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生徒vs教師 華麗な戦いシリーズ

イマジナリーゲスト Lv.999の代返

作者: SHAKE


■オグラ先生 → 現国の授業


「じゃあ、名前を呼ばれた人は返事をするように」

今日もまたいつもどおり授業が始まった。


現国の授業を受け持つオグラ先生は、今年本校に転任してきたばかり。

日本語を異常なほど愛している。愛情が深いからこそ生徒に求めるものも大きい。

回答が非常に困難な難問を作ることこそが受け持ちの生徒に向ける愛情だと本気で考えている。


しかし生徒たちもそんなドSな行動に応えられるわけがない。

学年トップレベルの生徒でさえ、現国の満点をとったことは一度もない。

むしろオグラ先生が意図的に満点をとらせないよう問題を操作しているようにも思える。

生徒からの人気は最低なオグラ先生である。


■赤点の詳細


この学校のテストはクラス平均点の半分未満の点数が赤点となる。

平均点が80点なら39点以下が赤点。

赤点をとれば追試がある。

追試で赤点を回避できれば進級できるのだが、そもそも追試であっても赤点を回避するのは難しいほど先生は難問をぶつけてくる。全く慈悲がない。

そして3年生の最後の期末テストのみ追試がない。もし赤点をとれば卒業できずに留年となる。


■オグラ先生独自の 裏口卒業の条件


一方で、期末テストの結果とは関係なく、だれでも簡単に卒業できる方法がひとつある。

それは「授業の出席数」である。


現国と同時に自分の授業を愛するオグラ先生は、一年間の授業を一度も遅刻・欠席しなければ留年にはしない、という独自のルールを作り、学校側からも承認を得ている。

授業に出席さえしていれば生徒に魅力ある知識を提供できるから、授業全てに出てくれればテストなどしなくても結果はわかる、ふるいにかける意味はないという自負を持っているのだ。


■オグラ先生という強者


ここにオグラ先生の持論を統計化した数字がある。

昨年度、彼の授業を休まず出た生徒が現国の期末テストで学年1位から20位までを占める結果となった。

魔法のような所業である。

回答の横流しさえ疑う結果だが、オグラは期末テストの関係者との縁は全くない。

それなのにテストが行われるたびに毎回とてつもない結果が続く。


テストの制作は外部企業が行っているが、その企業からのテスト内容漏洩、あるいはオグラ先生への情報提供を疑う者も出てきた。

そして大々的に第三者委員会を立ち上げて調査がされるも、彼には一切の疑わしい点はなかった。


そんなオグラ先生には、毎年年度末に相当な数の全国の有名私立校から現在の年収の10倍以上にあたる破格の条件でスカウトが提示される。しかし「いまの学校の近くにある公園と自宅近くにある喫茶店が気に入っているから異動はしない」という理由で全て断っている。


■タケシ、遅刻の予感 → ヨシカズへ代返の依頼


タケシは高校2年生。

ある夜タケシはスマホゲームに夢中になってしまい、気がつけば朝になってしまっていた。


このまま寝てしまうと寝過ごして遅刻するかもしれない。

朝の1限目は現国。

ヤバい、オグラ先生か。遅刻はできないな。

タケシは友だちのヨシカズに連絡し、代返をしてくれるよう頼んだ。


ヨシカズは小学校からの幼なじみ。

勤勉、無遅刻・無欠席。

しかも代返のプロ。


中学時代はずいぶん助けてもらった。

高校に上がってからは一度も代返を頼んだことはなかったから、そろそろいいだろう。

学校でジュースでもおごればいいかな。連絡するとヨシカズは快く引き受けてくれた。

ヨシカズ、ありがとう。


■ヨシカズが発揮するLv.999のスキル


ヨシカズは父シズオ、母カズミの間に生まれた次男である。

長男は2歳上、そして2歳下の妹がいる。


父はチェロ、母はバイオリン、両親ともにオーケストラ奏者である。

大学時代に同じ楽団で知り合い、結婚した。

両親の影響もあってか、長男と妹はともにピアニストとしてフランスに留学している。

そんな家庭環境のなかでヨシカズは趣味でボカロの作曲をしながら月一程度のサイクルで無料配信サイトから曲を公開している。

家族全員が音階に関し非凡な感性を持ち合わせている。


そんなヨシカズは代返すら一般人とは違うレベルをこなす。

そっくりどころか本人と間違うほどである。

もはや芸術の域。

周りのクラスメイトでさえ気づかない。

代返スキルはLv.999(当社比)。

しかし、ただ似ているというだけでは代返はこなせない。

そこには嫉妬するほどの匠の技が隠されているのだ。


ヨシカズの代返は声が似ているだけではない。

返事のタイミングも超一流だ。

ヨシカズは代返する者からさかのぼって5人前の席から返事のタイミングをていねいに聞きとる。

先生が名前を読んでから本人が返事をするまでの時間を聞きとりだけで秒数をはかり、その5名の平均秒数±0.05秒で返事をするよう心がけている。

先生には先生個人の、点呼のときの呼吸がある。

それが乱れると無意識に違和感を抱かれる。

代返のときには違和感を感じずにスッとスルーしてもらわないと、目視される危険があるからだ。

これは一番避けなければいけないことだ。


■オグラ先生、授業開始 → ヨシカズ、本気出す


現国の授業が始まる。オグラ先生が教室に入ってきた。

「じゃあ、名前を呼ばれた人は返事をするように」


ヨシカズはオグラ先生の授業で代返をするのは初めてなので、少し緊張した。

Lv.999とはいえ、最初はいつも緊張するものだ。


「イノウエ」

「はい」


「ウエダ」

「はい」


「オオキ」

「はい」


「オカジマ」

「はい」


いよいよタケシ(カワグチ)が呼ばれる。


「カワグチ」

「はい」


「…ん? カワグチ?」

「はい!」


「お? いつもより元気だな。キジマ」

「はい」


…聞き返されたぞ。

めちゃくちゃ驚いた。

見抜かれたかと思った。

でもなんとかうまくいったようだ。

ホッとするヨシカズ。


続けて全員の名前が呼ばれたあと、何事もなかったかのようにいつもどおり授業が始まった。


■タケシ&ヨシカズ、次の日の学校


「ヨシカズ、助かったよ。ありがとな」

「おー。オグラの授業の代返は初めてだったからちょっと緊張したわ。でも成功」

「さすがプロw」


「ただなあ、簡単にスルーされたわけじゃないんだ。一度、聞き返されたんだよ」

「え? あんなに似た声なのにか?」

「そうなんだよ。ちょっとびっくりしたわ。でも聞き返されただけで「いつもより元気だな」とか言われただけだったよ」

「そうか、なら大丈夫だな。サンキューな」


タケシはそう言うと、ヨシカズの好きなビタミンC満載の酸っぱいジュースを手渡した。


■学年最後のテスト


それから二か月後。

学年最後の期末テストの日を迎えた。タケシのクラスは全員が出席していた。

タケシは文系ではない。

しかし理数系ですらない。

バリバリの体育会系だ。

オグラ先生の難しい現国の授業なんて、しっかり聞いていても全くわからない。

テストは勘だけに頼るスタイル。


■テスト返却日。そして…


三学期最終日。

三年生最後の現国の授業で採点された期末テストが返却される。


タケシに返ってきた回答用紙には、8点という字が刻まれていた。

ちなみにテストは100点が満点である。

8点は赤点間違いなしだった。


全員の解答用紙を返却し終わったところでオグラ先生が口を開いた。


「今回の赤点は割と少なくて7名だった。

みんなよくがんばったな。

そして7名のうち出席日数を満たしたものは6名。

残念ながら出席日数が足りなかったのはタケシだけだ。

ひとりだけ留年だな。来年またがんばれよ」


■オグラ先生の、なぞとき解説はじまりはじまり


タケシは驚いた。

「え!? 先生ぼく休んでないよ! どういうこと? ヨシカズ? どういうことだ!?」

ヨシカズも驚いて大声で返した。

「え? オレちゃんと代返したぞ。…あ、いけね」


オグラ先生が割って入った。

「代返? そんなことをしてたのか。

全然気づかなかったよ。

素晴らしいスキルだな。

しかし問題は、本人が返事をしたのか、誰かの代返だったのかということじゃない。

本人が授業に出てたかどうかなんだよ」


タケシは言い返した。

「オレがあの日、授業に出ていなかったというんですか? ちゃんと授業に出てましたよ? なぜそんなことがわかるのですか?」


ヨシカズの代返は完璧だ。

バレるわけがない。

証拠があるわけでもないし、なにより欠席していたことも証明できないはず。


オグラ先生はタケシに迫られてもニコニコしている。

「私は視力がいいんだ。

記憶力も悪いほうではない。

授業が始まる前にクラスみんなの並ぶ姿を一望し、誰が出ていて誰が休んでいるかなどすぐわかるよ。

ちなみに君はあの日以外は全て出席していたな。

よくがんばった。

しかし一回でも決まりは決まりだ」


呆然としているタケシをさらに追い込むオグラ先生。

「遅刻していないと言い張るなら証拠があるぞ。

正門に設置した防犯カメラを調べれば、あの日に君が遅刻してきた映像が残っているだろう。

まあでもそこまではしないよ。

防犯カメラの確認なんて公的な犯罪性がなければするもんじゃない。

警察に許可を得ようとすれば大ごとになるからね。

防犯カメラはあくまでも防犯のための設置だしね」


オグラ先生は続けた。

「名前を呼ばれたものが授業に出席しているなんてアナログなシステムに頼ったことなど一度もないよ。

授業のたびに毎回「名前を呼ばれた人は返事するように」と言っていただけだ」


オグラ先生はさらに続けた。

「最近じゃ、出席している生徒全員に出席カードを一枚ずつ渡して、先生がそれぞれの生徒からひとりずつ回収する…という制度を実施している大学もある。代返対策なんて当たり前に行われているからね」


代返のレベルがどうという問題ではない。最初から代返の意味はなかったというわけだ。

毎回の授業の前にオグラ先生がみんなが座っている様子を見渡すのが検証、そして証明はオグラ先生の記憶、お互いが納得できるような審判は防犯カメラということだ。


■オグラ先生、華やかな結末


「私は現国の教師。

誰でも理解できるように日本語でルールは言っておいたはずだよ。

ただし難易度SSの作戦に挑戦した勇気は讃えるよ。

特にヨシカズは素晴らしい代返スキルだった。

将来は声優の道に進むことを勧めるよ。

タケシはそうだな、今回より素晴らしいトリックで私を騙せたら特別に卒業条件を満たしたことにするよ。

ちなみに私は現国の成績を上げる努力をすることのほうを勧めるけどね」


愕然とするタケシに同情の目を向け、オグラ先生は言った。

「とにかくタケシはあと1年、私の授業を受けてもらうぞ。来年もよろしくな、タケシ」


結果:先生の勝ち




生徒vs教師 華麗な戦いシリーズ 成績 1-1

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