六詠唱目 魔術
魔術とは…術式を展開し、各々の系統属性の精霊に呼び掛け、魔力を代償に自然界の力を操る技術である。
魔術には六つの系統が存在する。
炎熱系、氷雪系、天空系、大地系、木草系、黒滅系
それぞれの系統は一人一系統であり、その系統の中の属性を使うことができる。
自身の系統の属性であれば、得意不得意はあれど、使うことが可能である。
炎熱系は火、熱、熔岩、爆、煙など
氷雪系は水、氷、冷気、雪など
天空系は風、雷、光など
大地系は土、重力、石、金など
木草系は木、草、命など
黒滅系は闇、影、毒など
系統には少なからず、相互関係が存在する。
とはいえ、どの属性かによりそれは変化するため、一概にどの系統が強いとかの強弱関係はないと言える。
ちなみに、無属性とはどの系統にも属さない、魔力そのものを利用したものを総称して言う。
無属性は魔力そのものを直接利用するので、魔術と言うより、魔力操作に近い。
用途は様々で、結界・障壁の形成、魔力を流動させ身体能力の向上、飛翔、簡単な治癒などその用途は広い。
魔力そのものを使うため、全ての人が使用できるが、やはり得手不得手がある。
無属性の魔力操作と魔術の基礎知識を教えるのが、魔術学校である。
「……と、この世界は魔術が当たり前になっているわけだが、今回のこれはこの世界の常識とは外れた力が関わっているわけだ!」
仙造が会議室に集まった、ギルドメンバーに説明する。
「マスター!」
一人の若者が手を挙げる。
見た感じでは、魔術学校を卒業して間もない感じである。
「なんだ?谷村」
谷村と呼ばれたメンバーは会釈し、立ち上がり、
「その力はこの世界の常識とは外れた…と仰いましたが、そんなこと有り得るのでしょうか?」
数人が疑問に思っていたことをぶつけた。
「うむ…確かに、俄には信じがたいが、その可能性はかなり高い!」
「新技術とかではなく、この世界にはない力…と判断すると言うことですね…?」
「そうだ!確かに、新技術の可能性も無くはない…しかし、我々は別世界の可能性を考え行動する!」
「分かりました!」
谷村は仙造の言葉に納得し、敬礼をして着席した。
「それで、鳴神に連絡はついたか?」
仙造が連絡を頼んだメンバーに聞く。
「それが…携帯が圏外であるため、いまだ連絡が取れておりません!行動を共にしている、当麻咲夜も同じく圏外のため、連絡とれず!」
それを聞き、仙造が顔をしかめる。
「使いは出したか?」
「はっ!今日の朝一に出しております!」
「そうか!我々は、これより柿崎氏が依頼で訪れた場所に向かい、調査を行う!」
仙造の号令にメンバーが動き出そうとした時、
「なんだ貴様は?どこから入った?」
メンバーの一人が不審なフードを被った人物に気付いた。
「……」
パチンッ
フードの人物は無言のまま、指を鳴らした。
それと同時に、空間が歪み、そこから腐った死体のような小柄で醜いもの達が現れる。
「あれは…グール?」
仙造が死体のようなものを見て、呟く。
現れたものは動きこそ速くないが、強烈な異臭を放ち、触れるものを腐蝕させていく。
「まずい!やつらに近づくな!」
仙造がその事態に気付いたときには、僅かに号令が遅かった。
先程の谷村含む数人が追い払おうと、グールに近付き、負傷していた。
「くっ!フードの人物はどこにいった!?アイツが今回の事件に関わっている可能性が高い!」
「それが、あいつらを呼び出した後、混乱に乗じて消えました!」
メンバーからの報告を受け、仙造が歯軋りする。
「あいつらはグール!悪魔だ!…悪魔に無属性は通用しない!精霊魔術で殲滅せよ!」
仙造の指示が飛び、メンバー達が冷静さを取り戻し、対処を始める。
「国見!我と共に来い!フードの人物を追う!」
「はいっ!」
黒髪のポニーテールの女性が仙造の前に立つ。
「行くぞ!何かあれば、すぐに連絡しろよ!」
仙造は残ったメンバーに告げ、グールを魔術で吹き飛ばし、会議室を飛び出した。
それに国見が続く。
「まだ、遠くには行ってないはずだ!探知できるか?」
走りながら、仙造が国見に聞く。
「おそらく!……見付けました!街の東…工場跡地です!」
国見が魔力を広げ、探知し、見つけ出す。
「急ぐぞ!」
国見から場所を聞き、仙造が更に加速する。
その速度は時速200キロ…プロテニスのサーブの球速であった。
【白麗】の会議室が襲撃される少し前…
「どうやら、俺の悪い予想が当たったみたいだな…」
サイクロプスを無事に倒した咲夜と美桜は、更に歩を進めていた。
「でも、悪魔ってなんでただの魔力が通じないんだろ?」
美桜の最もな疑問。
「ん〜…これは推測でしかないが、俺達が使う魔力と悪魔が纏っている魔力の根本、質が違うんだと思う…」
悩みながら、咲夜が答える。
「つまり、悪魔の魔力の方が力が強いって、考えていいのかな?」
「恐らくな…もしくは、相性が悪いか…だな…」
咲夜が考えているところに、一羽の鳩が降り立つ。
「あっ!咲夜!【白麗】から伝達だよ!」
美桜が鳩を見て、咲夜に告げる。
「携帯を切ってたから、こいつを飛ばしたんだな…仙造さんはなんて?」
「えっと…今回の件は別世界が関わっている可能性が高い…注意しろ!…だって」
美桜が鳩からの魔力を読み取り、咲夜に伝える。
「そうか……とりあえず、悪い方向にピースが集まってるのか…」
咲夜がため息をつく。
「わたし達は早く、手掛かりを見付けてこれ以上悪くならないようにしよう!」
美桜が今の自分達の状況を魔力にし、鳩に込め、飛ばす。
「魔伝鳩…便利だな…」
飛び立っていった鳩を見て、咲夜が呟く。
「ちょっとコツがいるけど、こういう携帯が通じない場所だと、便利だよ!」
一年前にここでの連絡不通から、【白麗】が対策としてやりだしたのが、伝書鳩をヒントにした、魔伝鳩である。
魔力に情報を書き込み、木草系の魔術で魔力情報を持てるようにした鳩を使った、伝達方法である。
「さて…どうやら、目的地が見えたぜ!」
咲夜が開けた空間に建つ、黒く禍々しい雰囲気を放つ、古城を見る。
「さっきのサイクロプスを考えると、何かがいる可能性が高いね…」
美桜も古城を見上げる。
「いつでも、何かが来ても、対処できるようにしとけよ!」
咲夜の言葉に美桜は頷き、魔力を身体に流動させる。
「行くぜ!」
掛け声と共に二人は古城に踏み入った。