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107_私はアルトさんの敵ですか?

 眩い光が廊下一帯に広がった。

 俺達は目を覆って光を回避する。

 音はなく、ただ光の放出だけが続いた。程なくして光がおさまると、俺は目を開いた。

 懐かしい金髪の美女は目を開いて、自身の身体を確認していた。あまり見た目がルナ・セントと変わらないからだろう、トゥルーが眉根を寄せてルナを見ていた。

 シンマ・ウォーリアが、ルナの前まで歩いて行く。そして――シンマは、ルナの前で跪いた。


「……顔を上げてください、シンマ・ウォーリア」

「大変ご無沙汰しております。……その節は、大変申し訳無く思います。ルナ王妃」

「いいえ。私こそまんまと罠に嵌まってしまい、貴方の手を煩わせてしまいました。……今、私は王妃ではなく、一人も魔法使い。魔法使いとして、羞恥を覚えます」


 ルナ・セイント。

 聖なる国と呼ばれる、帝都ルナティックの王妃。犯罪者討伐の際、その類稀なる魔力が必要になり、俺のパーティーに入る。国王はそれを嫌がっていたが、世界の一大事とあり、仕方なく娘を送り出した。

 ルナティックで最も剣の腕の立つ男、シンマ・ウォーリアを王妃の側近として付ける事によって、危険を回避しようとした。

 何故か、そのような歴史だけが俺の頭に浮かぶ。


「……え? ……え?」


 シンマとルナを交互に見ながら、トゥルーが混乱して声を漏らした。すぐ側に、パスタ・ホリティーアが駆け寄っていく。


「王妃、無事で何よりです」

「パスタ。シンマに呼ばれて、駆け付けてくれたのですね。協力、感謝します」

「いえいえー。ぼくは、自分にできることをやっただけですよー」


 ノー・マルドを目覚めさせ、俺の手に戻した。そういう事だろうか。

 既にミヤビは声もなく、ただ俺の後ろに居た。

 段々と、俺も思い出してきた。それが合図なのかどうなのか、シンマは振り返って俺に笑い掛けた。


「――お前の事だ。そろそろ、思い出してきたんじゃないか?」


 否応も無しにな。

 しかし、全く戦闘のできないトゥルーが『武闘家』で、魔物嫌いのサラミが『魔物使い』とは、どういう事かと思う。トゥルーはともかく、サラミはそこまで旅に関わってきた訳でもないので、縁は薄いが。

 俺はトゥルーに歩み寄った。サラミには、こいつをプレゼントしてやるとしよう。


「サラミ。これで、お前も元に戻ろう」


 俺は右手を天井に向けた。さらさらとした光の粒が集まり、それは球体を形作っていく。

 今の魔力があれば、この世界の常識を捻じ曲げることだって可能だ。

 程なくして、それは一体の『魔物もどき』を創り出した。


「もけー!!」


 キューティクルがサラミの周りを飛び回る。サラミはそれを目で追い掛けた。キューティクルはサラミの周りで魔法を唱え、サラミの身体が透明になっていく。

『黒い世界』に、送る。あの場所で全ての人は、元に戻る事になる。

 そして、目覚めた時はそれぞれの居場所に戻っているはずだ。


「アルトさん、これは……」

「怖がらなくていい。夢から醒めるみたいなものだ」


 サラミは俺を見て、微笑んだ。

 視界から消えると、トゥルーが俺の袖を掴む。……初めは気が強かったのに、こいつもすっかり臆病者に戻ってしまったな。


「あ、アルト……? 何がなんだか、分からないんだけど……」

「トゥルーは、もう少し一緒に行こうか」


 門の前で、置き去りにしてしまった。今この場で目を覚まさせるのは、流石に可哀想だ。俺達が元に戻ってから、トゥルーも同時に目を覚まして欲しいと思う。

 俺達は廊下を歩いた。骸骨の燭台に火が点いていくと、やがて俺達の目の前に巨大な門がひとつ、現れた。

 そこで、俺達は一度、立ち止まる。


「……開けるか」

「アルトさん」


 随分長い間、その声を聞いていなかった気がする。

 俺は振り返り、その声の主を見た。


「……ミヤビ」


 ミヤビは俺の下に走る。それを見て、シンマが剣を抜いた。

 俺はシンマを制した。


「ルナ、シンマ。二人共、『先に戻っていて』貰えるか」


 ルナは何も言わず、頷く。シンマは舌打ちをして、俺の言葉が気に入らなかったようだが――光の粒になり、消えて行った。

 ついに最後まで、トゥルーを残すことになってしまったか。トゥルーは俺の隣で、がたがたと震えている。


「……本当に、おしまいですか?」


 俺は頷いた。


「もう、私の馬鹿騒ぎに付き合っては、貰えませんか?」


 俺は頷いた。


「――わ、わたしは、アルトさんの、『敵』ですか?」


 俺は何も答えない。


 この世界は、ミヤビの作り出した『夢』だ。俺はかって、ミヤビと敵同士だった。それ以上の事は、分からない。今の俺には、それ以上の記憶が戻って来ない。

 何れ放っておいても元に戻るだろうが、最後くらいはミヤビの求めたラストを見てみるのも悪くないのではないかと、思ったのだ。

 そうすることで、俺も全てを取り戻す事になる。

 ミヤビはぼろぼろと泣き崩れ、俺の腰に手を回した。


「敵では、ないんです。わたしは、アルトさんと、とも、ともだちで、いたかった。……こんな、ばかで、あたたかい世界で、一緒に居たかったんです。……それは、信じては、もらえませんか」


 信じるさ。

 俺は、信じる。

 ミヤビ、お前はきっと、俺が思っていたよりも悪い奴ではなかった。あるいは俺よりも真剣に世界の平和について考えていて、こんな空間を捻じ曲げるようなことを、平気でやってのけた。

 俺はミヤビの両肩に手を乗せ、ミヤビに微笑んだ。


「――『トーヘンボクの悪魔』とかいうバカに、逢いに行こうぜ」


 ミヤビは泣き止まない。

 それでも、頷いた。



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