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アニマチオン・うろな町店  作者: 山田さん
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Eのキー

俺はうろな町に唯一存在するアニメショップ『アニマチオン』で働く黒塚大悟(くろつか だいご)26歳。

この『アニマチオン』に入って早4年。最初はバイトスタートだったのだが、あまりの俺の働きっぷりに、社員登用の話が来て、それに乗っかる形で現在社員研修中というなんとも微妙な位置にいる。

とはいえ、部門に俺が居ないと店が回らないくらいの活躍はしていて、結構重要な立場だったりする。

アニマチオンは、AV担当、キャラクターグッズ担当、書籍担当、レジ担当と4つに分かれていて、書籍担当の一番上を俺はやっている。

担当ごとに仕事が分かれているのだが、毎月この時期の入荷はどこの部門もバカにならない。

書籍だけでも通常の2倍から3倍の量は送り込まれてくるし、しかも今日はニヤニヤ動画で有名なボカロPのCDが発売ということもあって、若いお客さんで賑わっていた。


「これ今日帰れる気がしないっす」

「なら帰らなければいいじゃない」

「うはー。大悟さん厳しいっすねー」

「いつものことだろ。ほれ、俺だって早く帰りたいんだから早く仕事しろ」

「へいへい」


今のは赤井健太(あかい けんた)。働き始めて3年の22歳のアルバイト。

赤井は書籍担当の2番手を務めていて、俺の右腕的存在だ。


「私、今の萌えっと来ちゃった。うふふ…」

「うおっ! 照井さんですか。また変な妄想してないで、働いてもらってもいいですか?」

「うふふ…」


照井明子(てるい あきこ)さん。年齢不詳のアルバイト。

履歴書で24歳って書いてたんだけど、休憩中に聞いてみると『あんなのウソに決まってるじゃないですか。黒塚さんと同じぐらいですよ。ふふふ…』と言っていた。どうも信用できなくて時々腐女子発言が飛び出すけど、仕事ができるから文句はない。仕事しに来てるんだし。

他にも今日の書籍担当は3人いて、みんなどこかしらでせっせと働いている。

俺もパソコンで発注系の業務を終わらせてから、既刊の品出しやって早番を上げちゃわないと、また店長に怒られる。

あとはこれを貼り付けて…


「黒塚さぁん」

「あっ、寺本さん」


常連さんの寺本さん。

決まったレーベルの発売日にやってきて、そのレーベルの商品を全部一冊ずつ買っていく女性。

俺の対応が気に入ったらしくて、完全に顔見知りの常連さん。


「今日、発売日でしょ? 取り置いておいてくれた?」

「もちろんですよー。俺が寺本さんの分取り置きしてないわけないじゃないですか」

「助かるぅ。これだから黒塚さんがいる日じゃないとダメなのよぉ」

「これは御贔屓に」

「前もねぇ、違う子に言ったら『えっ? ご連絡しましたか?』って言われちゃって、取り寄せになっちゃったのよぉ」

「マジすか。ちゃんと書籍担当には言っておいてるんですけどね。すみませんでした」

「いいのよぉ。連絡してなかった私も悪いんだし」

「あっ、今レジ混んでるんで、俺レジしちゃいましょうか?」

「これからまだ買うのあるから大丈夫。いつもありがとねぇ」

「いえいえ。じゃあまたレジで取り置きしてること言ってくださいね」

「うん、わかったわ。ありがとぉ」


寺本さんを笑顔で見送ると、またパソコンに向かう。

まさかの時間ロスだった! 急がないと…


「おい黒塚。まだ終わってなかったのか? 5時までには終わらせるって言ってなかった?」

「…すんません」


社員の斎藤さん。現れるタイミングが神クラスなお人。俺のストレスゲージをガツガツ上げてくれる気遣いのできる先輩。


「自分で言った時間ぐらい守ってみろよ。そんなんじゃ帰れないぞー」

「頑張りまーす」


俺は去っていく斎藤さんの後ろ姿に舌打ちをすると、パソコンに再度向かった。

あいつが仕事をしていればもっと早く帰れるのに!

いつもいつもぐるぐる見回って遅れたら『は?』みたいな顔で見てくる。

超ムカツク。

俺は勢い良く『E』のキーを押した。

そしたら弾けるように飛び出した『E』のキーが手元に転がってきた。


「……」


仕方ない。修理してもらうように店長に言おう。

今日の朝から壊れてましたって言おう。

今日の朝一で使ったのはきっと斎藤さんだから、『斎藤くんはどうして気づかないのよ!』って言われて怒られることだろう。

ケケケケ。ささやかなる復讐じゃ。

俺は発注が終わったので、作業台の上に置いてあったノートPCを閉じて、事務所へと向かった。

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