大量入荷
この時期の書籍担当は忙しい。
なんせ給料日前から出版社は消費者の財布を狙っていて、かつあわよくばむしりとろうと考えているに違いない。それによって書店員や書籍担当の仕事量も増えてくる。『もうちょっと月の配本ペースを分散させてほしい』というのは、全国の書店員共通のお願いであると言える。
そんなわけでいつもよりも早く出勤し、束になった書籍の仕分け・処理・検品をこなしていく。
まずは全体の個数の確認。
普段は十数個なのだが、この時期は三桁にまで増えることもある。
基本コミックスならば、一束が三十から四十冊。雑誌なら五から十冊。雑誌に特典がついていると、一束の冊数が減って来る。もう特典が大きければ大きいほど店頭で並べることができる冊数が減るので、特典はなるべく薄いものにしてください。お願いします。
そして実際に入荷した束数の合計と、あらかじめ来ると教えられていた束数が合っていることを確認して、やっと束を開けての処理が始まる。ここまでを検品と呼んでいる。まぁ画集とか小説は、束じゃなくて箱単位で来るので、また別の検品方法となる。
箱ものの検品は、箱の側面に中身の詳細が書かれているので、それと中の伝票を参考に、箱内の商品を照らし合わせていく作業が必要になる。小説はコミックスとは違って、一冊単位での入荷が普通だから、『箱内の商品の数=商品の作品数』なんてこともよくあることだ。
それぞれの検品が終わり、今度は商品の処理へと移る。
処理と言っても、単純に各商品から五冊ずつを取り出し、シュリンク(本とかについてる透明のやつ)加工をして、店頭のあらかじめ前の日に空けておいたスペースに並べるだけだ。
それだけなのだが、量が多いとそれが大変なのだ。
うちの店舗はそのシュリンク加工する機械が雑誌用とコミックス用で一つずつしかなく、コミック用はほぼ全自動だから良いのだが、雑誌用はほぼ手動なために時間がかかる。そして朝の人数も限られているため、時間がかかる雑誌用に人数をかけ、コミックス用は一人で回さなければならない時もある。とはいえ繁忙期は雑誌二人、コミックス二人が基本になるようにシフトを組んでいるため、めったなことがない限りは回るように調整している。入荷量が多すぎると、一日これで終わってしまうときがある。
ここで書籍担当の社員の斎藤さんの出番である。
意気揚々と『俺やるよ』と手伝ってくれるのはいいが、まったくもって遅い。もうこれなら手伝わないで発注とかをやってくれていた方が何万倍もマシだと言えよう。それか邪魔くさいから帰っていただきたい。そのほうが効率が上がる。
そんなことを誰も言えるはずもなく、ダラダラとコミックスのシュリンク機へとコミックスを入れる斎藤さんから本を受け取り、それを店頭に並べていく。
ちなみに店頭でたくさん積まれている商品を『面』、棚に刺さっている商品を『差し』と呼んでいる。そして新刊が置かれている面の商品で、たくさん面がある場合は、その面数によって『この面は何面にしますか?』などという相談が繰り広げられる。いや、こんな優しい言い方じゃないか。もっと『これ何面!?』『三面!』みたいな言い方か。
さらにちなみに、処理の際に五冊以下の入荷の商品は差しへと回される。
そして面で出る商品は面で、差しへと回された商品は差しへと、それぞれの陳列が終わると、今度はその商品の量産に入る。
量産と言っても商品を作るわけではなく、シュリンク加工した商品をただ積んでいくのである。
ここまで来ると一人で回るようになるため、もう一人は別の作業へと入る。
抜けるのは大抵が上の人間なのだが、俺の場合は斎藤さんにそこを任せ、俺が抜ける。あの人は上の人間(仮)なのだから。
抜けた人間は、雑誌のほうが追いついてなければそちらを手伝い、間に合っていれば小説の陳列で済んでいないところを済ませ、そちらも大丈夫な場合は既刊の処理へと入る。
朝の入荷の中には、新刊と既刊の商品があり、一目でわかるようになっているので間違えることはほぼない。『ほぼ』というのは、たまにある『新刊と表記された既刊』が混じっていることがある。たまにだけど。
既刊の処理の方法は至って簡単。
来た商品をシュリンク加工して店頭に並べるだけ。
これだけ聞くと簡単に思えるが、その数が半端なく多い時がある。特に今日みたいな三連休明けの月曜日なんかの入荷は半端ない。もう殺人レベルである。
二号箱と呼ばれる『縦×横×高さ=五十×三十×四十』くらいのサイズのダンボールがあるのだが、その大きさの箱にこれでもかと詰められた本が送られてくる。
それの数が、多い時で三十箱以上送られてくる。中身はコミックスなら六十冊くらいが入っている計算になるので、大体三十箱計算で千八百冊。もうわけがわからなくなる。
その中でも一応こちらから注文した商品で、棚面用で発注した商品もあるのだが、ほとんどが『一冊売れたら一冊入荷』という自動発注で送られてきた商品になる。これも『これだけ売れたよー』という目安になっていいのだが、自動発注で保留がかかっていた商品も混じってたりするので、今更感がある商品なんかも入荷してくる。
それを棚別に仕分けし、シュリンク機が空いたところで今度は既刊をシュリンク加工して、できた順に棚に差し込んでいく。
一見簡単そうに見えるが、棚の商品の場所を覚えていないとなかなか見つからないし、お客さんに捕まるし、レジには応援を呼ばれるし、新刊とか雑誌の補充はしないといけないしで大変である。
そしてなにより大変なのが、ここまで結構な時間があったから新刊は結構商品が並んでいるんだろうなーと思って斎藤さんを見に行くと、そこに姿がなく、事務所でパソコンをいじっていた時にはもう殺意すら覚える。
聞くと『急に上からやってほしいってことができてさ』とかぬかしているが、いつメールを確認したのかを問いただしたい。コミックスのシュリンクをやりながらメールチェックとか、斎藤さんパネェッス。
そんなことを心の中で思いながら一瞥し、急いで新刊を巻いて(シュリンク加工すること)、新刊台へと並べる。
これが書籍担当の月末の日常だ。
意外と忙しい。新人さんが入っては辞めていくの繰り返しになるのも無理はないと、俺は思う。
面接しっかりしろよぉ!
と、心の中で思う俺だった。