘れていたじゃないか。


「お前も王女の下僕ならば、王女の下僕として大人しく死ぬがよい」


 ――ゾウが、喋った。


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