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100_その壺は高価です

 教祖様――ことケルベロスは、三つの首を使って俺とミヤビとパスタを同時に攻撃しようとしてきた。俺は風の力を使い、爆発的に台車を横に移動させる。

 ミヤビを移動させると、今度は瞬間的に戻ってパスタを台車に乗せて後ろへ。シルケットとシーフィードの力があれば、こんな事も出来るのだ。

 ミヤビとパスタがケルベロスの攻撃範囲から離れた事を確認すると、俺もケルベロスから離れた。

 ケルベロスを取り囲むように、俺とミヤビ、パスタはそれぞれ離れる。


「ぬう……!! 小癪な……!!」


 ただの台車と侮る無かれ。これぞ、<多重台車鎮魂曲デュアルスタンドギアレクイエム>の力だ。

 詰まるところ、俺は台車を転がしているだけだが。


「貴様、勇者の装備が使えると思ったら、逃げるだけか!!」


 ケルベロスのその発言に、俺はドヤ顔で回答する。


「如何にも。俺は真っ向勝負を嫌う、ハイパーニート引き篭もり格ゲーマーだ」


 ……あ、意味分からなかったね。ごめんね。

 それでも、俺はパスタのそばへと移動した。まだ気付いていないパスタに、後ろから耳打ちする。


「パスタ」

「ひゃっ!? ……おわあ、アルト? はやいな……」

「お前、戦闘できるか?」

「武器はあるけど……そんなに強くはないと思うよ、旅とかしてないし、パーティーも組んだことないし……」


 バズーカ砲が撃てりゃ、十分過ぎる程か。聞く必要も無かったかもしれない。

 ――そう。あえてミヤビとパスタを台車に乗せたのには訳がある。俺は二人を台車に乗せる事で、自由に移動するためのポイントを獲得したのだ。

 これはシミュレーションRPG。そう考えるんだ。

 俺はミヤビに指示を出す。


「ミヤビ!! 攻撃だ!!」

「はーい!! <にゅんぱっぱ劇場>です!!」


 ――ああ。

 どこからかヨーデルを歌う声が聞こえてくる。ミヤビはシモンズから立ち上がり、タンバリンを叩いた。

 パスタが驚いて、目を瞬かせている。


「にゅーんにゅにゅーんにゅ……」

「あっはっは!! 一緒に踊ろうぜ教祖様!! パスタも!!」


 俺達は輪になり、仲良く踊り出した。広い部屋に花畑を咲かせて、舞い踊る。

 らんらんらん……


「アルトさん!! アルトさんが!! アルトさんが立った!!」

「立った!! 俺立った!! あはははは!!」


 俺は言った。


「シミュレーションRPG関係ねーだろ――い!!」


 唐突にヨーデルは鳴り止み、場の空気が元に戻る。どうでもいいが、この事なかれ魔法では『勇者の目』が奪えないんだよ。

 戦闘系の技だ。今は戦闘系の技が必要だ。


「……はっ!? 私は一体、何をしていたんだ……」


 踊ってた。

 パスタが驚愕に目を見開いて、俺に振り返った。


「アルト!! 今の何!?」

「にゅんぱっぱ劇場だ」

「戯曲の元は!?」

「にゅんぱっぱ」


 真剣な顔で答えることで、とりあえず適当に流しておいた。

 さて、そういえばミヤビはにゅんぱっぱ劇場を除くと、今はハイヒート・ウォーターしか使えないんだった。これでは、ケルベロスを止めるのは結構難しいのかもしれない。

 俺はパスタに顔を向けると、指差した。


「パスタ!! バズーカ発射だ!!」

「うえーい!!」


 パスタは豪快にバズーカ砲を構えた。


「どっか――ん!!」


 一直線に、バズーカ砲はケルベロス目掛けて発射される。数秒の間を置いて、それはケルベロスに当たった。

 爆風が巻き起こり、辺りは煙に包まれる。

 俺は風の力でミヤビとパスタの台車を移動させ、俺の後ろに隠して距離を取った。

 煙が晴れる――


「――痛くも、痒くもないな」


 ……あれ。あんまり効いてない。

 もしかしたら、意外と強いのかもしれないぞ、こいつ。

 仕方ない。何か、お茶を濁して『勇者の目』を奪う作戦でいこう。勇者の装備が二つ揃えば、このケルベロスだって倒せるに違いないさ。

 ケルベロス、ケルベロスか……。いや、待てよ。こいつは金に目がない奴だった。


「おい!! 聞け、教祖様ァ!!」


 俺は右手を突き出し、叫ぶ。

 瞬間的にストーリーは組み上がり、ケルベロスの頭の上に乗っている『勇者の目』を奪うための計画は実行される。

 さあ、鍛え上げた本当の俺の実力、見せてやるぜ……!!


「ぬう……?」

「こいつを見ろ……」


 俺は、だだっ広い部屋の一部から壺を持って来て、ケルベロスに見せびらかした。

 ケルベロスと化していた教祖様が、ぐんぐんと人の姿に戻っていく。


「……何だ? ただの壺だが」


 俺は思わず――を装って、教祖様の前で吹き出した。


「知らないのか? こいつは時価数百万円は下らないと言われる、ゴードソきっての超有名な壺だぜ」

「なっ……!? そんな筈はない、それは私がゴードソで見付けて買った安いもので……」


 何で『万円』の単位、通じてるんだよ。と思ったが、伏せておいた。


「ああ、それじゃあきっと、そいつには価値が分かっていなかったんだろうなあ。俺の知る限りでは、こいつは国宝級の代物だ」

「……な、何!? 私はそんなものをこの場所に……か、返せ!!」


 俺は蔑んだ瞳で教祖様を見詰め――……、そして、その壺を床に叩き付けた。


「んなぁっ――――!?」


 さて。まずはこのハゲの心を折ってやるとしようか。

 俺は邪悪な笑みを浮かべ、右手で銃の形を作り、教祖様に発泡する仕草をした。


「ハイ、マイナス百億ー」


 ――ゲーム、スタートだ。


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