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106_トーヘンボク城はこの世のどこにもありません

 俺達は、夢を見ていた。

 シンマ・ウォーリアはそれを、俺に教えてくれた。ようやく、俺は全てを思い出し始めていた。

『地球』と、『トイレの世界』。そのどちらも、正解ではないということに。

 二つの世界はどちらもフェイク。俺に植え付けられた過去は曖昧で、これまで当たり前のように夢の中を泳いでいた。

 理路整然としているようで、どこか思い出せない『過去』。まず、そこに違和感を覚えるべきだったんだ。


「――いや、いやです。まだ、冒険は終わってなくて」


 ミヤビは立ち上がり、シモンズから出た。そのまま、俺に駆け寄ってくる。

 袖を、掴まれた。

 ミヤビは必死だった。いつになく、必死だった。俺がミヤビの言葉を聞かないからだろう。ミヤビに合わせる事は、もう出来なくなってしまっていた。

 ――だって、もうこんなにも世界は壊れてしまったじゃないか。

 ミヤビはパスタを見て、そして――パスタを睨み付けた。


「――パスタ・ホリティーア。……あなた、まさか」


 パスタはミヤビに微笑み掛けたまま、答えた。


「ぼくは、ぼくのままだよ」

「わ、分かっていたんですね!? ずるいです!! 騙すような事をして――」

「お互い様だよ」


 ミヤビが泣いている。

 そう、俺は道連れにされる予定だった。まるで訳の分からない世界から侵略者が現れたのではないかと思わせ、そこから『旅』を始めるつもりだったのだろう。

 そうして、ここまで来てしまった『旅』は。

 俺は今更ながら、ミヤビの『目的』というものに、気付こうとしていた。


「……あれ? ここは……俺様は、一体どうしてしまったんだ……」


 遅れて、タマゴが目を覚ます。俺はミヤビの手を離れ、タマゴに向かって歩いた。

 そうして、持っていたそれを、タマゴに見せる。


「おお、アルト君!! 俺様は、一体――」

「タマゴ。受け取れ」


 俺は、『それ』を投げた。

 この世界の『勇者』、タマゴ・スピリットに手渡したのは、

 勇者の剣、スピリエリオンだ。


「な……こ、これは……」


 手にした瞬間、タマゴの身体が透明になっていく。『勇者の剣スピリエリオン』は、存在しない。世界が安定していた頃ならどうにか理由も作れたが、この状況では――……

 ミヤビがタマゴの下に走り、袖を掴んだ。


「やめっ……やめてください!! 待って!! タマゴさん、あなたにはまだ仕事が――」


 タマゴは俺を見て、そして――微笑んだ。


「何かに、気付いたのかい?」

「――気付こうと、している」


 目を閉じ、俺は託される。


「――分かった。事情はよく分からないが――待っているよ」


 そうして、タマゴは消えた。

 パスタは初めから分かっていたようだったが、トゥルーは目を白黒させていた。サラミは全く事情に付いて行けていない。シンマは、険しい顔をしていた。

 俺は『勇者の血』を構え、それを――シモンズに向けた。


「ミヤビ。俺を、『トーヘンボクの悪魔』の所に連れて行ってくれ」


 ミヤビは唇を噛み、どうしていいのか分からないといった顔だった。


「……それは、トーヘンボク城に行かなければ、なりません。まだ、旅を続けなければ」

「往生際が悪いな」


 ミヤビの言葉に、シンマが割り込む。

 俺は一足飛びにシモンズへと跳躍し――そして、

 シモンズを、切り刻んだ。


「……アルトさん」


 ミヤビは涙を流していた。

 瞬間、世界の形が崩れた。空の色が目まぐるしく変わっていく。青、緑、赤、黄色――世界は崩れ、地球でも、トイレの世界でもない何かが顔を出す。

 ――そうか。そう、だったのか。

 シモンズは、『三大魔導器具』だと言っていた。だが、『三大魔導器具』は、この世界にシモンズしか存在しなかった。

 トーヘンボクの城など、この世のどこにもない。

 シモンズは、『三大魔導器具』ではない。ならば、それは何だったのか。

 ミヤビの作り出した、『夢』の象徴だったのかもしれない。


「……ここは」


 トゥルーが辺りを見回し、呆然と呟いた。

 既視感を覚える、暗い廊下。左右に立っている骸骨の形をした燭台では、青白い炎が燃えていた。

 俺は黙って、その廊下を見据えた。


「行くぞ、アルト」


 シンマが俺に声を掛けた。

 俺達は、廊下を直進した。燭台は俺達が廊下を通る瞬間に合わせて火を点ける。ボッ、ボッ、という炎が燃え上がる音だけが、辺りに響いている。

 トゥルーは不気味そうに、両手を胸の前に構えた。


「……なに、ここ」

「魔王の城、でしょうか」


 トゥルーの問いかけに、サラミが同じく頭に疑問符を浮かべて答える。

 ミヤビは、一番後ろをとぼとぼと歩いていた。

 懐かしい顔を見て、俺は立ち止まる。

 不安そうに歩いていた人影が、俺の存在に気付いて立ち止まり、そして――俺の下へと走って来た。


「アルト!!」


 ルナ・セントだ。

 ルナは俺の袖を掴むと、胸に身体を預けた。


「よ、良かった、良かった……!! どこまで歩いても、ずっと廊下なの。私、怖くて」

「どうやってここまで来たのか、覚えているか?」

「……ううん、ごめん。覚えてない。気が付いたら、ここに居て」


 俺はシンマの顔を見て、お互いに頷いた。目の前に、『その人物』を思い描いた。

 光の粒が生まれ、俺とシンマの間に集まるように動いた。それはやがて、一人の人物を形作っていく。

 黒髪で眼鏡を掛けた、女の子の姿を。


「……あれ? アルト?」

「月子。今、元に戻す」


 この夢の中に、捕らわれたのは。

 俺は月子の手を引いて、そして――

 ルナと月子の姿を、重ねた。


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