四詠唱目 推測
「あの時は大変だったな…」
「うん…でも、あれがあったから、わたしは咲夜に会えた…そして、咲夜はソロで認められた…」
咲夜と同じく回想に耽っていたのか、美桜が静かに咲夜の横顔を見つめる。
「その地へ再び行くことになるとは、思わなかったけどな…」
咲夜は美桜の視線に気づかず前を向いたまま。
「行こう。今回の鍵となる場所だもん!」
「あぁ…次が起こる前に原因だけでも、見付けねぇとな!…って、何でこっち見てんだ?」
咲夜がやっと美桜の視線に気付く。
「え…あ…な……何でもないよ〜」
咲夜は不思議そうな顔をしたが、すぐに立ち上がり、
「行くか!俺達の再会した場所へ!」
美桜に手を差し出した。
(咲夜のこういう所って反則だよね…)
美桜はそんなことを思いながらも、
「うん♪」
頷き手を取った。
「そういうバカップルなことはよそでやってくれよ!」
先程までニヤニヤ二人を見ていた、丈二が呆れたように告げた。
「「あ……」」
丈二の言葉に二人は口を揃えて、言葉を漏らし、顔を赤くするのだった。
「これは……!?」
先日起きた事件の調査をしていた、【白麗】のマスター、仙造が調査報告を見て、驚愕した。
調査報告書には…
“未知の魔力によるもの”
と書かれていた。
内容は以下の通りである。
柿崎氏が受けた攻撃は、この世界の魔力素ではなく、全く別世界のものと判明。
過去の天界大戦による、天使の攻撃も考慮し、照らし合わせたが、それとも異なるものであった。
誰かがこの世界で生み出したものなのか、それとも、未知の世界からの来訪者によるものなのか、更なる分析を進め、判明させる予定である。
「厄介な事になりそうだ…」
調査報告書を読み、仙造はため息と共に呟いた。
数日後…咲夜と美桜は、テロギルド【マモン】の拠点があった、訃和の樹海の入り口にいた。
「いつ見ても気味が悪い所だな…」
咲夜がため息をつく。
「そうだね……でも、ここに手掛かりがあるかもしれないんでしょ?」
「あぁ…俺の予想通りだと、かなりヤバイけどな…」
咲夜は出来れば外れていて欲しいと思いつつも、肯定する。
「咲夜は何を予想してるの?」
先日の柿崎の死亡事件だけ見る限り、ただの猟奇殺人があっただけに見える。
それなのに、咲夜は更に大きな事件の始まりを考えていた。
「こことは別の世界の侵攻…」
咲夜の言葉に美桜は、どう答えていいか分からなかった。
「柿崎の死亡したあの場所を調べた時に、普通の魔力残留とは違う魔力を感じた。精霊の力とは別の……この世界にはないもの…」
咲夜達がいる世界では、魔術は自然界に散らばる精霊の力を借りて行われる。
術式を展開し、精霊に呼び掛け、魔力を代償に術式を発動させ、魔術を生み出す。
これがこの世界の魔術の基本である。
咲夜がその予想に至った根拠を話し出す。
美桜は静かに咲夜の話に耳を傾ける。
「歴史の中で、別世界の侵攻は百数十年前の天界大戦がいい例だな。その時にこの世界の人々は、こことは別の世界があること、人とは別の人に近い種族…天界大戦では天使だったらしいが……そういう者達がいることを知った…」
「つまり、今回の柿崎さんの死亡は別世界が関係している…と咲夜は考えてるんだね」
咲夜の考えを聞き、美桜が頷きながらまとめる。
「まだ、あくまで推測だし、あの時感じたのは俺の勘違いの可能性もあるけどな……」
咲夜は苦笑しつつも、目はどこか確信に近いものを感じさせた。
「でも、なんでここなの?」
今の話だと、過去に起きた事件の場所に来る意味はないのではないか?
美桜の疑問は至極当然である。
今回の事件はつい先日起きたばかりであり、ここ一年(【マモン】が残虐な殺人テロを起こした)同じような事件は起きていない。
「ん…【マモン】ってギルド名は七つの大罪の強欲を司る、悪魔の名前なんだよ……」
「でも、それだけじゃ別世界が関係してるとは…」
「そう…それだけじゃ、ただのギルド名が悪魔の名前ってだけだが、あいつらがしようとしていたこと…分かるか?」
「えっと…世界を滅ぼす悪魔の召喚……あっ!」
美桜が自分で言ってから気付く。
「それはつまり、別世界の者を呼び出そうとした……だから、もし、今回の事件に別世界が関わっているなら、手掛かりがある可能性は高い!」
咲夜がここに来た理由、美桜が気付いたことを述べた。
「じゃあ、早く調べよう!もし、別世界が通じてて、その来訪者が侵略とかなら急がないと!」
美桜が咲夜を急かすように、手を引っ張っていく。
「ちょ…美桜!焦るなよ〜!」
引かれるまま、咲夜が美桜をなだめるが、二人はそのまま樹海に入って行った。