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とある悪魔が現在に至るまでの物語

 初対面でヒロインの首を絞めた!?な悪魔の話です。※過去

 この話には悪魔による悪魔のための妄想が含まれています。




 きっと、必然だった。

 暇で暇で、人間の夢に入り込んで悪夢を見せていた中の一人……始まりは、ただそれだけ。

 それなのに──今は。


 苦しい。苦しい。

 住んでいる世界が違う私は、彼女の現実での行動に干渉することが出来ない。

 だから夢の中で会うことしか出来なかった。

 けれど、その夢の中での逢瀬を、彼女は目覚めると忘れてしまう。

 悲しい。悲しい。

 ただでさえ人間の寿命は短いというのに、夢を見ない日が続けば私は彼女に会うことすら叶わない。


「本当にいいのか、ジルベルト=アドル。一度受け取ったら返さないよ」


 彼女が付けてくれた名前を死神に呼ばれるのは嫌だったが、仕方がない。

 嗚呼、出来るならば同じ名前を持ったものを殺して回りたいとすら思う。


「構わない。こんなもので彼女をこちらに喚べるなら」


 死を司る神は唯一、どの世界にも干渉することが許された存在だった。

 何度も何度も通って、やっと交渉までこぎつけた。

 彼女をこちらの世界に喚ぶ代償は、私の片眼。

 ブチブチと音を立てて引きちぎられた眼球。

 人間ではない私は、痛みなんて感じない。

 失われた部位は再生しなかったが傷は何もなかったかのように塞がった。


「嗚呼、天然の金の瞳なんて滅多にないんだぜ……っ?」

「煩い眼球コレクター。さっさと彼女を喚べ」


 死神はうっとりと私から引きちぎった眼球を眺めている。


「あーはいはい。その前に……ほれ、義眼くらいはあげるよ。片眼が空洞じゃあ女の子は怖がっちゃうからさ」

「ユキはそんなことで私を拒絶しない」


 放り投げてきた球体を受け取りつつもきっぱりと言えば、死神は不思議そうな表情を浮かべた。


「てゆーか、君みたいな悪魔が人間に仕えるなんてねぇ。悪魔って人間の恐怖とか欲望を糧にしてるんじゃなかった?」

「ユキは、悪夢を見せていた私に泣きながらすがってきた……もう一度、もう一度と繰り返していたら彼女はなんと私に名前を付けることで私を支配した。その時に気が付いた、私は彼女を愛していると」


 ふと顔を上げると、何故か死神はポカーンと口を開けたまま硬直していた。

 私の、彼女に対する愛に耐性がないからだろう。


「死神?」

「……なんていうか、かわいそー」

「可哀想? ああ、違う世界に生まれてしまったのは仕方がない。きっと私と彼女の愛を深める試練なんだろう」

「いや、違うし。お前じゃないよ彼女がだよ」

「ああ、夢でしか私と会えない彼女は可哀想だろう? だからこそ貴様に頼んでいるんだ」


 苦虫を噛み潰したような顔をされた。

 ここに虫がいるわけもない。変な奴だ。


「……うーわあ」

「それで、いつになる。早くしろ、今すぐ、さっさと、迅速に」

「いきなり移したら周りの人間の人生に悪影響だから慎重にやらなきゃいけないわけ。わかる?」

「他の人間がどうなろうと知ったことか」


 攻撃してしまいたい気持ちをギリ、と自分の腕に爪を立てることで抑え込む。

 今のところ、彼女をこちらへ移すにはこれしか方法がないのだから、一時の破壊衝動に任せて行動するわけにはいかない。


「そんな殺気立たなくても対価は受け取ってるから、ちゃんとやってやるって」

「当たり前だ」

「……それじゃ、一人にしてくれるかい?」


 ……ここにいても何も出来ないだろう。

 下手に急かして失敗されても困る。

 だから私は夢を見ながら待っていよう。彼女の夢を、見ながら。


「私の主<あるじ>、ユキ」


 屈辱であるはずの支配さえ今は心地好い。

 私と彼女の、唯一の繋がりだから。


「彼女も早く私と会いたいはずだ……」


 私は呟く。

 まさか、私が寝過ごしている間に死神が彼女をこちらに送り込み終えていたせいで、運命的で素晴らしい初めての生身のユキとの出会いが台無しになるどころか新たな邪魔が入るなどとは思いもせずに。


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