イベントベント
ファイナルベント
「イベントっすか」
「うん。で、そのイベントの列整理をしてもらいたいんだけど」
「いいっすよ。でも、俺その声優さん知らないっすよ?」
「知らないの? あの日曜日の朝にやってる『魔女っ子シスターズ』の紫の子の中の人なんだけど」
「えっ!? マジっすか!? いっつも見てるくせに声優とか全然気にしてなかったすわ」
「さすが黒塚くん。見てると思ってたぞ☆」
「それ古いっすよ」
「じゃあよろしくね」
「わかりましたー」
というわけで、10日に行われる『雪野ハルコ』さんのファーストシングルCD発売記念のイベントの列整理を任せられた。とはいえ、大まかな配置や司会進行は社員が執り行ってくれるため、当日の会場設営以外はすることがない。列整理とは言っても、整理券順に並んでもらって、あとは前に誘導したりするくらいである。コミケみたいな大きなイベントとは違って、それなりにマナーを守ってくれる人が多いため、そこまで神経質になる必要も無い。
というか、列整理自体は何回もやったことがあるので、問題はない。あとは書籍業務をイベントまでに落ち着くレベルまで終わらせておくことが重要である。
幸い、10日は赤井も照井さんも出勤なのでなんら業務に支障はない。日曜日だから入荷もないし、次の日の新刊台の場所空けぐらいだ。その新刊の発売の量も大したことはないから問題はない。
あとはイベントの前準備を手伝わされないように祈るだけだ。
今回イベントで来る雪野さんは、この紫の女の子、『イリーナ・ひかげ』というハーフの役を演じている。さっき仕事してるふりをしてパソコンで調べてみたのだが、この作品がデビュー作だそうで、CDはシングルであると同時にキャラソンも収録されているということで、どうやらアイドル声優の路線で売っていくらしい。画像もあったけど、まだ20歳だとかで、若いし可愛かった。
最近の声優さんはみんな可愛いなーとか思っていると、後ろから赤井が覗き込んで来ていた。
「あっ! 大吾さん! 何見てるんすかー。サボりっすかー」
あざとい。さすが赤井。あざとい。
「今度イベントで来るんだってさ。赤井、知ってる?」
「知ってますよ。ハルチでしょ」
「はるち?」
「まさか大吾さんしらないんすか? 最近デビューして、ラジオが超面白いんすよ。二人でやってるんすけどね、相方が日村さんっていうアイドルアニメの主役の中の人なんすけど、もう毎回腹抱えて聞いてますわ」
ふむ。
「ふーん。全然知らなかったんだよなー。俺もハルチって呼んでみるかな」
「にわか乙。プロのファンの人にはバレますって。声優オタなんて怖いっすよー? この間のイベントで来た男性声優さんの時のお客さんもすごかったじゃないですか」
「あれは男性声優さんだからだ。女のファンの人は怖いんだよ。なんか完全に獲物狙ってるような目してるし」
「ドレス着てましたもんね。声優さん側に本音聞いてみたいっすわ」
「間違っても聞くなよ?」
「わかってますって。って、今日解禁でしたっけ?」
「いや、昨日」
イベントなどの情報には、全て情報解禁日というのが設定されていて、それよりも先に解禁してしまうと、メーカーや出版社なんかとの折り合いが悪くなるのだとか。詳しいことは言えません。まぁ仲が悪くなってしまって、いろいろと優遇してもらえないとだけ言っておこう。
しかし解禁日前にこちらには情報は入ってきて、解禁と同時に告知が出せるような体制が取られている。なので、スタッフ達は情報を知っていても話してはいけないし、まして店内でそれにまつわる話をしてはいけないのがルールとなっている。
「参加って、整理券でしたっけ?」
「参加券渡して、当日に整理券と交換。100枚だってさ」
この枚数は告知不可である。
「100!? そんなに捌けるんすか?」
「さぁ? それだけ売り出してるってことなんじゃない?」
「俺は40いけばいいほうだと思いますけどね」
「新人声優ってそんなもんなのか」
「知名度がね。まだアニメ1本だけじゃなんとも言えないっすわ。もう出てたりするんすか?」
「さっき見たら3枚減ってた」
「マジすか。ホント早い人は早いっすよね」
「なくなるのが怖いんだろ。ゲストによってはすぐに捌けるし、当日になってもまだ残ってる人とかもいるからな。開催してみないことにはなんとも言えんわ」
「ですよねー。ってことで、コーナー作りたいんすけど、パソコン借りてもいいっすか?」
「なんだよ。借りたかったんかい。先に言わんか」
「ずっと発注してるかと思ってたのにー。ひでーよー」
「わかったから早く終わらせちゃえって」
「あ、どうもっす」
パソコンを譲った俺は、他の仕事をするためにバックヤードへと引っ込んだ。
というわけで、イベントが11月10日に行われます。
詳細はBBSをご確認くださいませ。