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逃亡人生  作者: クク
第一章 “呪われた姫君と愚かな賢者”
10/18

捕らわれのお姫様と最後の休息

「あれだけやって稼ぎが殆どないというのも、逆に清々しいな」


「俺だけだったら破産してるぞ」


 一晩で三階層を抜けるという無茶をしたその日の夕方、ヒタキとヴェルマはカウンターの上に散らばる数枚の硬貨を遠い眼で見ていた。


 朝方に迷宮を抜けて換金がてら商業区に立ち寄った後、憩い亭に帰り着くなり泥のように眠った二人。つい今し方目を覚ましたばかりのヒタキとヴェルマは、改めて今回の稼ぎを確認して少々愕然としていた。


 必要経費と生活費を差し引いた純利益は、目の前の子供の小遣い程度の金額のみ。


 ヒタキは無言でそっと腰の銃をカウンターの上に置いた。その銀色の輝きに、ヴェルマが若干腰を引く。


「やはりどう考えても道楽品だな。使い続ければ社会的に死ぬぞ」


「何て言うか、呪いの武器みたいだよな」


「ああ。命を削る武器があるとは、流石迷宮都市だ」


 戦々恐々として銀色の装飾銃を睨む二人だった。


 一度使ったことがあるのか、厨房の中の店主は鼻で笑っている。どうでもいいけど巨大な包丁で肉を切り刻みながら笑わないでほしいと、凶悪犯面の店主にヒタキは割と本気でそう思う。


 小さい子が見たら泣きそうだ。


 そんなことを考えながら、隣の小さいけどかっこよくて強くて綺麗な年上のおねえさんを横目で見れば、彼女の翠色の瞳と目があった。


「今さり気なく馬鹿にされた気がしたが……まあいい」


 謎の直感を発揮したヴェルマは、「それよりも」と少しだけ気まずそうに続ける。


「やはり、レベルは上がらなかったのだな。魔物を倒せばあるいは、と思ったのだが」


「あ……」


 思わず間の抜けた声を出したヒタキは、納得した。何故ヴェルマが、あれほど無茶をして魔物を刈ったのかを。何故わざわざ、避けて通れる戦いまでもを全て正面から受けたのかを。


 可能性を、捨てなかったのだろう。魔物を倒し続ければ、ヒタキに加護が与えられると信じて。


 まるで、力になれず申し訳ないとでも言いたげな彼女の瞳。気づけばヒタキはその瞳から――――逃げていた。


「まあ、そういう体質だから。でも、昨日は魔術使えたみたいで嬉しかった。俺、諦めてたし。魔石くれてありがとな、ヴェルさん。店長もだけど」


「そうか、それはよかった」


 そう言ってヴェルマは嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んだ。


 ヒタキはそんな彼女に頬を緩め、赤い頭を撫でようと手を伸ばして、


「だから、私の頭を撫でようとするな」


「いや、何かこう、無意識で……」


「私は二十五だ!」


 何故か理不尽に怒られた。


 子猫のように目をつり上げ、心なしか赤い髪の毛を逆立てている彼女。


「誰が子猫だっ!」


 今後は理不尽に威嚇された。


「俺、何も言ってねえのに……」


「余所でやれ」


 店内で騒ぐ二人に近づき、店主が低い声で一喝。時間的に客が少ない店内で、二人は完全に悪目立ちしていた。


「いや、だから俺は……何でもない」


 自分は騒いでないと抗議しようとしたが、店主に睨まれてすぐさま殺意に満ちた隻眼から視線を逃がすヒタキ。そんなヒタキを一瞥し、店主は舌打ちをしながら二人に背を向ける。


「噂が広まってるぞ」


 店主の低い声に、ヴェルマが僅かに瞳を細める。そして横目で、テーブル席に座る二組の客を盗み見た。


「どのような?」


「お前の隣に座っている脳天気な面をした男が、五十階層を抜けてるって噂だ。加護どころか、魔力もない卑怯者の魔力無しアウトサイダーだとよ」


「卑怯者?」


「何も知らない探索者に取り入って、そいつらを盾にして迷宮を攻略する外道らしいぞ。しかも死んだそいつらの武器を売り払った金で、幼い女の子を囲って道楽三昧に興じる変態だ」


 相変わらずすらすらと出てくる情報に、正確にはその情報の内容にヴェルマは言葉を失っていた。


 珍しくも呆けている彼女を物珍しげに見つめながら、ヒタキは呑気に感心する。


「ふーん、すごい奴がいるんだな」


「お前のことだろうが、クズ」


「え、俺? 俺、そんなことして――」


「幼い、女の子だと……? 誰だか知らないが、いい度胸だな」


「え……そこ、重要じゃない気が――」


「黙れ!」


 結果、さっきより荒れた。



*   *   *




「加護どころか魔力すらない人間が、普通のやり方で迷宮から生きて帰ることは不可能だ。故に、卑怯者という噂に繋がる。普通ではない方法、つまり他者を犠牲にする外道とな。いささか論理の展開が強引ではあるが、誰もが一度は思いついてしまう方法だけに、浸透性が高まるのだろう。その上、遺品が収入源であることは紛れもない事実だからな」


「んー……、確かに最近、おねえさんと一緒にいることも多いしな」


「私は二十五なのだがな」


「俺だって、そんな悪いことしてねえのに」


 五分間の言い争いの末、子どもの小遣い程度の稼ぎを二人で仲良く分け合い、注文した紅茶とミルクを啜るヴェルマとヒタキは、二人揃って大きく溜め息を吐く。


 噂についての検証が意外とすんなりと終わりはしたが、噂によるダメージはかなり大きかった。


 やれやれと肩を竦めるヴェルマに、ヒタキは少し目を伏せて右手で頭を掻く。


 疎まれ続けることが常で、人と深く関わることなく生きてきたヒタキには、友人と呼べる存在は今まで一人しかいなかった。


 だからヴェルマは、ヒタキにとって二人目の友人だ。


 ヒタキは、ヴェルマが死に場所を求める理由を知らない。


 そしてヒタキだって、ヴェルマにまだ語っていないことが沢山ある。


 お互いにまだ知らないことばかりだが、それでも確かに日々を共に過ごし、そして共に戦う友人だ。


 だからヒタキは、ヴェルマを――――大切な友人を困らせるようなことは、したくなかった。


「ごめん、ヴェルさん。俺のせいで、幼い女の子なんて噂流されて……」


「貴様、喧嘩を――」


 鋭い瞳でヒタキを睨み据えようとしたヴェルマは、一瞬の硬直の後にふわりと目尻を下げて柔らかく苦笑した。


「まったく、何て顔をしているんだ」


「…………」


「噂が流れた原因はともかくとして、その内容まではヒタキのせいではないだろう。だからお前が気に病む必要はない」


 そう言ってヴェルマは、ヒタキの頭を撫でた。


「んー……、やっぱり恥ずかしいな、これ。子供扱いされてるみたいで」


「当然だ」


「ただ、もっとやって欲しいんだけどな」


「だから何故そうなる」


 困ったように肩を落とすヴェルマに頬を緩めかけ、しかしヒタキは首を傾げながらゆっくりと店の入口に視線をやった。


「どうした、ヒタキ」


「メリル、だと思うけど……何か、嫌な予感しかしねえや」


 言い終わらないうちに店の扉が開かれ、軽やかなベルの音が静かな店内に響く。そして青い髪の少女メリル・カナートが、店の外から姿を現した。


 彼女はコの字形のカウンターに囲まれた厨房の中の店長に頭を下げて挨拶し、店内を見回す。


 そして店の一番奥に座るヒタキとヴェルマの姿を見つけ、きょろきょろと動かしていた瞳を止めた。


「ふむ、面倒な予感か。確かに思い詰めているというか張り詰めているというか、穏やかな雰囲気ではないな」


「ヴェルさん、何で俺の手掴んでるんだよ」


「逃げようとしていただろう?」


「…………」


 二階の自室に上がろうとしていたヒタキは、不敵に微笑むヴェルマに小さく溜め息を吐く。


 もう、逃げられそうになかった。


「こんにちは、ヴェルマさん、ヒタキさん」


「二日ぶりだな。元気そうでなりよりだ」


「ん、こんにちは」


 ぺこりと青い頭を下げるメリルの表情は、ヴェルマの言う通りやはり少し固い。


 あの派手な人に何かされたのかなと思いながらも、ヒタキはのんびりとミルクをちびちび飲む。


 それにしても、最近贅沢ばかりしてる気がする。このまま贅沢に慣れて、ただの水が嫌になったらどうしよう。ミルクが美味しすぎて困る。


「今日は、ヒタキさんにお話があって来ました」


「え、俺?」


「はい。先日の夜の件です。何故リョウさんに、あんなことをしたんですか。いきなり剣を突き付けるなんて……」


 失望しました、とメリルは目を伏せてそう言った。


 失望されてしまった。しかもいきななり、贅沢の恐ろしさについて考えている最中に。


「え、いや、だってヴェルさんが危なかった――」


「どこが危ないんですか! リョウさんは頭を撫でようとしていただけじゃないですか! ……それは、ヴェルマさんを子供扱いしたことは彼の落ち度ですけど、だからと言ってあんなことをするなんてあんまりです」


 言い訳もさせてもらえなかった。


 散々怒られて正直落ち込んでしまったヒタキは、無為に後ろ頭を掻く。


 何か、さっきから理不尽に怒られてばっかだ。


「メリル、落ち着け。時には感情的になることも必要だが、今はその時ではないと思うぞ」


「――……っ! は、はい……」


 頭が冷えた様子のメリルに、ヴェルマは店主の背中に視線をやりながら言った。


「場所を移そうか。店に迷惑をかけるわけにはいかないだろう」




*   *   * 




 ベッドと小さなテーブルの他には衣類が入った木箱しかない殺風景な部屋に入るなり、立ったまま向かい合うヴェルマとメリル。あんまり二人の間に入りたくなかったりするヒタキは、堅いベッドに腰掛けてぼんやりと二人を見ていた。


「メリル、冷静に順序立てて考えてみろ。ヒタキがリョウ・アカツキを害して、何かしら得をすることがあると思うか?」


「…………」


 沈黙するメリル。ヴェルマはそんな彼女に、諭すようにゆっくりと話す。


「先程ヒタキが言ったことに、嘘も偽りもない。確かにヒタキはあの日、私を助けるために動いた。それは紛れもない事実だ」


「で、でも……そもそもリョウさんが、ヴェルマさんを傷つけるはずがありません。それに――そうです、事実リョウさんは何もしていなかったじゃないですか!」


 声を荒げるメリルに、リョウ・アカツキを疑う気持ちは全くないように見えた。


 メリルが本当にあの少年に強い信頼を寄せているのか。それとも魔力によって精神を汚染されているのか。


 どちらが原因なのかを、現状では確定することは出来ない。だからこそヴェルマはもう一歩踏み込んで、言った。


「もう一つ――リョウ・アカツキが何らかの魔術、技術、スキルを用いて、私の精神に干渉しようとしていたことも事実だ。だから私は、お前も私と同じようにあの少年に何かをされ、洗脳されているのではないかと考えている」


 淡々と、しかしその分真剣に告げられた言葉に、メリルは唖然とする。


「え……洗脳? 私が、リョウさんに?」


「そうだ。あの少年の力で、お前は正気を失っている。だから今すぐに縁を切れ」


 呆けていたメリルは、しかし次の瞬間には怒りに目を見開き怒鳴っていた。


「何てことを言うんですか!! 彼は、リョウさんはそんなことする人じゃありません!」


「事実私はそのようなことをされた」


「でたらめ言わないでください! 証拠はあるんですか!? そんなのただの言いがかりじゃないですか!!」

 完全に怒り狂うメリルに、ヴェルマはヒタキを視線で示す。


「私の証言で不十分なら、ヒタキの証言も加えよう。ヒタキもあの時、嫌な感じの魔力がリョウ・アカツキの瞳に集まっていたと言っている。まあ、その曖昧な情報から洗脳という推論をたてたのは私だがな」


「そんなの、証拠になるわけありません! だってヒタキさんは魔力も加護もないんですよ!! 高名な魔術師だって不可能なのに、そんな人が魔力の流れを感知するなんてこと出来る筈がありません」


 きっぱりと言い切るメリルには、取り付く島もない。しかしその反応は予想済みだと言わんばかりに、ヴェルマは平然と返した。


「ならばなぜお前は、ヒタキがあのような行動を取ったと考える? 先程も言った通り、メリットは何もない。それどころか、ヒタキはあの少年と関わることを嫌がり、初めてあの少年と会った時に私を置いて逃げたことすらあるのだぞ」


 リョウ・アカツキがヴェルマに危害を加える理由がないのと同様に、ヒタキにもそのようなことをする理由はない。しかしあの衝突が現実に起こった以上、どちらかが先に手を出したことは事実だ。


「そ、それは……」


 言いよどむメリルを、ヴェルマはただ無言で見つめている。そしてもうそれ以上、ヴェルマは何も言うつもりがなさそうだと、ヒタキはぼんやりとそう思った。


 どちらでも、いいのだろう。彼女はこだわっていない。メリルに嫌われることにも、感謝されることにも。


 ただ最悪の結果を回避することができれば、それでいいのだろう。


 損な生き方だなと、少し悲しい想いで小さな彼女を見ながらヒタキはそう思う。


 いい人すぎるよな、ほんとに……。


 無意識のうちに頬を緩めてしまいながらも、ヒタキはこれでこの会話は終了だと判断して今日の夕飯について考えを巡らせる。今日のオススメは何かなと少しわくわくしながら考え始めたのだが、しかし何故か収まらない不穏な空気に首を傾げる。


 何でだろうと俯いてしまった青い髪の少女を見てみれば、彼女の顔は何故か真っ赤な上に、大きな目が潤んでいた。


「り、理由なら、理由ならちゃんとありますっ! えっと、理由は、理由は……――そう、ヒタキさんがリョウさんを妬んでいるからです!!」


「…………は?」


「え、俺、あの人のこと妬んでるのか?」


 自称クールで知的で冷静な魔術師の卵は、暴走していた。それはもう、見事に。


 論破されたことで火がついてしまったのかは定かではないが、唖然とするヒタキとヴェルマに向かって、メリルはわたわたと両手を動かしながら力説を始めてしまった。


「そうです、そうなんです!! 以前から考えていたんです、何でヒタキさんが魔法を追えば不幸になるなんてことを言ったのかを! リョウさんのおかげで謎が解けました! 魔力がない人間なんて、いるはずがありません! 普通じゃありません! だからそこで魔法と不幸というキーワードと繋がるんです!!」


「…………」


「…………」


「ヒタキさんは昔、私と同じように魔法使いになろうとしていたんじゃないですか!? そうです――そして失敗してしまい、魔力を失ってしまったんです。世界の真理に至り、この世の理をもねじ曲げるのが魔法! 失敗の影響で魔力を失ってしまう可能性は十分にあります! どうですか、私の推測は!?」


 肩で息をするメリルに、ヒタキは首を傾げて言った。


「妬んでるとかって話は?」


「え? ……あ、え、そうです、だから、えっと……あ! リョウさんは、神眼を始めとした素晴らしいスキルを持っていて、都市全体から期待もされている凄い人です。だから過去に失敗してしまったヒタキさんは……成功しているリョウさんを、その、妬んでいるんです……きっと」


 自称卵は、流石に最後までは自信を保てなかった。可哀想になるくらい、泣きそうになっている。

「その、何だ……なかなか斬新で、飛躍的な推測だったな。今日は疲れただろう。もう帰って休むか?」


「あ、う……お気遣い、ありがとうございます。ヒタキさん、今のは失礼でした。すみません。で、でも……やっぱり私は、ちゃんとリョウさんに謝って欲しいです!」


 ヴェルマの勧めに従い、メリルは一度頭を下げてから逃げるようにして部屋から出ていった。


 嵐の後が如き静けさが、部屋に訪れる。


 静まり返った部屋に取り残された二人は、揃って小さく溜め息を吐いたのだった。




*   *   *




「十中八九、正気ではないな。まあ、断言は出来ないがな」


「え、何でだ?」


「恋は盲目だと言うだろう。私には判断がつかないが、可能性としてはありえる」


 再び座り直したカウンター席で、ヴェルマが困った困ったと苦笑する。


「これで洗脳云々が勘違いで、あの子がただ単にあの少年に惚れていただけだったら目も当てられない」


「ふーん、恋か。正直よくわかんねえけど、大変そうだな」


 本気でよくわからなかったから適当に相槌を打っていたら、ヴェルマから心なしか冷たい目で見られた。


「まあ、いい。それより店長、少しいいか?」


「何だ」


 厨房の店主は、振り返ることなく巨大な鍋をかき混ぜて夜の営業の準備を進める。今日のオススメディナーの一品は、野菜のスープらしい。


「状態異常だったか、それを治す手っ取り早い方法は何かないか?」


「だいたいは教会の施設に行けば治るが……確実に治せるのは『聖女』(ジ・エンド)か、教会騎士団の第八席だな。まあ、八席はともかくあの女は絶対に動かない。とりあえずは、それなりのレベルの慈愛の女神か光の神の加護者に診せるのが、一番妥当な手段だ。あとは、薬だな」


「慈愛の女神か……」


「俺を見ても、どうにもなんないぞ」


 スキルなんて持ってねえんだからとぼやくヒタキに、ヴェルマは苦笑する。


「一応確認してみただけだ。それにしても、お前の察知能力は本当にスキルではないのだな」


「うん、ただの特技だな。俺の体って魔力がないから、その分魔力には敏感なんだ」


「ふむ。あまり感覚がつかめないが、そういうものなのか」


「んー、まあ、そういうもんだな。ヴェルさんにとったら魔力なんて、空気みたいに何時でも体の外にも中にもあって当然のものだろ? だけど俺は、そうじゃないから」


「井の中の蛙、か」


 ぽつりと呟いたヴェルマに、ヒタキは首を傾げる。


「……え、馬鹿にされた?」


「阿呆。今さら馬鹿にするか。井の中の蛙大海を知らず。されど、空の深さを知る。お前以外の人間には持ちようがない特技だと、褒めただけだ」


 なるほどと納得するヒタキに苦笑しながら肩を竦め、ヴェルマは店主に軽く頭を下げた。


「貴重な情報、感謝する。とりあえずは薬探しもかねて、明日一度『森の囁き』に行ってみよう。一応、顔見知りでもあるしな」


「お前も難儀な性格だな。人騒がせなお姫様の世話なんて、焼くだけ損だろうに」


 鼻を鳴らして嘲笑う店主に、ヴェルマは再び肩を竦めて挑発的に笑い、そしてヒタキが呑気に欠伸をする。


「捕らわれのお姫様を救い出せば、いいことがあるかも知れないぞ?」


「どっちかって言うと、呪われのお姫様だけどな」


 ――――こうして迷宮都市の一日は過ぎて行く。


 予期しないお姫様の襲撃がありはしたが、しかし基本的にヒタキとヴェルマは何時ものカウンター席で、ひたすらまったりダラダラと一日を過ごしたのだった。


 ――――あたかも、明日から始まる波乱の前の、最期の休息のように。

*感想等頂ければ嬉しいです。

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