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逃亡人生  作者: クク
第一章 “呪われた姫君と愚かな賢者”
9/18

受難と希望

「状態異常?」


 厨房の奥で巨大な石臼で小麦を挽く店主の背中を見ながら、ヴェルマは上品に紅茶のカップをカウンターに戻し、小さく首を傾げた。カウンターに頬杖をついたまま欠伸をかみ殺して、ヒタキはそんなヴェルマの横顔に視線をやる。


「外の世界でもあっただろ? 魔物の威嚇で体が竦んだり、変な魔力で頭がくらくらする奴。俺の住んでた所じゃあ精神汚染って言ってたけど、ここじゃあ魔力が関係してるのもしてないのも、状態異常って言うらしい」


「ふむ、それは分かったのだが……奴は何故私にそのような真似をした? と言うより、私は具体的に何をされそうになっていた?」


「理由は分かんないけど、やってたことはまともなことじゃないと思う。あの嫌な魔力の感じ、さっきも言った頭がくらくらする奴に似てたから」


「む、言われてみれば確かに気分は悪くなったな。だが、嫌な気分になっただけだぞ?」


「え、そんなもんなのか。何かもっとこう、嫌な感じに酔いそうな魔力だって思ったけど」


「…………」


 先日の気味の悪い魔力を思い出したのか、ヴェルマもヒタキと同じく眉をしかめた。


 朝の書き入れ時も終わり、ようやく静けさが訪れた昼前の憩い亭。珍しく客が全くいない店内でお決まりのカウンター席に腰掛けるヒタキとヴェルマは、自然と昨夜の一件について意見を交わしていた。


 目を伏せ固い表情で何事かを思案するヴェルマは、ティーカップを手に取り紅茶を口に少し含んで、そして再びゆっくりとカップを皿に戻す。


「いや、意見が食い違う理由については私に心当たりがないこともない。確信はないが、おそらくはヒタキの言う通りなのだろう。――……だが、そうなるとますます厄介だな」


 ヴェルマは伏せていた瞳を上げ、「店長、少しいいか?」と相変わらず小麦粉を挽いている店主を呼んだ。


「リョウ・アカツキという探索者について何か知っていないか? 特に人間関係を知りたいのだが」


「中級認定最短記録を打ち出したとかいう、派手なガキのことか」


「ん? あれ、俺の方が早いんじゃ……」


「まだ非公認だろうが、お前は。話の腰を折る暇があったら働け、家賃滞納のクズ」


「……今はしてねえじゃん」


 小さな声で呟いたヒタキを無視して、ゴリゴリと巨大な石臼を回しながら店主は振り返ることなくヴェルマに続ける。きちんと料金を払う客には、それなりのサービス精神を見せる店主だった。


「最近になって固定パーティーを結成したらしいな。面倒だからクラスは省くが、構成はそのガキを含めて前衛二人、中衛一人、後衛一人。パーティーの平均レベルは100超え、全員二回目のクラスチェンジを終えてるはずだ。それにあの青髪の……メリル・カナートだったか、あいつを加えて特に親しい人間は五人だな。何を期待してたか知らんが、人間関係に黒い噂はなかったぞ」


 無愛想な割にかなりの情報網を持つ店主。彼からすらすらと流れるように出てくる情報に、ヴェルマは小さく感嘆の息を漏らしながら尋ねる。


「その四人の性別は?」


「性別? 全員女だと言ってたと思うが……」


「ふむ、そうか。感謝するぞ、店長。おかげで助かった」


 尊大に礼を言うヴェルマを不可解そうに隻眼で一睨みしたが、店主は特に何も言うことなく出来上がった小麦粉が入った巨大な袋を担いで、厨房の奥の倉庫に消えて行った。


「どう思う、ヒタキ」


 何やら確信した様子で瞳を覗き込んで来る彼女に、ヒタキは緩慢な動作で頭を描く。


「どうって言われてもな。何となくヴェルさんが考えてることはわかるけど……そもそもそんなことする理由が分かんないし、そんなスキルってあるのか?」


「とぼける必要はない。男は――特に思春期の少年は、女を侍らせたがるものなのだろう?」


「いや、思わねえよ。おねえさん、あんた普段俺をどんな目で見てんだ」


「思春期の少年」


「いや、俺二十一歳だぞ」


「二十一だと? ふふ、背伸びをしたい年頃というやつか。せいぜい十五、六くらいだろうに、可愛い奴だな」


「あんただけには言われたくねえよ!」


「私は二十五だ!!」


 何故か怒られた。


 とてつもなく理不尽な気がするが、ヒタキは一度大きく溜め息を吐いてヴェルマに続きを促すことにした。


「で?」


「ぬ……で、とは?」


「続き。まだあるんだろ」


 冷めた声で尋ねたヒタキに、ヴェルマは多少鼻白みながらも小さく頷く。


「ああ。スキルに関しても、有名なのが一つあるだろう。正確には魔物の能力だが、ヴァンパイアの『洗脳』が。似たようなスキルがあってもおかしくはない」


「ばんぱいあって何だ?」


「知らないのか? まあ、そういう魔物だ。……と言うかヒタキ、その、何だ……怒っているのか? 一応、冗談だったんだぞ、半分くらいは。ほら、十八くらいにはなっていると思っていたから酒を進めたわけだし……だから、そのだな……」


 何か、可愛い……。


 焦っておろおろとしているヴェルマをもう少し堪能していたかったが、ヒタキは頑張って我慢して首を横に振る。これ以上続けたら、何か取り返しのつかないものに目覚めそうな予感がしていた。主に危ない性癖とか。


「怒ってないって、たぶん。それよりだいたいは同じだったぞ、俺の予想と」


「あ、ああ。なら、擦り合わせと行こうか。相違点は?」


「侍らせる、が、楽をするため、だな。俺なら、人を操れるんなら強い奴を仲間にして楽をする。捨て駒にするにしても、わざわざ潜ったことすらない初心者を使うメリットがない」


「なるほど。レベルが低いメリルをパーティーに入れる理由がわからなかった、ということか。というか、意外と黒いことを考えていたのだな、お前」


 驚いたぞと呟くヴェルマに、ヒタキはじっとりとした視線を送る。 


「…………いや、おねえさんの考えの方が黒いって。侍らせるって何だよ」


「む、違うのか? 祖母から教わった教訓なのだが。男は皆、獣だと」


「…………」


 微妙に言い返せなかった。


「まあ、証拠も確信も対処法も分からない現状では、警戒しながら情報を集めるくらいのことしか出来ないだろうな。とりあえずはメリルの居場所を探り、話を聞いてみるか」


 そんな会話していると、戻って来た店主が唐突にカウンターの上にケーキが乗った皿を一枚置いた。


そしてそれを、ヴェルマの前に突き出す。


「試供品兼依頼の礼だ」


「うむ、ありがたく頂こう」


「俺のは?」


「改善点があれば言ってくれ」


 華麗にヒタキを無視して、店主は空になったヴェルマのカップを下げる。そして新たに紅茶を淹れながら、「聞いたぞ」と切り出した。


「『魔力無し(アウトサイダー)』、だったか。お前の噂で持ち切りだぞ、外は。人の心配をする余裕があるのか、お前に?」 店主の発した平坦な声に、ぴたりとヴェルマが動きを止める。そして手にもったフォークを、静かに皿に戻す。ヒタキはそんな彼女の仕草を横目で見てから、何時もどおりの呑気な声で返した。


「何にも変わってねえじゃん、俺は。前から、ずっと前からそうだったんだから。て言うか、ランク外か。誰だか知らないけど、上手いこと言うよな」


「そうか」


 店主は無関心な声と共に、カウンターの上に湯気が立ち昇るティーカップと木箱を出した。カップはヴェルマ、木箱はヒタキの前に。


「依頼した小麦の量より多かったぞ。家賃分を引いても釣りが出た」


 二人の二ヶ月分の家賃。それが提示された小麦の調達の依頼料だった。

 

 ただでさえ破格だった依頼料に、お釣りなど出るはずがない。


 無言のままヒタキは、長方形の木箱を開ける。木箱に丁重に納められていたものは、美しい装飾が施された白銀の銃だった。


「銃?」


「あ? 知ってるのか。俺の知人が道楽で大昔の書物を参考に作った物だが、使い方はわかるな」


「…………」


 回転式の拳銃を手に取って眺めるヒタキの横から、ヴェルマが物珍しそうに覗き込む。


「何だ、これは? 見たことのないものだが……」


「銃っていって、大昔の、魔力が発生する前の武器。魔力と相性が悪くて廃れたものだから、今じゃあ知ってる人なんてほとんどいないと思う」


「ならば、何故ヒタキは知っている?」


 初めて見る物珍しいものに好奇心を刺激されたのか、瞳を輝かせながら尋ねて来るヴェルマ。ヒタキはどう答えたものかと少し迷ってから彼女に答えた。


「家に、俺が育った家にあったんだ。だけどこれ、よく見たら俺が知ってるのと何か違う。弾倉みたいなのはあるけど、弾が込めれないし」


 穴のないシリンダーをいじりながらどうやって使うんだと店主に向かって首を傾げれば、手の中から銃を取り上げられた。


「持ち手の下のここから、中に魔石を詰めて使うらしいな。あとはこの爪を引けば、下級魔術の半分程度の威力の魔力の塊を放てる。この真ん中の筒を回せば、属性が変わるらしいぞ」


 火、水、風、土の四大属性に光と闇を合わせた六属性。本来は回転式弾倉であるその部品には、それらを表す紋様が刻まれている。


「興味深いな。魔術式を編む時間を短縮できるのか」


 見せてくれと両手を伸ばしてせがむヴェルマに銃を渡して、店主は鼻を鳴らして笑う。


「そんなに便利なもんじゃない。その銃に入る量の魔石じゃあ、せいぜい二発分の魔力が限度だ」


「む、確かにその威力を術式を介さずに出すなら、消耗も相応になるな。そもそもそれ程便利な物ならば、すでに流通しているか」


 感心した様子でしきりに頷いていたヴェルマは、納得すると同時に冷静さを取り戻す。そして隣のヒタキに、微妙に哀れみを含んだ視線を送った。


 ヒタキは緩慢な動作で頭を掻きながら、腕を組んで立つ凶悪な人相の店主の顔とヴェルマの手にある銀の装飾銃を見比べて。


「あのさ、店長。この量の魔石って、売ったら一万デルくらいになるんじゃ……」


「だから道楽だと言っただろうが」


 貧乏人には使えねえじゃん、と何気に期待していた分だけそれなりに落ち込んだのだった。


「まあ、いっか。ありがとう、店長。機会があったら使ってみる」



*   *   * 



「見事に人がいないな。朝と比べれば不気味なほどだ」 真夜中の全く人気のない教会に、ヴェルマの小さな声が静かに響く。


「教会の人たちも、この時間はもう寝てるからな。人がいても、迷宮から帰って来るのが遅くなった人が少しいるかいないかだし」


 数百人は裕に収まる広間にも、そしてその広間を挟んで入口の対面にある受付にも、人影は見当たらなかった。


 魔石という資源に恵まれ、魔石灯という夜の光を持つ迷宮都市は、しかし眠らない街ではない。迷宮に挑む探索者も、基本的に夜には都市に戻って休息を取る。


 夜を迷宮で過ごす数少ない例外は、迷宮から帰るに帰れなくなった者達か、全体の一割にも満たない上級者と呼ばれる、一日では入口から出口まで辿り着くことが不可能な百五十階層以上に挑む探索者達だけだ。


 ヒタキはヴェルマと共に教会の広間を東に進み、魔術文字が刻まれた鈍い光沢を持つ、翡翠色の巨大な円形の台座の前で立ち止まる。


 転移門と呼ばれるその台座は、探索者の体の何処かに刻まれた神紋を起動術式として、探索者が望む階層へと彼らを瞬時に移動させる、迷宮への唯一の入口だ。


 ヒタキはその転移門の前で、腰に巻いたベルトに付いた革のホルスターから銃を抜いて、魔石が納められた銃把を見せながら複雑な気持ちでヴェルマに問いかける。


「今更だけど、これ、ほんとにもらってよかったのか?」


「昨日助けてもらった礼だと言っただろう。それに、私の好奇心を満たすためでもあるのだから、気にする必要はない。潜る階層まで私に合わせさせたんだ、そこまで気にされたら私が困る」


 だから気にするなと苦笑するヴェルマに、何て優しい人なんだとヒタキは本気で感動する。


 ホルスターの反対側に括りつけた小袋には、魔石がいっぱいに詰まっている。銃に装填した魔石も含めて売りに出せば、十万デルにはなる量だ。


「ヴェルさん、ほんとにいい人だな。いや、うん、ほんとに。だけど……そんなにいい人すぎると、苦労しそうだよな」


「百二十万を何の躊躇いもなく渡して来る奴にだけは心配されたくない」


「え? でも俺のは、ミルクとか奢ってもらったお礼だから違うだろ」


「何がどう違うんだ……」


 大きく溜め息を吐いたヴェルマは、肩をすくめて転移門を見据える。


「まあ、いい。そろそろ行こう」


「ん、了解」


 剣の柄を一度軽く撫で、ヴェルマは転移門へと足を踏む出そうとしたが、ふと足を止めた。


「忘れていた、パーティーを組まなけば」


 何時も一人だからうっかりしていたと呟くヴェルマに、ヒタキはゆるりと頭を掻きながら言う。


「組まなくてもいいと思うけどな。行くのは十五階だし」


「私の心配か?」


 ヴェルマの鋭い切り返しに、ヒタキは一瞬動きを止めて、それからこくりと頷いた。


「俺のせいで、教会から目をつけられたら面倒だろ」


 ヒタキが自らの体質をひた隠しにして来た理由とは、神の加護を受けることが出来ないことで、実質的にこの都市を管理している教会、そして周りの人間から異端視されることを危惧していたからに他ならない。


 人と違うだけで忌避されることは、既に経験して知っていた。


「阿呆が」


 トン、と神紋が刻まれたヒタキの胸に、ヴェルマの細い人差し指が置かれる。


「既に昨日一度パーティーを組んでしまっただろう。今更手遅れだ」


「いや、だけどさ――」


「――それに」

 ヒタキの説得の言葉を遮って、ヴェルマは小首を傾げながら柔らかく微笑んだ。


「私はお前と違って、神紋の共鳴がなければお前の居場所がわからないんだ。味方戦力の把握は、兵法の基本だぞ」


 ヴェルマに触れられたら神紋が、くすぐったい温もりをもって律動する。後はその温もりを受け入れるだけで、彼女とパーティーを組める状態だった。


 思考する以前に気づけばヒタキは、彼女に向かって気の抜けた笑みを返してしまっていた。


 味方戦力。何となくヴェルマらしい言い方だなと思いながら、ヒタキは腰から二つ折りにして巻いていたローブをほどいて羽織る。


「普通に仲間とか友達って言ってくれたら、もっと嬉しかったんだけどな」


「友達、か。そうだな。それでもいいぞ」


 少し照れたように笑う彼女と並んで、ヒタキは転移門の上に乗る。


 そして迷宮の十五階層を願い、再びパーティーを組んだ彼ら二人は、光に包まれて真夜中の教会から姿を消したのだった。



*   *   *




 迷宮の十五階層。床も天井も壁も、全てが灰色の石材を積み上げて作られた整然とした通路に、剣戟の音が響き渡る。


 赤く長い髪を踊らせながらヴェルマが大きく横に薙払った剣は、一体の動く人骨――スケルトンの体を粉砕しながら吹き飛ばした。


 その小さな体躯のため、『祝福の旋律』を長剣の如く全身を使って振るったヴェルマは、反動を使って大きく後ろに飛び下がり、左手を踊らせ宙に魔術文字を描く。


 彼女に迫り来る魔物の数は、総勢八体。先程切り砕いた魔物と同種のスケルトンが五、その上位種であるレッドスケルトンが一、そしてスケルトン・ウルフが二だ。


「迸れ!」


 一団の先頭を疾走する、牙を剥き出しにしたスケルトン・ウルフ一体を冷静に見据え、ヴェルマは編み終わった術式に気合いの声と共に魔力を叩き込み、下級魔術を起動させる。


 『穿つ雷光』が彼女の手より解き放たれ、空を駆ける一条の雷がスケルトン・ウルフと、その背後にいたスケルトン一体を貫いた。


 二体の敵を葬る間に間合いを詰めて来たもう一体のスケルトン・ウルフ。既に地を蹴り宙に飛び上がり、彼女にその鋭い牙を突き立てんとする敵を、しかしヴェルマは無視して剣を横に構えた。


 ダァンッッ!!


 突如響き渡った鈍い音。そして空中でいきなり真横に吹き飛んだスケルトン・ウルフに一瞥をくれることすらなく、彼女は剣を構えたまま真っ直ぐ五体のスケルトンの群に向かって走り出す。


 《対魔・魔力鎧》魔術を自動的に軽減するスキルを発動し、ヴェルマは己の意識を手に持つ剣に集中し、魔力を纏わせる。そして強化された細身の剣が真横に一閃、二体のスケルトンを両断した。


「――――ッ!」


 斬り伏せた二体の後ろ、一団の殿でレッドスケルトンの赤い骨の腕が持ち上がり、手の先で魔術式が輝きを放つ。打ち出された拳大の炎の塊、生身で受ければ肉が焼き抉られ致命傷となる下級魔術を、ヴェルマは金属製の篭手で覆った右腕を振るいで弾き飛ばす。


 そして勢いを緩めることなく、振り切った状態の剣を柄に残した左手だけで翻し、斜め前方から両腕を突き出して迫り来るスケルトンの首を落とした。


 ヴェルマの右手が宙を踊る。同じく魔術式を再び編み始めたレッドスケルトンとは、比べ物にならない速度で魔術式が展開されて行く中、最後の一体であるスケルトンが彼女の背後からガタガタと耳障りな音を立てて接近する。


 武器を持たないスケルトンの主な攻撃方法は、体当たりだ。纏った魔力で保護された頑丈な骨の体をぶつけて転ばせた後、打撃で探索者を亡き者にする。


 十階層以上に存在する魔物は、魔力炉を活用して来る。それまでの魔力を攻撃手段として用いることがない敵とは根本的に格が違うスケルトンに、多くの探索者が殺されて来た。


 意識を魔術式に割いている無防備なヴェルマに、しかしスケルトンの攻撃が届くことはなかった。


 灰色の影が、走るスケルトンの上空から落ちてくる。銀色の光が灰色の影から覗くと同時に、スケルトンの頭が砕け、そして体が爆ぜた。


 壁を蹴って跳躍し、敵の頭蓋骨に零距離から二発の炎の弾丸を撃ち込んだヒタキは、ヴェルマの背後に着地してのんびりと大きな銀の装飾銃をローブの中に戻した。


「助かったぞ、ヒタキ」


「あんまり助けた気がしないけどな」


 《魔術補助・強化(中)》《魔術付加》二つのスキルを発動し、ヴェルマは完成した中級魔術『雷の雨』を剣に宿し、地を蹴る。


 敵が放った二つ火炎の球を雷が迸る剣で易々と切り裂き、ヴェルマは最短距離で間合いを詰め、袈裟懸けに振り下ろした剣の一撃でレッドスケルトンを粉砕した。


「ふむ、やはりヒタキがいるだけでかなり効率があがるな。私だけではあの数はきつかった」


「別に俺がいなくても、ヴェルさんなら倒せただろ。かなり強いし」


「加護が、特にスキルがなければあの戦い方は出来ない」


 剣を腰の鞘に納めてゆるりと首を横に振るヴェルマに近付いて、ヒタキは敵の魔術によって抉られた篭手に覆われた彼女の右腕を見る。


「さっき火の魔術殴ってたけど、怪我は?」


「対魔・魔力鎧と防具の上からだったから問題ない。まあ、篭手は多少破損したがな」


「…………」


 ほら無傷だ、と苦笑しながらヴェルマは篭手を外して素肌を見せた。ヒタキは開きかけた口を閉じて、無為に頭を掻く。


「ん、ヒタキ。ちょうどよかったな、魔石だ」


 先程倒したレッドスケルトンの残害の中に赤く輝く小さな石を見つけたヴェルマは、それを拾ってヒタキに投げて渡す。


「その武器、使い勝手はどうだ?」


「何て言うか、店長がタダでくれた理由がわかった。これ、魔石入れ替えても何秒かしないと撃てない」


「む、戦闘中は普通に魔術を使った方が効率がいいということか。アドバンテージを得られるのは初撃だけ……いや、それも多少魔力を消費するが、術式を待機状態にしていれば同じだな。ランニングコストも魔力回復薬を使って魔術を使う方が遥かに安くすむ」


 結論、金持ちの道楽品――と、ヴェルマは小さく笑いながらそう締めくくった。


「まあ、俺にとっては貴重な護身用具なんだけどな。貴重すぎて使えねえけど」


「もっともお前には、あまり使う機会もなさそうだがな。ふふ、まあ今日の所は私の身を守るために存分に使ってくれ」


「ん、了解」


「それでは行こうか。門まで最短距離で頼むぞ。お前がいれば、この階層の敵にはそうそう遅れを取ることはないだろうからな」


 そして二人は再び走り出す。既にこの階層を突破しているヒタキの案内の下、迷宮をさ迷うスケルトンを蹴散らしながら。


 ヒタキが敵を察知し、ヴェルマが先手を打つ。時には剣で切り裂き、時には魔術で一掃する彼女の隙を狙う敵を、ヒタキが魔力の弾丸で撃ち抜く。


 迷宮内に設置された全ての罠をヒタキの察知能力で回避しながら、二人は一夜の内に破竹の勢いで十五階層、続く勢いで十六階層、そして十七階層までもを踏破したのだった。



*   *   *



Party name : No name


Name : ヒタキ

Guardian : 慈愛の女神ライア

Rank : F

Level : 1

Class : ウォーリア



Name : ヴェルマ

Guardian : 天秤の女神アリア

Rank : F

Level : 32

Class : マジックナイト



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