10_戦士選抜、開始です
ひとまず、ミヤビはルナに任せる事にした。非常によく寝る奴なので、俺が戦っている間も大人しくしているだろう。多分。
しかし、王女の口付けって一体何なんだろう。どういうアイテムなんだろうか。トーヘンボクの悪魔と戦うために必要、みたいなことをサムライさんは言っていたけど。
どの道、『勇者の血』に耐性のない俺では、勝ったとしても『王女の口付け』とやらをワノクニに授けるくらいしか出来ないな。
「対戦ルールは特にありません!! 場外に出るか、降参するか、立ち上がれなくなった時点で勝敗の決着です!!」
……結構物騒だな、戦士選抜。
それとなく、周りの男達を見た。皆一様にムキムキマッチョで、斧や長剣、あれは……鉄球か? そんなものを武器として構えているようだ。
これ、みんなセントラル・シティで用意されたものなのか。そりゃすごい。
武器は結構種類があるな。扇子みたいなものを持ってる奴もいるし、あれは……ヌンチャク。杖を持っている奴もいるし、銃なんていうのも有りなのか。
え、銃が有りなのか……俺もそれにすればよかった。銃の奴に当たったら、素直に降参しよう。死ぬ。
「トーナメント形式になっているので、追って発表します!! それでは――、選抜開始だーっ!!」
「「イエー!!」」
どうも、このバラエティ番組みたいなノリに付いて行けない。
開会式が終わって、俺は後ろにいるルナとミヤビのもとに戻った。ミヤビが嬉しそうに、俺に手を振っている。あいつも前髪だけでも切れば、ちょっとは可愛くなると思うんだが。
……まあ、無理か。下半身トイレだしな。
「お疲れ様」
「アルトさんかっこいいです!!」
「まだ何もしてねーよ」
そして、これから格好悪い醜態を惜しげも無く晒すことになる。
――ふ、いいさ。この世界に来てから、わりともう慣れっこだからな。
巨大な掲示板に、あれは魔法なのだろう。映像が映し出され、トーナメント表が表示された。
俺は一番左から二番目。……なに?
「初戦ね、アルト」
「まじか」
ちょっと観察とかできないのかよ。運悪いな。対戦相手は……エルメス・ジョーズ? 鞄でも売ってろ。
俺はため息をついて、再びステージへと向かった。
「アルト」
俺は振り返り、ルナを見た。しかし、こいつ綺麗だな。この世界の住人じゃなかったら、惚れていたかもしれない。
残念ながら、現代に来ればこいつもそれは雄大なキラキラネームだ。後で母さんに会わせる事になるんだろうが、名前はぼかした方が良いだろうな。
ルナは白い帯を取り出すと、俺の額に巻いた。
「……これは?」
「敏捷の鉢巻。少しだけ速く動けるようになるわ」
これはありがたい。アクセサリー的なアイテムもあるんだな。
「がんばって」
「……おう。支援、よろしく」
何だかちょっとだけ良いムードになった気がしたのは、多分俺の気のせいだ。
「シープコーナー!! 素晴らしき美貌で周囲の女性陣を虜に!! 戦闘スタイルはすらりと栄える長剣!! エルメース・ジョーズー!!」
バラエティ番組は、気が付けばプロレス的なそれに変わっていた。もしかしたら、戦闘中も実況したりとか……あるかもしれないな。うざそうだ。
エルメスとやらが壇上に上がる。声援の中に黄色いものが混じっていた。ウエーブの緑髪が神々しく光っている。かっこいい顔をしやがって……
なんか、こいつに降参するのは少し気が引けてきたな。
「ホースコーナー!! 背中に支援系女子と謎の女子を引き連れて、パーティー気取りか!? アルト・クニミチ!!」
……あれ? 俺の時だけ実況酷くない?
気のせいか……
「さあ、短剣対長剣の戦いです!! 勝利の女神はどちらに微笑むのか!! レディー……ゴー!!」
「がんばれアルトさーん!!」
ミヤビの応援が聞こえる。一応、それっぽく戦っている振りはしないとな。俺は短剣を構え、エルメスに向かった。エルメスは長剣を――かっこいい抜き方しやがって――抜き、俺に襲い掛かってくる。
ふんばり小剣術は、ステップで相手の懐に入る剣術だ。刺す動きと、引く動き。長剣のリーチで戦っていては、俺は分が悪い。
……あれ、なんでわりと真面目に考察してるんだ、俺。
「せいっ!!」
エルメスの長剣を、一歩下がって俺は避けた。さらりと鮮やかにかわし、今度は前にステップ。一、二と突きを繰り出す。エルメスがそれを、擦れ違いざまに避けていく。
二人の位置は入れ替わり、俺は振り返った。
――観客が湧いた。
あれ、意外とやれてるじゃん、俺。この鉢巻のお陰かな。
今度は積極的に攻めてみるか。
「ふんばりっと!!」
俺から変な声が漏れたのは気のせいだ。
俺はエルメスに向かって走り、右手を突き出した。エルメスはそれを刃を横に構え、受ける。
硬直状態に持ち込んだ俺は、そのまま短剣を突き出し――……
そして、見た。
――なんだ。こいつの剣、刃が殺されてないじゃないか。
「――気付いたね」
エルメスが残虐な笑みを浮かべた。――武器屋に行った時、戦士選抜用の武器は全て刃が殺してあった。俺のだって例外じゃない。一応催し物なので、そこらへんはしっかりとやっていないと危険なはず……
一体、どうして? ここに入る時、武器チェックもあったぞ。それを通過したってことだ。
「まあ、大人しく負けてくれれば、殺しはしないよ」
「お前――なんだ? 何を考えてる」
なおも両者は硬直し、力を入れ続けている。……駄目だ、今の俺じゃこの手の攻防は全然話にならない。腕が痺れてきた。
だが、やばい。今力を抜いたら、死ぬ。
「どうして君が彼女と一緒にいるのか分からないけど、ここに居る以上は僕の敵だ」
彼女? ――ミヤビか? ルナか?
どちらにしても、この状況。まさか――殺す気、ってことか……?