第1話 街の探偵
「―――あっ、そっちに行った捕まえて!」
「やっと追い詰めたぞ。ったく、ちょこまかと逃げやがって」
穏やかな昼下がり、茶色のコートを着た若い女と少々口の悪い男が路地裏を駆け回っていた。
ここはバルモスという街。この街は多くの商業施設が立ち並び昼間は活気あふれる街で旅行者も多くいる。だが日が沈み外が暗くなるとすべての店が閉まり人影のないとても静かな街となる。
そんな街でこの男女二人は探偵をやっている。
「はい、おばちゃん探してた白い猫、見つけてきたよ」
「ありがとねぇ、ミィナスちゃん。この子ったらすぐにどこか行っちゃうんだから」
「それじゃあ私たちはこれで依頼完了ということで失礼するね。今後とも困ったことがあればネルト探偵事務所にご連絡を~」
ミィナスはそう言ってその場を一緒にいた男と後にした。
「ねぇーロデスお茶淹れてー」
探偵事務所に帰るとミィナスはソファーにダイブしてお茶を要求した。
「そこの周り片づけたら考えてやるよ」
見るとソファーの周りは衣服やチラシなどが散らばっていた。
「飲んだら片づけるからお茶入れてよ」
「そういって三日も経ったんだぞ」
二人が言い合っていると突然電話が鳴りだした。
「はい!こちらネルト探偵事務所です」
ミィナスはすぐに電話と取った。
「あー分かった、すぐ行くよ」
けだるげな声でミィナスは受け答えをし電話を切った。
「尋問か?」
「そう、今すぐ署に来てくれだって。さ、行くわよ」
ロデスはそっとカップに入れたお茶をミィナスに渡し飲み終わったカップを受け取ってから二人は警察署に向かった。
バルモス街の中央通りに位置する大きな建物がバルモス中央警察署だ。この建物の三階に取調室がある。
「来たか・・・急に呼び出してすまなかったな」
「いつものことでしょ、オルダン警部」
部屋の前に煙草を持った男が待っていた。
部屋の中に入るとスキンヘッドの手錠がかけられた男が椅子に座っていた。
「こいつの名前は」
「レイノス・デルト36歳。国際テロ組織黒蛇のメンバーでこの街のどこかに爆弾を仕掛けると今朝、署に向けて電話があったそうだ。そしてこいつは爆弾を駅のトイレに仕掛けた直後に偶然居合わせた非番の警察に取り押さえられたそうだ」
「マヌケだな」
ロデスは警官から受け取った資料を読み上げた。
「じゃあ、尋問を始めるとしよう」
ミィナスはそう言ってレイノスの対面に座った。
「けっ、こんな女が俺を尋問とは舐められたもんだな」
「なんとでも言うといい。私はこんな茶番さっさと終わらせて家に帰りたいんだ。だから手短に聞く。他のどこに爆弾を仕掛けた」
そう言ってミィナスはレイノスと目を合わせた。
すると・・・
「三人の仲間と後九個時限式の爆弾を仕掛けてある。場所は二カ所ある公園に二個ずつ、街の四区画を走る四両の路面電車に一個ずつそして最も威力の高い爆弾を商業区に置いてある。そしてこのすべての爆弾は後一時間後に爆発するようになっている」
今まで口を割らなかったレイノスがぺらぺらと爆弾の場所と仲間の人数を吐き出した。
「これで尋問は終わり。ほら、後は警察の仕事だよ」
ミィナスは立ち上がり部屋から出ていた。
「いやぁ、いつ見ても恐ろしいな。その眼は・・・」
ミィナスを見送りながらオルダンはそうつぶやき煙草を吸った。
ミィナスとロデスは事務所へ帰るためいつもより騒々しい街を歩いていた。
「ねぇ、ケーキ買って帰らない?」
「ダメだ」
ミィナスは上目遣いでロデスに頼んでみたがきっぱりと断れてしまった。
「《《あれ》》を使うと甘いものが食べたくなるの!今の私には糖分が必用なの」
「じゃあ先に帰って事務所片づけてこい。俺が帰るまでに片付けてなかったらケーキは俺が二個食べるからな」
「本当に買ってきてくれるんでしょうね?」
「約束する」
ロデスがそう言うとミィナスは走って事務所へ帰っていった。
「行くか・・・」
ロデスはしばらく歩きケーキ屋のある商業区に来たが商業区全域に規制線が張られ多くの警察官が住民へ避難を呼びかけていた。
「ロデス、こっちだ」
ロデスを呼んでいるのは煙草をくわえたオルダンだった。
「ミィナスはどうした?一緒じゃなかったのか」
「家に帰してきましたよ。帰りにケーキを買って帰らないといけませんが」
「そうか・・・なんだか微笑ましいな」
オルダンは煙草を吸い切り胸元から拳銃を取り出した。
「俺たちは今からこの建物の四階で立てこもっているテロリストどもを捕らえに行く。奴らが仕掛けた爆弾はこの建物の裏口にいる解除班が見つけ出し解除する手筈
になっている」
「了解。殺しは?」
「相手が攻撃してきたら殺しても構わん。だが基本は捕縛だ。爆発まであまり時間がない、準備は良いな?」
「いつでもいけます」
「では、突入を開始する」
ロデスも拳銃を構えオルダンと共に建物に突入した。建物の中はすでに荒らされており複数の銃跡があった。二人は階段を上がり四階のテロリストのいる部屋の前に来た。
オルダンは扉の前へで止まると勢いよく扉を蹴り開けた。
「バルモス警察だ!おとなしく投降しろ!」
オルダンはそう言いながらテロリストどもに銃口を向けた。
「サツがもう来やがったのか」
「おい、サツども妙な真似するなよ。俺がこのボタンを押せばすぐに爆弾が爆発しちまうぜ」
テロリストは遠隔で爆弾を爆発させることができるというボタンをロデスとオルダンに見せつけニヤニヤしていた。
「おい、サツども大人しく銃を床に置け。そしたらこのボタンは押さないでおいてやるよ」
このテロリストの指示に大人しく従うわけもなくロデスは躊躇なくテロリストの持っているボタンを銃で撃ちぬいた。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ死にたくなきゃさっさと投降しろ。あと爆弾はすべて時限式だってお前たちの仲間が教えてくれたぞ。だからそんな脅しは通用しない」
突然銃を撃たれたこととロデスの圧により声を出せなくなったテロリストどもは両手を上げ投降した。
投降したテロリストどもを縄で縛っているとこの部屋の中に解除班の一人がやってきて『爆弾を解除した。もう爆発することはない』と報告して部屋から出て行った。
「お前も帰っていいぞ。ケーキを買って帰るんだろ早くいかねぇと店閉まるぞ」
「もうそんな時間ですか。それではお言葉に甘えてお先に帰らせていただきます」
オルダンに頭を下げロデスはケーキ屋へ向かった。
「これでも四年前のあの事件の後に比べたら丸くなった方か・・・もう四年経つんだなカディール」
オルダンはポケットから取り出した一枚の写真を見ながらそうつぶやき煙草に火をつけた。写真にはオルダン、ロデス、そしてカディールという男が写っていた。
「オルダンせんぱ~い撤収作業が終わったんで帰りますよ~」
「あぁ、すぐ行く」
部屋の外から元気な女性の警官がオルダンのことを呼んでいた。
「先輩何見てたんすか」
「昔の写真だよ」
二人は談笑しながら建物から出て警察署へ帰っていった。
「ミィナス、帰ったぞ」
ロデスがネルト探偵事務所に帰りミィナスが寝転んでいるソファーの方を見ると昼間とは違いきちんと片付けられていた。
「随分遅かったじゃない」
どうやらケーキを買って帰るのが遅くなってミィナスは少々機嫌が悪そうに見えた。
「・・・いくつかケーキを買ったから好きなのを選ぶといい。俺はレモンティーでも入れてくる」
そう言ってロデスはケーキの入った箱をミィナスの目の前にある机の上に置いた。
「本当に好きなの選んでいいの?」
「あぁ、だが夕食前だから一つだけだぞ」
ミィナスはすっかり機嫌を直し楽しそうにケーキを選んでいた。
ロデスもレモンティーの入ったカップを二つ持っていきミィナスの隣に座ってケーキを選んで二人で食べた。




