101_破産・ご破産・自己破産です
教祖様は頭を抱えて、俺の行動を凝視している。ふっふっふ、馬鹿め。貴様が思い込む程に、この戦術は効果を増して行くんだぜ……!!
俺は壁を見て、目を見開いた。
勿論、ただの演技である。
「――はっ!! これはまさか、『シリコン』を使用したと言われる最新技術の壁では……」
「な、なんだと……!?」
全く俺の言葉を信じて疑っていない所からすると、この教祖様も大概騙されやすい人間だということが分かる。
人を騙す側の人間がそれでは、どうしようもないだろうと思うのだがいかがだろうか。
俺は壁を人差し指で突付きながら言った。
「間違いない……この型の壁は金粉を混ぜて作ると言われ、結構高価な材料を使っている筈だが……」
「そんな馬鹿な……!! その壁はゴードソの信者に作らせたもので……」
俺は薄目を開け、教祖様を嘲笑の表情で見下げた。
教祖様は急に慌て出し、俺に向かって走って来る。
「や、やめろ!! 待て!!」
「パスタ、バズーカ発射だ」
思い出したかのようにパスタが俺の言葉に反応し、ツーサイドアップにした髪の毛をびくんと跳ねさせた。
「――はっ!! はい!! どっかーん!!」
バズーカを構え、発射する。教祖様はケルベロスに?化する事も忘れ、涙目でパスタのバズーカを見ていた。
俺の隣に着弾し、盛大な音を立てて壁がぶち壊される。
それは、刹那の間。煙が渦を巻いてから晴れるまでの、ほんの僅かな時間――……
にも関わらず、教祖様の表情が崩れていくのが良く分かる。
俺はアホ面白い顔で親指を下に向け、『地獄に落ちろ』のポーズを取った。
「ハイ、マイナス百億ー」
「おあああああ――――!!」
――そう。金に目がない教祖様ことケルベロスペテン師に最も有効な手段は、自分の金銀財宝を奪われたり壊されたりすること。
名付けて、『破産・ご破産・自己破産』作戦だアアアッ!!
「おや、あそこに見えるのは相場五百万ゴールドはくだらないステンドグラス!」
言いながら、俺は<エアロブラスト>を飛ばしてステンドグラスを割る。
「ハイ、マイナス百億ー」
「やめろォ――――!!」
やばい。これ、気持ち良い。
それは、幼い子供が一人で出来るもんをぶち壊す瞬間のような、一度積み上げたレゴ・ブロックやジェンガを盛大に倒す瞬間のような、悪戯心をくすぐる快感に満ち溢れていた。
その時の俺は、大層綺羅びやかな瞳でいたと思う。
ミヤビとパスタに指をさすと、俺は高らかに叫んだ。
「壊せ――――!! 野郎共ォ――――!!」
「わあ!! ちょっとワクワクしますね!!」
「野郎が一人も居ないんだけどさ……」
ミヤビは俺の言葉に表情を綻ばせ、パスタは俺の言葉にツッコミを入れていた。
さて、俺はこの騒動の間に『勇者の目』を回収するとしますかね。
ミヤビがシモンズを構えた。教祖様がそれを阻止しようと、全力でミヤビへと向かう。
おっと、まだ動くか。もう少しだけ遊んでやらなければな。
「<ハイヒート・ウォーター>です!! 窓も割れちゃえ!!」
「コラ待て小娘がァ――――!!」
シモンズ、発動。その間に俺は、近くに立っている教祖様の銅像に向かう。
ミヤビの目的としていた窓が破壊されると同時に、俺は教祖様に向かって叫んだ。
「その窓は三百万ドルの特別仕様――!!」
「おわああああ――!!」
「オイ教祖様!! そんな所を見ていて良いのかい!?」
教祖様が俺の方を振り返る。――そして、顔を真っ青にした。
俺はトントン、と教祖様の銅像を右手で叩いた。
「そ、それは……!! 私がゴードソの信者達に特別に作らせた、純金製の像……!!」
やけに輝いていると思っていたが、純金なのか。本当に高価なモノもあったとは。暴れる前提じゃなかったのか、この部屋。
ま、心が折れれば何でもいいや。
「これは、俺達の国では数千万ユーロはくだらない質量の金だねー」
「ちょっ……!! 待っ……!!」
「<エアロブラスト>!!」
趣味の悪い教祖様像が盛大な音を立てて倒れ、粉々に割れる。教祖様が絶望の表情で叫び声を上げた。
「うわあ――――!!」
さあ、続けていこうぜ!!
「それは数億マルクのテーブル!!」
「おひゃ――――!!」
「それは数兆ペリカのウッドチェア!!」
「どっひゃ――――!!」
「それは数ギガバイトのフラッシュメモリ!!」
「うへえ――――!!」
――気が付くと、広い部屋だったのモノは全て壊れ、だだっ広い荒野へと変貌していた。ゴードソの中心にある巨大なギアを横目に、俺は流石の運動に息を荒らげていた。
ミヤビやパスタも、多少なり疲れているようだった。
教祖様は――……
口からエクトプラズマ的なモノを放出して、膝を突いていた。
適当に言っているだけなのに、ここまで効果があるとは……
金の力とは恐ろしいな。
俺は教祖様があくせく動いている内に盗んだ『勇者の目』を後ろ手に回して、そう思う。
「さあ、そろそろ降参したらどうだ」
教祖様は口から血を吐いて、歯を食いしばった。なるほど、まだ戦う気なのね。もりもりと巨大化すると、またも巨大なケルベロスへと変化していく。
もう、『勇者の目』は無いというのに。愚かな奴よ。
「許さん……許さんぞォォォ!!」
俺は後ろ手に回していたそれを、教祖様の目に見えるように片手でお手玉した。ケルベロスとなった教祖様の顔色が代わり、次第に焦燥したそれになる。
「これ、なーんだ?」
「きっ……貴様アァ!! いつの間にィィ!!」
お前が建物壊されるのに夢中になってる間にだよ。
さて、『勇者の目』の力を使わせて貰うとしますか。