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アニマチオン・うろな町店  作者: 山田さん
2/11

書籍担当の朝は力仕事

「ふぁー…」


大きなあくびをして、朝の入荷処理を憂鬱に感じながらエプロンを身に付けた。

書籍担当の一日はこれで始まる。

非常階段の前、つまりバックヤードのもう少し奥の廊下に積まれた大量のダンボール。この中には、『新刊』と書かれた箱もいくつかあるが、ほとんどが『注文』と書かれた既刊が入った箱だ。

それに加えて大手出版社の新刊コミックスが大量に入ってきているので、さらにカオスな入荷量となっている。

これを照井さんと二人で仕分け中。

新刊のコミックスをタイトル別に、既刊が入った箱と新刊の箱を、そして雑誌を。

早番はもう一人いるんだけど、自発的にいつもより早めに来てる俺と照井さんとは違って、いつも通りの時間に来るであろう彼には期待はしていない。

それに照井さんと二人のほうが早く終わるし。歴戦の勇者というやつである。


「あー。私もこれ買っていきたいですー」

「閉店まで残ってれば買えますよ?」


閉店後、スタッフは定価の10%OFFで商品を買うことができる。


「嫌ですよ。早く来てるのだって、早く帰りたいからだって、黒塚さんだって知ってるでしょ?」

「知ってますって。感謝感激ですー」

「棒読みじゃないですか。あっ、これ買うって言ってませんでした?」

「買いますよ。どーせ遅番の子達だけじゃ回らないんで、残って買おうかと考え中です」

「えー。愛しの赤井くんがいるじゃないですかー」


そう言ってニヤニヤする照井さん。


「赤井だってまだ回すの上手くないっすもん。前だって夜の10時まで残ってなんか発注してたみたいじゃないですか。店長が次の日、愚痴ってきて参りました」


閉店が8時半で遅番の定時が9時。残業は出来るのだが、遅くても9時半までに帰らないと、社員の機嫌がどんどん悪くなっていくのだ。

俺は、残業はしたくない派なので、今日やることは今日のうちに、明日でもいいことは明日に回す。


「10時って…私なら次の日に投げて帰りますね」

「投げないで終わらせて帰ってくださいって」

「そうは思ってても黒塚さんみたいにサクサク終わらないんですって。あっ、もう置けないや。これ、フロア持って行ってもいいですか?」

「あっ、ちょっと待って。…よっと! ここ空けるんで、ここにずらして置いてください」

「了解ですー」


そしてなんとか仕分けが終わった。

それとほぼ同時にもう一人の書籍担当が到着。


「おはよーですー」

「おはー」

「おはようー」

「あれ? 二人とも早くないっすか? ってもう終わってるし」

「入荷多いからさ。まぁ早く準備してきてくれると助かる」

「急ぎまーす」


俺と照井さんは入荷の個数確認ののち、ビニール紐をバスバスと開けて商品を取り出していく。

エプロンをつけた彼が登場。


「お待たせしました」

「じゃあ勤怠きって、箱から開けちゃって」

「もうきっていいんですか?」

「いいよいいよ。許可もらってるから。照井さんきった?」

「えっ!? 私まだきってないですよ! なんで教えてくれなかったんですかー。バカーあほー」

「上司に向かってその態度をとるとはいい度胸だ」

「すいませんでしたー。勤怠きってきますー」


作業を中断して、勤怠をきりに行く二人。

アルバイトは時給制だから、早く来たら早く来た分だけ時給が発生する。

でも労働なんとか法により、労働時間は限られている。

しかし大人の事情でアルバイトはちょっとくらいオーバーしてもなんとかなる。

他は知らないけど、うちの店は申請さえすればこうした大量入荷の時は早く来ても良いことになっている。


そして他のスタッフも出勤してきて、朝の朝礼が終わり、書籍担当がドタバタと走り回り、新刊台に商品を薄く並べた頃には、開店と同時にお客さんが入ってくる。もちろん今日発売の新刊狙いだ。

早く来ても遅く来てもたいして変わらないのだが、入荷量には限りがある。

売れる本は多く、売れなさそうな本は少なく。それが儲かる方法だ。

しかし、書籍は前情報と関連商品の比較でしか販売量の予測を立てられない。

CDなどのAV商品やグッズなんかは、メーカーからの情報やアニメなんかの人気情報などの情報がたくさんあるのだが、だいたいがマンガや小説の原作である書籍は、初回入荷量を決めにくいのだ。なんせ全ては書籍から始まっていく。本が売れればアニメ化もするし、グッズにもなる。

だから本だけは前情報が全く予想できない。

かくいう俺も、ほとんどの週刊雑誌には目を通している。コンビニの立ち読みで。

書籍の発注業務をする中でもそれなりに分担はしている。というか得意分野がうまいぐらいに分かれている。

俺が少年誌とアニメとラノベ。赤井が月間誌とラノベ。照井さんがBL全般。そんな感じで、発注する人間は、3人で情報交換をしながら初回入荷量を考えている。

今回のコミックスも前巻の情報を元に色々とやりくりしている。売れなかったものは減らして、すぐに売り切れたものは多く入れている。

そして今回発売の1巻目は、類似商品を探して勘で発注。これをやると社員に怒られるのだが、バレなきゃいいのだ。理由は大抵後付けでなんとかなる。


「あとは巻いて出していくだけっすねー」

「じゃあ巻きは任せるわ。ちょっと先に発注の締切とか確認してくる」

「了解っすー」

「照井さんは引き続き雑誌おねがいしますね」

「了解っすー」

「ちょっと俺の真似とかやめてくださいよー」

「楽しんで仕事しないとやってられないっすー」

「…似てないですからね?」

「ですよねー。照井、仕事してくるー」

「「がんばってらっしゃーい」」

「あら、ラブラブシンクロ?」


そんな書籍担当の朝はこうしてすぎていくのだった。

朝は忙しいのです。

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