11_シャイニングフォースブリザードは足を凍らせる魔法です
二度、三度、攻防を続ける。ある程度戦って降参しようと思っていた俺は、その剣を見て顔色を変えた。あまり洒落になっていない。
まだ教会があって、そこに復活機能があるのかどうかも分からないのに。
いや、それは関係ないか。
「何を企んでる」
俺は聞いた。――まあでも、聞いただけであっさりと答えてくれるとは思えんが。
案の定、エルメスとかいう男は不敵な笑みを浮かべるばかりで、何も話そうとはしない。
「ボクの攻撃が剣技だけだとは、思わない方がいいな」
マジか。こいつ、魔法使えるのかよ。エルメスは俺から距離を取り、長剣を真上に構えると、なんだか手を光らせていた。
これあれか、魔力のエフェクトとかいうやつだな。かっこいいモーションしやがって。
回避、できるんだろうか。この俺に。
「<シャイニングフォースブリザード>!!」
「お前が使うのかよ!!」
はっ……!? しまった、あまりの衝撃に思わず突っ込んでしまい、回避を忘れていた!!
シャイニングフォースブリザードは無数に蒼い光線を放ち、俺をシューティングゲームの球の如く取り囲んだ。あー。これ、回避あんま意味ねーわ。どうやって避けるんだこんなの。
「アルト、避けて!!」
ルナが叫ぶ。無茶言うな。
そのまま、俺の足目掛けて飛んできた光線は――俺の足を氷漬けにしていき――やがて――俺の足を氷漬けにした。
足だけかよ!! 心配して損したよ!!
「ふっ。レベル、二だ……」
二かよ!!
決めポーズで格好付けてもさすがにそれはあんまり格好良くならないぞ、悪いけど。
しかし、足の動きが封じられてしまったな。シャイニングフォースブリザードは、相手の足止めをする氷魔法か。
……ださいな。
「あんまり悠長に考えている暇は無いんじゃないかい!?」
――そう、そうなのだ。分かっている。HPが減るとかじゃなく、足止めをする魔法をエルメスが撃ってきた理由。俺のステップがエルメスの攻撃を回避する鍵になっていると気付いたのだろう。
さて、そろそろ潮時かな。降参すべきか。
エルメスの件は、別に無理して選抜で倒さなくともどうにかなることだ。
背後で何が起こっているのかも分からない事だし、戦士選抜は一旦抜けて――
「そらそらそら!!」
「ちょっ、おま、お前待て話せば分かる!!」
短剣のリーチでは届かない距離で素早く攻撃を仕掛けてくるが、そんな事は問題じゃない。俺が手を挙げる暇がない事が大変に問題だ。
俺は今こいつと戦いたくないのに!! 分かるだろ、別に俺に必殺技とかねえんだよ!!
「さあ、この剣舞!! どうやってしのぐ!?」
確かに素早い、俺の今の速度では追い付くのがやっとで、とてもではないが反撃などできない。
だけど、この敏捷の鉢巻とかいうのが効いているのか、動きを目で追う事はできる。それをどうにか受け、かわし、俺はエルメスの隙を探した。
息が上がらないことがせめてもの救いだ。
「アルト!! 頑張って!!」
ルナの声援が耳に届く。後ろで美女に応援されているという状況は、それなりに俺にとってプラスだ。
「アルトさーん!! ファイトですー!!」
ミヤビは……まあ、ありがとう。
連続した攻撃を一貫した上半身の動きでどうにか避け、俺は返しのタイミングを伺った。
コンボ重視の格闘ゲームには、『固め』という行動がある。ラッシュの攻撃で相手を無理矢理ガードに追い込み、中段下段択を駆使して相手のガードを崩す、というものだ。
すなわち、今これは同じ状態……!!
「くそ、どうして受け続けられる!?」
言ってなかったなあ、エルメスよ。
俺、格闘ゲームは死ぬほどやり込んでるんだよ。
カプ○ンもアー○も全ゲームの全キャラ使い倒したし、十一フレームまでなら素で反応できるんだ。
俺はエルメスの死角を突き止めた。すなわち、相手のラッシュの死角に付け入る攻撃。
ガードキャンセル。
手首のスナップを活かし、俺は短剣で攻撃を受け、その反動を利用してエルメスの喉元に突きを仕掛けたっ――!!
「……こ、これは……!!」
観客が湧いた。
残念だが、届かなかったらしい。
俺は息を荒らげて――息が上がっている。どうやら上限が飛躍的に上がっただけで、普通に息が上がったりはするらしい。短剣を届かない喉元にぴたりと合わせたまま、俺は硬直する。
エルメスもまた、弾かれた長剣を構え直す隙はないが、どうにか足止めを仕掛けていたお陰で攻撃が当たらずに済んだようだ。
「ち……!! ルナ・セントの首を持ち帰らないと、俺の昇進が……!!」
わざと言ったのか、つい漏れてしまったのか。どうやら、狙いはミヤビではなくルナらしい。
俺は目線を後ろに、ルナを見た。
不安そうな顔をして、俺を見ている。……あいつ、追われていたのか。どうして追われているんだ。
そういえば、俺のことを異世界の住人だって見破った事だしな。もしかしたら、何か秘密を隠しているのかもしれない。
「――刃の殺されていない剣が通過するということは、運営側にもお前の仲間が居るんだな?」
俺はゆっくりと、エルメスに言った。観客は騒いでいる、誰にも聞こえてはいないだろう。
エルメスは残虐な笑みを浮かべ、距離を取って長剣を構えた。
「君には関係ない、脇の下。大人しく降参して、後ろのルナ・セントを寄越すんだな」
前言撤回。やっぱり、こいつは倒そう。俺は短剣を前に構えた。
別に、脇の下と言われたからじゃない。激しく腹が立つが、それが原因ではない。断じて無い。
何でかと言えば、いかにも小物という感じで、捕まえれば情報が聞き出せそうだからだ。
しかし、先程までの攻防を考えると、俺がこいつに勝てる可能性は低そうだ。向こうは魔法を使えるし、俺と同じ速度でリーチの長い長剣を振ってくる。
さすがに格ゲーの知識だけでは、少しきつそうだ。大体、固められている事自体が負け確定って言ってるようなもんなんだよ。
小物にも勝てない俺。可哀想に。
さて、どうしたものか……
「なあ、エルメスよ」
「……なんだ」
俺は不敵な笑みを浮かべ、言った。
「――中二病って、知ってるか?」