00_プロローグ
ホラー映画が大の苦手で、小さい頃から怖いシーンが訪れるたびに耳を塞いで一生懸命に見ないようにしていたことは、今となっては幼少の頃の可愛らしい記憶でしかなく、思い返して見ても人生の汚点にはなり得ない。
かといって時が経つごとに平気になったかといえばそんなことはなく、順風満帆な普段の生活の中でたとえ発見したとしても、それとなく避けてしまう一品であることは否めない。
アダルトビデオのコーナーの横にホラーを置くなんざどうかしてると声を大にして叫びたいが、それがその店のポリシーだと仰るのなら、その店の貴重なリピーターである俺もわざわざ隣で堂々とそっち系のビデオを物色しているサラリーマンのおっさんに告げ口したりはしないさ。
それとなくホラーに近付くつもりで、横に逸れることができることだし。
だが、世の中には時として恐るべき出来事が起こり得るということも、絶対に忘れてはならないことだ。
小学校三年生の台風の日、担任の先生がうっかり海釣りに出かけて激流の波にさらわれてしまったことは、数年経った今でも記憶に新しい出来事だし、学校の七不思議が増えに増えすぎていつに間にか十三にまで膨れ上がってしまったことも、忘れてはならない出来事だ。
ここで、これを読んでいる皆さんに問いたい。
俺は声を大にして問いたい。
それでも、普通は驚くべき出来事が自分に起こるなんて、想像もしない事だろう?
俺がそいつと出会ったのは、高校二年生の時。時は今、俺は家の中で一番狭い個室に立ち、呆然と下を見ていた。
可愛らしい双眸は年頃の俺には魅力的に見えたし、長い黒髪もあまりに長すぎるということを除けば十分綺麗な部類に入ると思う。
単刀直入に申したい。
――なんか、トイレの排水溝から人出てきたんだけど。