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第8話 『魔王討伐記』

「さて、アクセルさま。ホリーさまは私の提案を受けてくださいましたが、いかがでしょうか?」

 ヴァンプからホリーを引き離したアクセルは、再び剣先をヴァンプに向けた。

「わかったよ。このままお前たちを野放しにするのが、どれだけ危険かを。たとえ俺がどうなろうと、魔族の侵攻を阻止して世界を平和にするのが俺の使命だ」


「平和ですか――」ヴァンプは向けられた剣先を気にする様子もなく、含み笑いを浮かべた。「――しかし平和になれば、あなたを恨む方も出てくるでしょう。例えば先代勇者ロレンスさまとか……」


 先代勇者ロレンス。十年前に魔王討伐の任を受け、魔王をあと一歩のところまで追い詰めた第六代魔王討伐隊の勇者である。ロレンスたちの活躍により魔王軍の侵攻は後退し、一時的ではあるが世界は平和を手にしたのだった。文字通りハジメノ王国の英雄であり、アクセルの剣術の師匠でもあった。


「何をふざけたことを。師匠の果たせなかった魔王討伐を俺が成してみせる。そのために師匠の元で厳しい修行を積んできたんだ」

「まさに、それです」

 ヴァンプは、勇者の言葉の中から望んでいた単語を拾い上げた。その仕草は、あたかも生徒の答えを導き出した教師のようだった。

「ロレンスさまが運営されている剣術道場は、ハジメノ王国内に二十七か所ございます。実に手広くされています。もし魔王様討伐を成し遂げられたら、入門者は大幅に減少するでしょう。なにしろ平和なんですから。そうなった場合、それらの経営はどうなるでしょうか」

「なっ、そんなこと。師匠は世の中の平和のために、自分の持てる技術を教えているんだ。金儲けのためじゃない」

「ですが、入門するにあたり勇者印の木剣や、専用の道着の購入が必須になっていますよね」

「それは……全員が同じ条件で修行する必要があるからだろう」

「他にも『魔王討伐記』という小説として出版されていますね。全十二巻。それもベストセラーになっています。こちらのアクセルさまが執筆される『新・魔王討伐記』が出版されれば、どうなることでしょう」

「お、俺はそんなもの出版しない」

「あぁ、ちなみにここだけの話ですが『魔王討伐記』でもっとも人気のあるゴーレム軍との戦い。あちらは創作です。こちらにはそういった記録はございませんから」

「えっ、創作?」

 その瞬間、アクセルの顔に驚きと落胆の色が浮かんだ。

 『魔王討伐記』でゴーレム軍との戦いは、圧倒的不利な状況から仲間の機転とロレンスの勇猛によって道を切り開く、手に汗握る戦いであり、アクセルのお気に入りの場面でもあった。

「……それは聞きたくなかった」

 そう呟いたアクセルはわずかに視線を落とし、手の中の剣の柄を見つめた。

「ロレンスさまは執筆活動が性に合っていると見えて、『魔王討伐記』のあとは旅先の隠れた名店や、穴場スポットなんかを紹介する本も出版されていますね」

 道場にもそれらの本が置かれていた。ロレンス曰く『魔王軍の恐ろしさだけを説いたところで、興味を持たない人もいる。そういった人達への訴求も大切だ』とのことだった。

「今のロレンスさまは人生を謳歌(おうか)されています。どうです。アクセルさま《《も》》私の提案に乗りませんか?」

 アクセルの記憶にあるロレンスは、いつも生き生きとしていた。どんなことでも全力で打ち込み、皆を引っ張っていく。まさに勇者と言われる人物である。あの道場に通っていてロレンスに憧れない人間はいない。

――ヴァンプが提案するのはロレンスのような華やかな人生。……ん? ちょっと待て。さっきヴァンプは何と言った? 『どうです。アクセルさま《《も》》』……『《《も》》』?

「師匠の活躍はお前の提案かっ!」

 驚きのあまりアクセルの声は広い室内に響いた。

「ええ、そうです。私がプロデュースしました。――」ヴァンプは自慢げにうなずいた。「――ロレンスさまは『勇者』という市場価値をよく理解されている方でした」

 アクセルは絶句した。

「そう言われれば思い当たる節がある。自分のアパレルブランドを立ち上げたかと思えば、そのロゴを付けただけの白シャツを二桁高い金額で貴族たちに売っていたり、『いつまでも若々しく健康でいられる』を謳い文句に焼き菓子を貴族たちに売っていたな」

「さあ、アクセルさまも自分の人生を謳歌(おうか)してみてはいかがですか」

 芝居がかった仕草で両手を広げるヴァンプとは対照的に、力が抜けたようにアクセルはその場に立ち尽くした。

次回は第9話+第10話投稿で最終回となります。

最後までよろしくお願いします。

次回更新は12月10日(水)朝 予定

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