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12_中二病は呪いの言葉です

 俺の言葉に、エルメスはぐらりと体制を崩し――初めて、膝を突いた。

 ふう。ようやく、シャイニングフォースブリザードの効果が解けたようだ。俺は水と化した元魔法を後に、前へと一歩を踏み出した。


「なっ……何だ、その言葉は……別に何かをされている訳ではないのに、胸が苦しい……!!」

「知らないようだな、エルメス。これは本当に危険だ。命を落としても、悪く思うなよ……」


 俺はエルメスを指差した。

 鷹のように鋭い目で、真っ直ぐに膝を突いたエルメスを見据える。額に巻き付けた敏捷の鉢巻が、会場の風ではためいた。

 ふっ……。

 ……俺にも、何故効果があるのか分からないぜ……


「中学生の頃、自分は幽霊が見えると信じていた。夜な夜な霊を呼ぶための儀式を真面目に考えた!!」

「ぐああっ……!!」


 胸を抑えて、エルメスが一歩後ろに後退する。


「な、何だ!? ナンバーオブ・ビースト、アルト・クニミチ!! 謎の言葉を発したと思ったら、エルメスの様子がおかしくなったぞー!?」


 司会者にも、何が起こっているのか分からないようだ。ぶっちゃけ俺にも、よく分からない。

 ――だが、これに乗らない手はない。

 俺は着々とエルメスに近付き、短剣を鞘に納めると指を差し続けた。


「超能力が使えると言って透視を訓練した!! 自分には謎の力が眠っている『かもしれない』と思い、謎の力を呼び覚ますためにアホな踊りをした!!」

「や……やめろ!!」


 尋常ではない反応の仕方だ。――ここは、沸点を合わせていくべきだろう。

 まあ、見た目が格好良さを重視する奴だということは分かり切っている事だし、もしかしたらこの世界でも経験があったのかもしれないな。


「もちろん透視なんて――できなかったアァ!!」

「やめろお――――!!」


 俺はステージの真ん中に立つと、蔑んだ目でエルメスを見詰めた。

 エルメスはがくがくと膝を震わせながら、俺から離れていく。


「自分は二重人格者だ。だから、あるはずの記憶が無いことにした。無駄に自分のことを『俺様』とか『オラ』って言うようにしてみた。オッス、オラエルメス!! もちろんかめ○め波とか出せないぜ!!」

「おあああ――――!!」


 ……なんだろう、この状況。


「の、呪いの言葉だ――!! アルト選手、呪いの言葉をエルメスにぶつけています!! 彼は呪いの使い手だったのか――!!」


 違うけど、まあそれでいいよ。

『中二病』。万国共通に伝わる、十三歳から十五歳にかけての男子学生が総じて掛かる病気だ。その影響は凄まじく、後世に渡ってショックを覚え続けるのだという。

 まあ、嘘だけどね。

 エルメスはどんどん俺から遠ざかり、ステージの端へと進んでいく。

 さて、仕上げに入るか。


「えー、マジ? あいつ、二重人格とか言ってんのー? マジキモいんですけどー。『ごっこ』が許されるのはー、小学生までだよねー。キャハハー」

「た、助けてくれ!! 誰かあ――!!」


 エルメスは後ろへと逃げ、そして――

 ステージから落ち、転んだ。


 ざわ、と一瞬の声のあと、静寂に包まれる。


 そして――次に浴びせられる、大量の歓声。

 おお、わりと気持ちいいぞ。


「場外だ――!! エルメス選手、場外――!! 勝ったのは、恐るべき呪いの言葉の使い手!! アルト・クニミチだ――!!」


 歓声を浴びながら、俺はがたがたと震えるエルメスの首根っこを捕まえ、ルナとミヤビの下に戻った。

 戦闘はできなくても、わりと戦うことって出来るもんだな。少し新しいことを学習したぜ。

 有人は呪いの言葉(中二病)を覚えた!!


「お疲れさまです、アルトさーん!!」

「おう、お疲れ。どうにか勝ったみたいだな。控室に戻ろうぜ」


 俺はミヤビの台車にエルメスを乗せ、控室に向かって台車を押した。

 ルナが怪訝な顔をして、俺を見ている。怪訝と言うよりは、おぞましいものを見たという感想だろうか。


「ねえ……何だったの、今の……」

「え? 聞いてただろ? 呪いの言葉だよ。俺たちの世界では、総じて男には破壊的な威力があるんだ」

「……あ、そう……」



 控室は選手ごとに個別に用意されているらしく、俺は入り口を覆う幕を上げ、中へと入った。この巨大なホールの中は、小さな個室が山ほどあるらしい。

 一回戦が終わって、今日はこれで終わりらしい。まあ、あれだけの数の人間が居たら、一人ずつ戦っていたらあっという間に夜になっちまうよなあ。

 やっぱり、戦力差がある場合はすぐに終わるんだろう。俺とエルメスの場合が特殊なくらいだと思う。

 当のエルメスはすっかり戦意を失って、縄に縛られていた。


「さて、まずお前に聞きたいことがある」

「ひっ」


 俺はエルメスを指差すと、言葉を突き付けた。

 もう俺の言葉が何でも恐怖になっているんじゃないだろうか。ちょっと、これはこれで面白いな。


「どうして、ルナを捕まえようとしていた」

「え? 私?」


 ルナがすっとぼけた声で、自分を指差していた。

 俺はエルメスの長剣を抜いて、ルナに見せる。瞬間、ルナの顔色が変わった。

 そりゃあ、そうだ。刃を殺されていない剣で戦っていたということは、一歩間違えば俺は死ぬ所だったんだから。事の終わりはあまりに間抜けだったが――……。こいつが馬鹿で助かったぜ。


「……わ、私、運営に言ってくる!!」

「いや、待て。お前は危険だ。今はこいつから情報を聞き出そう。あとで俺が言う」

「アルトさん、私が行きましょうか!!」

「それ俺が行くのと同じじゃねーか!!」


 今、ルナはこの個室に居た方がいい。今日はもう、戦いは無いわけだし――……

 ――あ、そうか。もう、今日は終わりなんじゃないか。

 俺は、ミヤビにそっと耳打ちした。


「ミヤビ、一旦家に帰れないか? こいつを追い出したら、ここに居るのは危険だ」

「あ、そうですね。私達は、ここに居る意味ないですもんね」


 ミヤビはシモンズの中から魔法瓶を取り出した。

 便利だなー、これ。


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