表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/105

武将 蒲生氏郷 第53話 鉄砲隊訓練の視察

演習場の中央では、鉄砲隊が次の訓練に備えて整列していた。

足軽たちは汗を拭う暇もなく、指揮役の合図に従って三列に並び直す。

その動きには、戦場の緊張とは異なるが、

確かな“実戦の気配”が宿っていた。

氏郷は左馬允とともに、

少し高くなった土盛りの上からその様子を見下ろした。

視界には、先ほどの射撃で漂った煙がまだ薄く残り、

風に押されながら谷の向こうへ流れていく。

指揮役の声が響き、

前列が一斉に射撃姿勢を取った。

火縄の火がわずかに揺れ、

次の瞬間、乾いた破裂音が連続して走る。

氏郷はその動きを細かく追った。

射撃の瞬間、前列の足軽がわずかに身を沈め、

後列が一歩前へ進む。

その動きに乱れはなく、

まるで一本の線が前へ伸びていくように見えた。

(……揃っている)

しかし、氏郷の目はそこで止まらなかった。

前列の一人が、弾込めの手順をわずかに遅らせた。

その瞬間、周囲の足軽たちが自然に間合いを調整し、

乱れを吸収するように動いた。

(……いま、揃いが乱れた)

氏郷は即座にそう感じ取った。

乱れは一瞬で収まり、

隊全体の流れは途切れなかった。

だが、そのわずかな“揺らぎ”は確かに存在した。

「左馬允。

 いま、揃いが乱れたな」

氏郷がそう言うと、

左馬允は驚きもせず、静かにうなずいた。

「殿のお目は確かにございます。

 あの一瞬の遅れを見抜ける者は、

 この場にはほとんどおりませぬ」

氏郷は再び演習場に目を向けた。

足軽たちは次の射撃に備え、

火縄の火を確かめ、銃口の角度を揃えている。

その動きは整然としていたが、

整然さの裏には、

常に乱れと隣り合わせの緊張があった。

「揃いとは、形を揃えることではないのだな」

氏郷がつぶやくと、

左馬允は静かに答えた。

「はい。揃いとは“整い続けること”にございます。

 動きの中で揃いを保つからこそ、

 鉄砲隊は流れを失わずに済むのです」

氏郷は深くうなずいた。

茶の湯で見た香の線が、

風の揺らぎに合わせて形を変えるように、

鉄砲隊の揃いもまた、

動きの中で保たれる秩序であった。

(……揃いとは、流れを守るための形)

その理解が、

氏郷の中で確かな輪郭を持ち始めた。

左馬允は氏郷の横顔を見つめ、

静かに言葉を続けた。

「殿は、戦の線を読む目を持っておられます。

 それは誰に教えられるものでもございませぬ。

 しかし、その線を戦術に変えるには、

 理を積み重ねねばなりませぬ」

氏郷は演習場の光景を胸に刻んだ。

揃いの乱れを見抜く目。

流れを感じ取る感覚。

それらが、

戦を“組み立てる者”の基礎になることを、

この日の視察で確かに理解したのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ