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武将 蒲生氏郷 第6話 岐阜へ

六角家の衰えが誰の目にも明らかになった翌年、

近江の情勢はさらに大きく揺れ始めていた。

観音寺城を中心とした六角氏の支配は、

かつての強さを失い、

国人衆の離反が静かに、しかし確実に進んでいた。

永禄十一年(1568)、

織田信長が足利義昭を奉じて上洛を開始すると、

その進軍は近江にも大きな影を落とした。

六角承禎・義治父子は抵抗したものの、

織田軍の勢いは強く、

観音寺城はわずか数日のうちに放棄され、

六角家は甲賀へと落ち延びた。

この“観音寺城の陥落”は、

近江の武家にとって

一つの時代の終わりを告げる出来事であった。

蒲生家もまた、その渦中にあった。

六角家の宿老として長く仕えてきた家である以上、

織田家との関係をどう築くかは

家の存亡に直結する問題であった。

そのため、

永禄十二年(1569)に入る頃には、

蒲生家中ではすでに

「織田家へ人質を差し出すべきか」

という議が重ねられていた。


そして、

その役目を担うのは、

まだ十二歳の鶴千代であると決まった。

決定が下された日の屋敷は、

異様なほど静かだった。

家臣たちの声は低く、

誰もがこの決断が

“六角の時代の終わり”を意味することを理解していた。

鶴千代は、

その空気を胸の奥で受け止めていた。

家のために自分が動くという現実は、

幼い心に重く沈んだが、

恐れよりも、

これから向かう世界への静かな興味が勝っていた。

左馬允は、

会議の後に鶴千代の前に進み出て、

深く頭を下げた。

「鶴千代様。

 岐阜への道、私が共に参ります」

その言葉には、

守役としての務めだけではなく、

六角家の滅びを知る者としての

静かな覚悟が宿っていた。


岐阜城は、

信長が美濃を平定した後、

天下布武の拠点として整えた城である。

その規模、

その秩序、

その速度は、

近江の武家社会とはまったく異なる世界であった。

鶴千代は、

その世界に自分が踏み込むことを

まだ想像できてはいなかったが、

胸の奥で何かが静かに動き始めているのを感じていた。

六角の影を背負い、

家の未来を担う少年は、

こうして岐阜へ向かうことになる。

その先に、

織田信長という巨大な存在が待つことを、

この時の鶴千代はまだ知らなかった。


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