ステージ
PM14:30
「だから私はそんなんじゃ満足できないのよ。あんたがもっと真面目にやってくれないとダメなの」
「だから俺はいつでも今でも真面目にやっているように思うんだが。これじゃあダメなのか?」
「ダメ」
「はぁ…」
そう呟いたのは、アニメのキャラの制服に身を包んだ俺。制服を着るのなんて何年ぶりだろうか。
そしてセットされたテーブルに腰をかけて偉そうにそう言ったのは、アッキーこと照井さんだ。アッキーはセーラー服着用。
今はアッキーのほうなので、完全に役者スイッチが入っている。
「そ、そんなこと言わないでください!」
と、台本通りにビクビク声で叫んだのは、メイド服に身を包んだアッキーの相棒であるテルミンさん。テルミンさんは町役場の業務の関係上、『もしかしたらコスプレできないかも』とか言っていた割には、ガッツリしたピンクのフリッフリなメイド服を着ている。もうレイヤーには年齢は関係ないのだろうか。あ、二人の視線が痛い。
ここは町役場主催の夏祭り会場。
テルミンさんのお願いということもあって、俺と照井さんはくじ引きの運営を任された。
景品とかは照井さんとテルミンさんが用意してくれたみたいで、単純にやってきた子ども(時々大人)達のお世話をするだけの簡単なお仕事だった。
うっさい社員から休みを頂戴するのにちょっと手間取ったが、赤井くんに仕事を押し付けることによって、二人で休みを取ることに成功した。きっと今日は入荷もそこまでないし、忙しいこともないだろう。そう信じたい。
そして俺と照井さんは、テルミンさんと三人でちょっと前に流行ったアニメの劇をしていた。
劇と言っても照井さんが書いてくれた台本に従って演じるだけという簡単なお仕事である。俺のセリフで一番長いのはさっきのセリフだけ。あとは『はぁ』とか『かもな』とか適当につぶやくだけ。
それにしてもこの二人、ノリノリである。
ちなみに今現在、くじの店番はテルミンさんの同僚のさかなんとかさんにお願いしている。あれ? よく見たらもう一人男の人がいる。だれだろ?
「嘘でしょ!? あなたにそんなことができるはずないもの!」
「実は私…未来から来たんです!」
「嘘はいけないわよ」
「う、嘘なんかじゃないですぅ…」
せっかく勇気をだして言ったテルミンさんのセリフが、アッキーによって冗談だと思われるというシーンである。もちろんこんなシーンは存在しない。なぜならこれは百合エンドなのだから。
アッキーとテルミンが最後抱き合って終わるのだ。だって同人作品なのだから。
この人数だと、俺のハーレムエンドか、ふわっとして終わるかの二択しかなかったということで、アッキーが無理やりひねくりだした渾身のオチである。
あ、抱き合った。
これで良かったのだろうか?
まぁ二人が満足してることだし、良かったのだろう。
子ども達が意味不明な内容にポカンとしているのは、見なかったことにしよう。