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伯爵令嬢セリア・エストレラの叛逆 〜前世勇者の令嬢は、前世聖女の王子との運命を切り開く〜  作者: 阪 美黎


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廃都のためのアリア(5)

 商業区画から石造りの階段をあがり、ブルジョワや貴族の邸宅、教会の跡地へと移動する。

 セリアはアレンを振り返る。

「そういえばイゼルハルト大佐」

「なんです?」

「国軍の装備は一体どうなっているの?兵士たちが落とした装備を魔獣に使ってみたら、びっくりするくらいに脆かったわ」

 あれではまともに魔獣を掃討できないどころか、我が身さえも危うい。

 セリアの指摘にアレンは息をつく。

「あぁ……国境守備隊に配備されている装備は、他の方面軍と比較しても中古品だったり、安価な粗悪品が多いんですよ」

「どうして国境警備隊だけ?」

「理由はこれです」

 とアレンは両手を広げて廃都を示す。

「北境にはこのどでかい廃都がある。しかもそこには瘴気が漂い、亡霊や魔獣が溢れてる。ここは皮肉にも自然の要塞と化していて、北側からの侵略を防いでいる」

「ええ、そうね」

「だから、ですよ。国境を亡霊や魔獣が守っているのだからと必要ないだろうと、兵装は貧弱になる一方。下級兵士の装備なんて俺が訓練兵だった頃より酷い。これじゃ規律も乱れていくってもんですよ」

 セリアは引っ掛かりを覚えて問いかける。

「多少の差はあっても、どの方面軍も軍用費は公平に分配されているはずよ。兵士の兵装を欠いて一体何に消費されているの?」

「不明瞭な支出」

 アレンは浅い笑みを浮かべた。

 それを見て、ピンと来る。

「まさか……」

 上層部が着服しているの?私的流用を?

「……帳簿を確認したことはありませんが、収支管理は杜撰でしょうね」

「…………」

 私腹をこやしているのか、愛人でも囲っているのか、賭博や遊興費に転用されているのか。具体的な用途がなんであれ、不正が行われているのであれば由々しき問題だ。

「参謀本部は内偵をしていないの?」

「北部軍は長い間、元帥や将軍たちに異動がありません。つまり、本部内に彼らと申し合わせて甘い蜜を吸っている人間がいるのであれば監査も期待できませんね」

 嘆息するアレンの表情から読み取れるのは、国軍への失望の色だ。

 反対に、セリアはにやりと笑う。

「ふーん。とても香ばしいわね、北部軍。……ユリウス」

「はいお嬢様」

「北部軍の香ばしい上層部、および参謀本部で彼らの息がかかっている人間を徹底的に洗い出して、彼らの汚職と不正の証拠を積み上げてくれる?」

「おまかせください」

 ユリウスは眉一つ動かさず頭を垂れる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。暴くつもりか?この件を」

「ええ、もちろん。ありがとう大佐。いい話を聞かせてくれたわ」

 セリアは頷く。

「民の租税は国家への信頼の証。それを防衛のために使用せず、己が欲望のために利用するなんてあってはならないことよ。それに、」

「?」

「この事実を白日の下に晒せば、北部軍の上層部の席はごっそり空くわ。となれば、誰かが穴を埋めなくてはいけないわよね」

 セリアはじっとアレンを見る。そして彼ははっとしたようにセリアを見返した。

「……俺にその席に座れと?」

「そこはあなたの活躍次第ね。まずは手柄を土産に北部軍の上層部に食い込むの。数年で実績と人望を作って都落ちから返り咲くことができれば、あなたの勝ちよ」

「……簡単に言ってくれる。俺が情報の出所だと知られたら一生国境警備のままだ」

「心配はいらないわ。なぜか、唐突に、匿名で、この情報が王政府に投げ込まれるだけだもの。出所はともかく、真偽については水面下でしっかり調査されるでしょうし」

「王政府にも息がかかってる人間がいるかもしれないのに?」

「あら、お忘れかしら?私のお父様は王政府の次官よ。お父様、この手の輩が大嫌いなの。一体、どんなきつい弾劾が待っているのかしら?……間抜けづら晒して憲兵に更迭される様を見物したいくらいだわ」

 不敵な笑みを浮かべるセリアに戦慄を覚え、アレンは口元を引きつらせる。

「俺がその席に座るかどうかはともかく……そもそも俺はまだ、あなたに協力するとは一言もいってませんが」

「だったら本当のことなんて、初対面の部外者に話さなければよかったじゃない。減俸だけじゃ済まない話でしょうに」

「……」

 確かにその通りである。

 無意識に俺は期待したのか?この令嬢の行動力や発言力に。

 年齢に見合わない毒がこの少女にはある。

 これが未来の王妃か。

()()ご令嬢だ」

「私はリシュアン殿下の婚約者。殿下の御身と、あの方がもたらす安寧の治世をお守りする剣。殿下が救うべき民の信頼を蔑ろにするような者を私は許さないわ。けしてね」

 セリアの揺るがない覚悟と信念は、信仰心に似ている。こういう目をしている人間には、逆らわない方が得策だとアレンは思った。

「妃教育を受けるご令嬢というのは、皆あなたのように逞しくなるので?」

「さぁ……?」

 よくわからないわ、と言いかけたセリアの頬をふわっとした感触が掠めた。

 いつの間にか、霧の馬がセリアの横に佇んでいた。

「……お前、また来たの?」

 セリアが問いかけると、霧の馬は嘶くそぶりをみせ、再び彼女を導くようにすっと奥へと駆けて消えた。

「……今の、フォーチュンホース?本当にいたのか」

 アレンは瞬きを繰り返して続ける。

「運がいいと見られると北部出身の兵士たちも話してましたが……初めて見ましたよ。まるでご令嬢に親しみを持っているようでしたが」

「なんだか、呼ばれているみたいなの。……先に進んでみれば、わかるのかも」

 セリアたちは馬のあとを追うようにして進み、貴族の邸宅に囲まれるようにして広がる公園へとやってくる。

 いくつもの崩れたモニュメントや花壇の跡が散らばり、上流階級の憩いの場となっていたであろう痕跡が垣間見える。

「……昔はとても綺麗な場所だったわ。噴水もあって、貴婦人や子供達の姿で溢れてた。……もう見る影がないわね」

 呟くセリアに対し、ユリウスがあるものに気付き、指をさす。

「お嬢様」

「え?」

 あるモニュメントの下に、霧の馬が立っている。

 それは公園の中で唯一崩れることなく残っている石像で、前足を高くあげ、嘶く馬の姿をとっていた。

 霧の馬はふわっと舞い上がり、その石像と重なり消える。

「あの石像が、馬の正体?」

 石像が霧の馬となって廃都を駆け回っていたの?何らかの命が宿って?

 いや、待って。馬のモニュメント。……まさか。

 はっとしてセリアは駆け出す。

「……あの馬、もしかして……」

 モニュメントの下まで来ると、そこに掘られた碑文を指で探る。

『英雄と旅した優駿、ノクタリオン号』

 と記されていた。

「……ああ……!」

 セリアは石像を見上げる。

「……ノクタリオン……お前なの?!」

 ノクタリオンはカレルレイスの馬の名前。聖女と共に旅した彼の愛馬だ。

「……ずっと、待っていてくれたのね。ここでずっと……」

 主人を守るように。

「……お嬢様、この馬をご存知で?」

 ユリウスに問いかけられ、セリアはうっすら浮かんだ涙を指で拭い、ふたりを振り返る。

「ええ、ユリウス。私の探し物は、おそらくここにある」

「……ここに?……ご令嬢は、何を探しているんです?」

「英雄の墓よ」

 怪訝に問いかけたアレンに短く答えて再度モニュメントを見上げる。

「すぐに気づかないなんて、情の薄い主人でごめんなさいね、ノクタリオン。そして、ありがとう」

 セリアは微笑みを浮かべると、強化した踵でモニュメントに躊躇いなく一撃を加えて粉砕し、吹き飛ばした。

「……うわっ……?!」

 彼女の突飛な行動と蹴りの威力にアレンは驚いて後ずさったが、ユリウスは微動だにしない。

 次にステッキでモニュメントの根本を突き、これも力任せに粉砕して弾き飛ばす。

「お嬢様……ここに墓があるとすれば、開錠のための仕掛けが用意されているのではございませんか?」

 ユリウスが可能性を示唆したが、セリアは構わず続ける。

「こっちの方が早いでしょ!」

 アレンはセリアと執事を交互に見やりながら聞く。

「こ、この尋常でない破壊力……これも妃教育の賜物か?」

「いえ、私のお嬢様が特殊なだけです」

「ああ……やっぱり、そうだよな」

 軍が手をこまねく狼犬の魔獣すらも、あっさり倒されるのが納得の怪力である。

 しばらくステッキを突き続けて掘削し、セリアはぱっと笑みを浮かべた。

「……見えた!」

 セリアの土木工事を見守っていたふたりも近づき確認すると、石櫃の蓋が顔を覗かせていた。

「……これは、随分と古い形式の墓だな」

「文字が彫られいますね。……聖女の剣・英雄カレルレイス、ここに眠る。……英雄の墓、ありましたね。本当に」

 つぶやいたユリウスをアレンは見る。

「英雄の墓?ってそもそも何なんだ?」

「厄災を討つ勇者と聖女の英雄譚はご存知でしょう?」

「あ、ああ?それは知っているが、英雄と聖女の話なんて、子供時代に聞かされるただの寓話だろ」

「詳細は、お嬢様がご存知のはずです」

 ユリウスはセリアの顔を見る。

「さぁ、ご対面よ」

 セリアは石櫃の蓋の縁にステッキの持ち手を引っ掛けると、力ませに引き剥がす。

 狭い棺の中が露わになると、武装した白骨化の遺体。その上に、虹色に青く輝く長剣が横たわっていた。

 希少なアバロン鉱物を大量に用いて鍛えられたカレルレイスのかつての剣、ルヴァルティスだ。

「やっと会えたわね」

 埋葬された直前の姿のままに、剣だけは時を止めて英雄と共にそこに在った。

 何よりセリアが心を震わせたのは、添えるようにして花輪が手向けられていたことだ。花は白骨化した英雄の遺体のように枯れていたが、聖女アレアナが添えてくれたに違いない。

「……ああ、アレアナ様。お心遣い、感謝いたします……」

 セリアは敬意を示してひとつ礼をする。

「……装備は儀礼用だが、副葬品の剣は素晴らしいな……。ご令嬢、この墓の主は誰です?」

「これは、『私』よ」

「は?それは、どういう……?」

 セリアは手を伸ばして剣の柄を取る。

「妙な気分だわ。こうして前世の自分の墓を暴き、かつての自分と対面するなんて」

 もはやアーティファクトと化したルヴァルティスをカレルレイスから引き離す。

「ああ、この虹色の輝き……汚れを知らぬ乙女のよう。なんて美しいの」

 懐かしい重みや抵抗感、振る度に帯びる残光にセリアは唇をほころばせる。

「これよ、この感覚……やっと私の手に戻ってきた……!」

 セリアは剣を両手に持ち、顔の前に構えると彼女を見守るユリウスとアレンを顧みる。

「遠からん者は音に聞け、近くばよって目にもみよ。我はエルセリオ王国の英雄、誉れ高き勇者、救国の聖女の剣……カレルレイスの生まれ変わり、セリア・エストレラ!これなるは聖剣ルヴァルティス!魔王討ち取りし我が愛剣である!」

 セリアは高らかに名乗りをあげ、虹色の剣を掲げた。

今年の10月6日で活動五周年になります。

こうして新しい創作を更新できていることに、読んでくださる読者様に感謝を。


エブリスタさんで直近、当作品を特集でピックアップしていただきました。

驚き&ありがたいのと同時に、気持ちが引き締まりました。

これからも読者様ひとりひとりに、わたしの作品が届きますように……(祈)。


少し更新が遅れておりましたが、別作業をしていた関係です(汗)。

もしかしたら2週間ほど更新が開くかもしれません。

9月にイベント準備の作業で半月ほど潰れてしまったので、連載を書き溜められなかったんです(汗)。

ので、ここから巻き返すためにちょっと執筆だけに集中したいなと思いまして。

更新をお待たせしてしまうことになりますが、ご容赦ください(平伏)。

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