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元伝説の勇者の令嬢プレリュード(2)

 セリアの父、アデルバルドは娘の変化に多いに困惑していた。

 たった数日だ。たった数日で無邪気だった少女は、別人のようにぴんと背筋を伸ばし、研ぎ澄まされた精鋭騎士のような眼差しで見返してくるようになった。

 ひとりで書斎にやってきた娘は、何かを強く決意しているように見える。

「お父様、お願いがございます」

「……う、うん……なんだね」

 アデルバルドは、『エルセリオの狂犬』と呼ばれた歴戦の元将軍だが、今は文官として落ち着き、王に仕えている。

「私、得物が欲しいのです」

「……えもの?狩がしたいのかね。……まだ早いように思うが」

「……違いますわ、お父様。武器です。武・器」

 おかしなことを言い出した娘に、アデルバルドはさらに戸惑う。

「武器?……なぜそんなものが必要なのかね。令嬢には最も不釣り合いなものではないか」

 確かにその通りである。セリアがただの令嬢であれば。

「リシュアン殿下が私をお選びになったからには、私はこれより殿下の剣。ならば、必要でございましょう?私にふさわしい、得物が」

 不敵に唇を緩ませた娘に、アデルバルドは眉を寄せた。

「いやいや……言葉のあやにしては、物騒すぎるぞ我が娘よ。確かにそなたは殿下の婚約者としてこれから妃教育を受けねばならんが、剣術は含まれておらぬ。殿下の護衛は近衛騎士の仕事であろう」

「近衛は近衛の仕事をすればよいのです。私には、もっと別のつとめがございましょう」

「……別のつとめ?」

「はい。……まだその片鱗は見えてはおりませんが、備えておかねば」

 すっと険しい表情を見せるセリアに、「何の話をしている?」とアデルバルドは怪訝に問いかける。

「お父様には隠し事はいたしません。ですがその前に、示さねばなりません」

「何をだね」

「私の力を、です」

「力?」

「はい。お父様がその腕にて鍛え上げし騎士と兵士をひとところへ集めてくださいませ。そして私に木剣を与え、彼らと戦わせてください」

「な、何を言い出す!そなたは剣術など習っておらぬではないか、ましてや私の部下と戦わせよなどと……血迷ったか!」

「血迷ってはおりません。それで全てがわかるのです。何もかもが」

 まっすぐに父を見据えるセリアに、アデルバルドは困惑した。

 ……これは本当に、私の娘か……?

「私は、あなたの娘です。お父様」

 心を読んだかのように告げるセリアは、ほろ苦く続けた。

「ですがもう、ただのセリアではいられないのです」

 そこには、10歳の少女には見合わない悲哀の響きがあり、アデルバルドを黙らせた。

 アデルバルドはもう気付いている。

 セリアの纏う雰囲気が、強者のそれであることに。



 かくしてセリアの願い通り、訓練所に集められた兵士と騎士たちは、主人の娘と向き合うことになったが、彼らもまた大いに困惑した。

 綺麗に着飾った10歳の愛らしい少女が大人用の訓練木剣を引きずらせて立っている。

 これは何の冗談か。

「さぁ、どこからでもかかってらっしゃい」

 そう告げる少女に大人たちは笑を漏らす。

「お嬢様、騎士ごっこですか?」

「遊びにしては、泥臭過ぎますよ」

 お嬢様の遊びにつきわせるために自分たちを呼び出すとは、アデルバルド様も娘に甘い……と誰もが感じた瞬間。

 少女はふわりと舞う。

「言葉より行動で示すのみ。来ないならこちらから行くわ」

 セリアの言葉が彼らの耳に届く頃には、兵士たちは経験したことのない衝撃で吹き飛ばされていた。

 セリアが一歩進むごとに、ひとりふたりではなく、束で飛ばされる。

 はっとした騎士のひとりがアデルバルドの顔を見るが、彼の娘を見る瞳は真剣そのものだった。

 これは、遊びじゃないのか。

 戦場を知る者だけが感じるヒリヒリとした感覚に、彼らはやっと「隊列を組め!」と号令をかけ、盾と木剣を構えるも、時すでに遅し。

 セリアはスカートに風を纏わせながら、彼らの盾を一蹴する。

「これが木剣であることに、感謝なさい」

 微笑みと共に彼らは見た。

 少女の体躯に見合わない木剣から、視界を大きく歪ませる鋭い衝撃波が放たれる様を。

 アデルバルドが育て上げた彼の騎士団は、決して弱くはない。

 むしろ、戦場における彼らの実力や功績は王都の貴族や王も認めるところだ。

 その屈強なる男たちを、木の葉を散らすように吹き飛ばしてしまうセリアの剣。単純な剣戟ではなく、衝撃波まで発生させるような剣技。しかし兵士や騎士は誰一人として負傷していない。

 ……まさか。セリアは、手加減をしておるのか。

 アデルバルドは戦慄する。

 こんな技の習得は、一朝一夕で成せるものではない。ましてや訓練用の木剣でそれを成すことなど、アデルバルドですら不可能。

 これは、時間をかけて研鑽を重ね、高みにのぼったもの……英雄豪傑のそれだ。

 伸された兵士と騎士たちの間に降り立ち、セリアは視線をアデルバルドへ移す。

「お父様。私はエルセリオ王国の英雄、誉れ高き勇者、救国の聖女の剣……カレルレイスの生まれ変わりでございます。証明は、これにて」

 真実を告げるその瞳は、ただただ澄んでいた。

本日、8月20日から連載スタートとなりました。

初めましてもそうでない方もこんばんにちは。阪 美黎と申します。


なるべく多くの方に作品を認知していただくため、今日はプロローグ含め3話(ここまでのお話)を更新、21日から26日までは毎日更新予定です(固定曜日更新になるまで更新時間はまばらな可能性があります)。

その分、1回の更新の文字数は少なめになりますが、ご容赦ください。


女性のみならず、男性にも読んでいただければと思っています。

少しでも続きが気になりましたら(モチベーションにもなりますので)、ぽちっとブクマしていただければ嬉しいです。

これからよろしくお願いいたします(平伏)。


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