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103_実は呪いは百個ありました

 とんでもない轟音と共にケルベロスは真上から潰され、その形を留められなくなっていた。ケルベロスはどんどんと小さくなっていき、やがてただのハゲのオヤジに戻る。

 その地響きで『オレツエー邸』は崩れて行き、砂埃が巻き上がった。俺は上空からそれを眺めていた。

 ミヤビとパスタの所は、未だ小さな『にゅんぱっぱ劇場』によりガードされているみたいだ。


「にゅんぱっぱ! あはは、にゅんぱっぱ!」

「あはははは! 楽しいですね、パスタさん!!」

「うん、楽しいー。ぼく、脳汁どばどばだよー」


 ……副作用で奴等のその後が心配になるが。

 オレツエー邸が崩壊したことで、周りの人々も元に戻ったようだ。誰も彼も頭を擦りながら、教祖様ことハゲオヤジに近付いて行く。


「一体何をしていたんだ、俺達は。開発もしないで……」

「この建物のせいじゃないか? ゴードソ全体が何か、おかしくなっていたんだ」


 まあ、どうにかなったみたいで何よりだ。

 砂埃が止む頃、俺は地面へと降りた。ミヤビとパスタは、相変わらず二人で踊っている。


「……おい、そろそろ目を覚ませ」


 二人を軽くチョップすると、俺はゴードソの面々を見た。教祖様を足で踏みつけると、俺は民衆を見て言う。


「皆、こいつの策略から目を覚ました方がいい!! 金にしか目がない、とんだペテン野郎だ!!」


 そうだな、とか、考えてみればどうして金の銅像なんか作らされていたんだ、などといった声があちこちから聞こえてきた。まあ、そんなもんだよなあ。本当に『オレツエー邸』から香ってきた謎の煙のようなものが中毒の原因だったみたいだし。

 あのまま誰も気付かないままに時間が過ぎていたら、パスタも信仰の一員になっていたかもしれない、なんて。

 さて。用は住んだし、もう機械の街ゴードソに居る必要も無い訳なのだが。


「わーい!! ありがとう、アルト!!」


 パスタは感激して、俺に抱き付いてきた。なんとも胡散臭い展開だったが、まあこの世界の旅なんてこんなものだろう。

 おや、目の前にパスタの顔が――……

 ちゅっ。

 そんな音がして、パスタはうっすらと頬を染めて俺に微笑んだ。


「アルトのおかげだよ!!」


 んー。なんだっけコレ、あーそうそう。俺、キスした女性の言う事を聞かないといけない呪いだったような。

 あちこちから、俺とパスタを称える拍手のようなものが聞こえてきた。俺は真顔に笑顔を貼り付けたような顔で、それを迎える。

 何故か嫉妬していたはずのミヤビも、何気ない微笑みで俺とパスタを見守っている。俺はその表情のままで、ミヤビを見た。


「んー、ミヤビさん、これは」

「はいっ。呪い、発動ですっ」


 ……何故、嬉しそうなんだ。

 パスタはレンチをぐるぐると右手で回しながら――それ結構重いだろ。怖いわ。上目遣いで、俺を見た。


「ねえ、アルトはこれから、どこに行くの?」

「どこって、そりゃ、『トーヘンボクの悪魔』を倒しに――……」


 パスタは満面の笑みで、俺の手を握った。


「じゃあ、ぼくも手伝うよ!!」

「はい分かりました」


 ――いかん、思わず口が。まあ、いいや。機械の整備とか、お願いしたい事もこれから増えるだろうし。


「ということは、次はどこに行くの?」

「最後は、『勇者の骨』だな。それが見付かったら、『トーヘンボクの悪魔』の城? だかなんだか、とにかくそいつの住処まで一直線だ」


 うーん、と唸ってパスタは何かを考えていた。


「そういえば、『勇者の骨』が海の街ボウモアで見付かったとかで、新聞が届いていたような……」


 おお、ナイス情報。そういえば、一昔前のRPGって何かのイベントが解決すると次のイベントの情報が舞い込んでくるとか、そんなの多かったよな。


「そうか、じゃあ一度ボウモアに行こう。もしかしたら、まだ『勇者の骨』がそこにあったり、情報が見付かるかもしれないしな」


 俺はそう言って、シモンズを転がす。パスタも俺の隣を歩いた。

 ミヤビが少し驚いた様子で――どうしたんだ?


「……あ、あれ? 次はリバーシブル山脈を越えて、ネガティブ橋を通って、筋肉の村じゃ……」


 ああ、そういえばミヤビはそんな事言ってたね。それって、どんな意味だったんだろうか。

 思えば俺は『勇者のなんとかシリーズ』を集めないと『トーヘンボクの悪魔』と戦えないっぽいのに、ミヤビはコースを俺に教えてきた。

 ミヤビは俯いて何も言わなかったが――……


「…………あ、そうでした。実は、呪いは百個あるんでした」


 ――そう、言った。

 パスタはその言葉にきょとんとしていたが、俺は固まり、その場から動けなくなった。


「……ミヤビ? ……何を、言ってるんだ?」


 ミヤビは何事も無かったかのように笑って、


「すいません、うっかりしていました。呪いは十個ではなくて、百個だったんです」


 そう、言った。

 何かが、ミヤビのシナリオを狂わせた。――そうとしか、思えなかった。ミヤビがどうしてそんな事を言っているのか、その答えは一つしかない。

 不意に、何かが俺の目の前に振ってきた。

 金髪の長身に、リンゴのアップリケ。この世界に来てから幾度と無く助けられた、その無駄に振りの大きい男の存在――……


「タマゴ!?」


 そこには懐かしき、タマゴ・スピリットが倒れていた。

 瞬間、風が吹いた。砂嵐が再び巻き起こり、俺は腕で目を覆った。壮絶な地響きが――ノー・マルドの放った鉄槌のように、俺の前で地震を起こした。

 ――程なくして風が静まった頃、俺は目を開いた。


「――――ボウモアだ」


 その、赤髪の男の姿を、俺は知っていた。

 なんとなく、現れる予感がしていた。

 そして、その男がもう一度現れた以上、この出来損ないの旅もこれで終わってしまうのではないかと、


「次の旅路は、『海の街ボウモア』だ」


 そう、思っていた。


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