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それからとある少女と極悪人面の物語

 『まずはとある少女の物語』の続きになります。




「喋ると舌を噛む。黙っていろ」


 わー、景色が過ぎるのが早いなー。……なんて現実逃避をしてみる。

 無理。無理無理無理。

 きつく目を瞑って、服にしがみつく。

 ジェットコースターとか苦手なのに。

 見えているのかはわからないけれど頷いておいた。

 風なんて吹いていなかったというのに顔に風を感じるから、多分、それなりの速度だ。

 しかも、人一人を抱えているのに。


「着いたぞ。……大丈夫か?」

「だい、じょぶ、です」


 お腹がグエッとなったままジェットコースター並みの動きを体験したせいか、足がフラつく。


「中まで抱えて行ったほうがいいか?」


 極悪人面に反してわたしを支えてくれた手は優しい。


「平気……です」


 人は見かけによらないって本当だったんだなぁ。

 じ、と見つめてみると戸惑ったような表情をされた。

 ……良い人、なの、かもしれない。

 いや、でも、良い人だと思ってたらお姉さんのフリをしたお兄さんだったりしたし、油断は出来ない。


「そうか。……無理をする必要はない。ああ、そうだ。お前の名前を教えてくれないか? 手続きをしなければならない」

「て、つづき、ですか?」


 家に入るのに?と首を傾げる。

 もしかして売られるのだろうか。

 そんな不安が浮かび掛けた瞬間、極悪人面さん──名前を知らないのでそう呼ぶ──がわたしの後方を指差した。


「家、と言っても騎士団の宿舎だ。安全面では城下とは比べるまでもない。それに設備もそれなりだろう」

「騎士団……」

「そういえばまだ名乗っていなかったか、俺はヴィシュア=バイルシュミット。帝国騎士団火竜隊隊長をしている」


 隊長、ということはやっぱり偉い人なんだろうか。

 宿舎と思われる建物はそれほどの規模ではないけれど、民家に比べれば(当たり前だけど)大きい。

 というか隊長さんに対して売られるかも、なんて失礼なことを考えてしまった……心が読める人じゃなくて良かった。


「バイルシュミットさん、ですか? わたしはユキ=ヤマダです」

「ヴィシュアで構わない。ユキ……、これから宿舎に向かうが、途中何を言われても気にしなくていい。わかったな?」

「は、はい……?」

「はぐれると面倒だ」


 差し出された手を躊躇いなく掴む。

 差し出したのはヴィシュアさんだというのに、般若みたいな顔をされた。何故。

 ……それにしても、何を言われるんだろう。


「あれ、顔が真っ赤」


 ボソッと呟いただけだからヴィシュアさんには聞こえなかったんだろう。

 もしかして般若みたいな顔で照れたのだろうか。

 紛らわしいというか、不便だろうなぁ。


「何だ。まだ歩けないようなら担ぐが?」

「何でもないです!」


 今にも担がれそうになって、慌てて否定する。

 担がれるのが嫌だからといってお姫さま抱っこをしてもらいたいというわけじゃないけど、担がれるのは肉体的にもよくないような気がする。具合が悪くなりそう。

 そんなことを考えながら手を繋いでいる様子は、きっと端から見ると間違いなく誘拐犯と少女だと思うとヴィシュアさんが不憫で仕方がなかった。




 人がいないことに安堵しながら、ヴィシュアさんが「はぐれると面倒だ」と言いながらもわたしに歩調を合わせてくれることに首を絞められたり性別が行方不明だったりした現実に疲れた心が癒されていくことを感じていた時だった。


「ぎゃーっ! た、たっ、た、たいちょーがついに誘拐犯に!?」


 ピクリ、繋がれた指先からヴィシュアさんの緊張が伝わってきた。


「……ラドリア」


 ヴィシュアさんが地を這うような低い声を出すと、声を掛けてきた男の人が小さく悲鳴を上げた。

 顔は笑顔なのに、口の端がひくひくとぎこちない上に貼り付いたように固まっている。

 『ラドリア』は彼の名前だろうか。


「す、スミマセン! たいちょーともあろう方が誘拐するわけないですよね! でもまさかたいちょーがロリコンとは……あ」

「ラドリア。覚悟はいいか」


 ニヤリ、笑顔というには少々凶悪なそれをヴィシュアさんから向けられたラドリアさんは紙のように白くなった。

 わたしはただ、辺りを漂い始めた不穏な空気を感じないようにするのに精一杯だった。

 8月16日には間に合いませんでした……。

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