一詠唱目 とある事件
魔術をメインにした、現代ファンタジーです。
更新速度はゆっくりなので、気長にお読みいただければ幸いです。
少しでも、お楽しみいただければと思います。
些細なことでも、ご意見・感想などを頂けると、励みになりますので、心より、コメントをお待ちしております。
それでは、日常×魔術…始まります。
闇夜に一つの影が走る。
「バカな……あれは……!?」
その影は驚きを隠せず、一人呟く。
「ウォオオーン!」
狼のような遠吠えが響き渡る。
「くっ!見つかったか!だが、なんとしても逃げ切らなく……」
ドシュッ
影が言い切る前に、影の右上半身が消えた。
「ぎゃあぁあー!」
突然の出来事に悲鳴をあげ、走る勢いのまま地面を転がっていく影。
「はぁ…はぁ……げほ……まだ」
本来はもう死んでいてもおかしくない重傷で、影は足掻く。
グチャ…
だが、それも影を攻撃したであろう何かに完全に沈黙させられた。
「現在、ギルド【フランク】のメンバー柿崎氏は行方不明であり、その捜索が本日13時から行われました。尚、柿崎氏は依頼のため…」
テレビのニュースの音を一人の青年が歯を磨きながら、聞いていた。
青年は肩まで伸びた銀髪を一つに束ねており、平均よりわずかに高い身長で、整った両性的な顔立ちをしていた。
「ぶっほうなよのはかだな…」
歯ブラシをくわえたまま、一人呟く。
青年はうがいをし、黒いジャケットを羽織り、自身の自宅であるアパートをあとにした。
細い路地裏にある、地下に降りる階段の先、黒塗りの扉の奥に一人の男が静かにコーヒーを入れていた。
男は無精髭を生やし、丸サングラスをだらしなくかけ、白ワイシャツと黒のスラックスを着崩した格好をしていた。
「うん…いい香りだ!やはり、コーヒーはこうでなくちゃいけない!」
男は自身で入れたコーヒーに満足し、一人嬉しそうに頷く。
キィ…
「相変わらず、暇そうだな…」
軋む扉を開け、入ってきたのは銀髪の青年。
呆れたように苦笑しながら、カウンターの椅子に座る。
「なんだ、当麻か…俺は今、忙しいんだ!用件なら後にしてくれ!」
「どうせいつものコーヒーブレイクだろ…」
「俺にとっては大事なことなんだ!……グビ……お前も飲むか?」
無精髭を生やした男は一口コーヒーを飲み、満足したのか、当麻と呼んだ青年にポットに残っているコーヒーを勧める。
「あぁ…もらうよ。それより、本題だが…」
コーヒーを受け取り、一口飲んでから青年…当麻は真剣な顔で男を見る。
「分かってるよ!今日のニュースの柿崎の件だろ?」
当麻が言う前に、男が笑みを浮かべ先に言う。
「さすが!情報屋、黒島丈二!話が早くて助かる!」
「ソロの当麻咲夜なら、来ると思ってな!」
お互いニヤッと笑みで向かい合う。
そして、丈二は十数枚の紙の束を咲夜の前に置く。
咲夜はそれを広げて、読み始める。
「依頼内容自体は普通だな…魔薬の材料収集……場所がちょっと特殊なくらいか…」
「そうだな…その場所も野獣がいるが、柿崎なら問題ない場所だ」
思慮深い顔をしている咲夜に丈二が言う。
「だが、そこに行き、柿崎は帰ってこなかった…」
咲夜が丈二が言わんとした言葉を繋げた。
ピリピリピリ……
そこに丈二の携帯が鳴る。
「もしもし……あぁ…分かった!何か分かったら、またよろしく!」
携帯を切り、丈二が一息つき、
「柿崎が今、死体で見つかった…」
静かに咲夜に告げた。
「死体…か……」
咲夜の表情が陰る。
「右半身が抉り取られていて、頭が潰れていたそうだ…」
丈二が煙草を取り出し、口にくわえ火を着ける。
紫煙がカウンターを漂う。
「俺にもくれ…」
そう言いながら、咲夜が勝手に煙草を奪い、ふかし始める。
「未成年が吸うのはお勧めしかねるがね〜…」
「今に始まった事じゃねぇだろ…」
苦笑する丈二を適当にあしらい、咲夜は思考の海に身を委ねる。
(【フランク】はわりと大きいギルドだが、そのメンバーが依頼中に死亡……特に危険な依頼じゃなかった………何かに襲われたか、殺人ギルドに殺された?……右半身を抉り、かつ、頭も潰すとか…並みの神経じゃできねぇぞ……)
咲夜が考えに沈んでいるのを、丈二はコーヒーを飲みながら眺めていた。
「ふぅ……丈二さん…ちょっと、調べてほしい事がある」
「あいよ!」
咲夜を眺めていた丈二が笑みを浮かべ、応える。
咲夜もそれが分かっていたように、調べてもらいたいことを告げた。
魔術世界であるここでは、12歳までが基礎教養、13~15歳までを基礎魔術教育として義務化している。
この世界では、魔術学校(現在の中学)を卒業したあとすぐに仕事につく事ができる。
とは言え、いきなり15、16の子供に仕事を渡すほど世間は甘くない。
では、どうするのか?
単独では仕事ができない…ならば、組織に属せばいい。
その組織がギルドである。
要は会社みたいなもので、仕事を請け負う組織になる。
ギルドは会社と同じで、それぞれ請け負う仕事が異なる。
医療系のギルドもあれば、工学系、研究系とそのジャンルは様々である。
魔術学校の卒業が近付くと、ギルド側から勧誘などもあり、多くの生徒たちはギルドに加入する。
稀に更に上級の魔術学校に向かう者もいるが、そこも一つの魔術組織には変わりはない。
ギルドに入ることで、殆どの者は安定の収入を得る。
そして、組織で行動するため危険も極力回避できる。
一般にギルドに属さない魔術師はソロと呼ばれ、仕事を探すところから完了までを全て一人で行わなければならない。
魔術学校卒業してすぐにソロで動くには、
情報屋などのコネなど、何か相当の理由がなければ、できない。
というより、それがあってもソロで動くバカはいない。
魔術があることの影響か、危険生物も多くいる世界で単独行動は危険なのだ。
そんな中、ソロで活動を始めたバカが咲夜であった。
「さてと…丈二さんからの連絡が来るまでに、こちらは現場を見に行きますかね!」
丈二の店(?)を出た咲夜が、丈二から受け取った資料を見ながら呟き、目的の地へ足を向けた。