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さらに次の日、乙女が同じ頃に同じ所で通りかかると北風はいません。
乙女は辺りを見渡しました。すると頭上から声がしました。
『やあ、お嬢さん。ご機嫌如何ですか』
見上げると木の枝に北風が腰をかけています。
乙女は顔を真っ赤にして小さな声で答えました。
『こんにちは・・・あ、あの、私はすぐに立ち去ります。どうぞご自由にして下さい』
『そうですか。ではご自由にさせていただきます』
北風はにやりと笑うと、乙女の横にするりと降りて言いました。
『今日は貴方と話をしてみたいと思って待っていたのです』
乙女は耳まで真っ赤にして言いました。
『あ、あの、私なんかと話をしても面白くないですよ』
そう言って逃げ出そうとする乙女の腕をしっかり掴んで北風は爽やかな笑顔で言いました。
『面白くないか話してみないとわからないじゃないですか』
乙女は赤くなったり青くなったりしながら声を上げました。
『面白くないです!だから手を離して下さい!』
すると頭上で太陽が一段と輝きを増したかと思うと、声を立てて笑いだしました。
『北風さん!何やっているのですか!嫌がっていますよ!』
『うるさいぞ!太陽!』
と、北風が太陽を見上げた時です。乙女は北風の手を振り払って走り去っていきました。
太陽はますます笑いだします。
『北風は女の子の扱いが下手ですね』
『うるさいぞ!太陽!お前が邪魔しなければ上手くいったのに!』
『北風さんには無理ですね!あんな強引に迫ったら、普通の女の子は普通に逃げだしますよ』
『何言ってるんだ!別にせまってはいないだろ!ちょっと話をしようとしただけじゃないか!』
『その下心丸出しの話かけ方がダメなんですよ』
『下心丸出しじゃないだろ!普通に話かけていたじゃないか』
『普通に話しかけたら、普通は腕を掴かんだりしないものじゃないですか?』
『逃げちまいそうだったら思わず掴んじまっただけだ』
『思わずでも女の子の腕は掴んじゃダメですよ』
『ちょっと触っただけだろ』
『ちょっとでもダメですってば。もっと脅かさないように話しかけたら、掴んだぐらいじゃ逃げられないのに。北風さんは強引なんですよ』
北風はくしゃくちゃと髪を掻き上げると言い返しました。
『それなら太陽。お前がやってみろよ。あの子が逃げないように話かけてみろ』
『いいですよ。女の子扱いなら僕の方が断然上手いって事を証明してみせますよ』