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AI  作者: やす
1/8

序章


 **ジジジ……**


 **ジジジジ……**


 **ジジジジジジ……**


 うるさい。暑い。動けない。


 私は畳の上に伸び切ったまま、扇風機の風を全身で受けながら、ただひたすらに呼吸していた。


 **「……あつ……」**


 となりには妹の楓が、私と同じくぐったりしている。

 まるで干物。いや、**もはや化石と化した姉妹の図**だった。


 「……お姉ちゃん、死んだ?」

 「……ああ、もうダメだ。文明の利器、冷房が欲しい……」

 「じいちゃんち、エアコンないもんね……」

 「昭和の家って、なんでこんなに暑いんだろ……」

 「風鈴の音で涼しくなれってことじゃない?」

 「音じゃ涼しくなれねえ……!」


 この暑さのせいで、会話のテンポまで死んでいた。


 「燈花、お前ら、そんなにだらけとるなら、すいかでも食うか?」


 その瞬間、私の意識は覚醒した。


 **「食う!!!」**


 私は勢いよく起き上がり、干物から人間へと進化を遂げた。

 いや、**すいかというエネルギーを摂取しないと生きていけない生命体**になった。


 「じいちゃん、神か?」

 「神というより、ただのすいか好きの爺さんじゃ」

 「じいちゃん、好き!」

 「愛の告白のハードル低すぎんか?」


 祖父は苦笑しながら、冷えたすいかを差し出した。

 私と楓は、むさぼるようにすいかを頬張る。


 「ふぁー、生き返る……じいちゃん、やっぱ天才だよ……」

 「燈花、さっきから同じことばっか言っとるな」


 冷たいすいかを味わいながら、私はようやく脳を働かせ始めた。

 この祖父の家は、私たち姉妹にとって第二の実家のようなものだった。

 小さい頃から遊びに来ていたし、今でも長期休みになればこうして訪れる。


 畳の香り。風鈴の音。蚊取り線香の煙。

 すべてが、懐かしくて、心が落ち着く。


 **ここは、絶対に安全な場所だった――はずだった。**


---


 すいかを食べ終えたあと、私はふと床の間を見た。


 そこには、妙なものが鎮座していた。


 **黒く、尖った、不気味な石。**


 「じいちゃん、また変な石飾ってるね」


 私は目を細めてそれを見つめた。

 なんというか、形が鋭すぎる。

 まるで誰かが意図的に削り出したような、異様な雰囲気があった。


 「変な石とは何じゃ。これは大切なものなんじゃぞ」


 祖父は笑って言うが、その目にはほんの少し影が差している気がした。


 「……なんか、危なっかしくない?」

 「うん、刃物みたいな感じ」

 「まるで武器だな」

 「お前ら、そんなこと言うな」


 祖父が苦笑しながら、石の前に座る。


 「これはな、昔、古い知り合いから預かったものなんじゃ」


 「へえ……」


 私は興味本位で手を伸ばそうとするが、祖父がそっとその手を押し戻した。


 **「触ってはならん」**


 その一言には、さっきまでの穏やかさとは違う、どこか張り詰めた響きがあった。


 私は思わず手を引っ込める。


 「……じいちゃん?」


 「燈花、お前にはまだわからんかもしれんが……これは、ただの石ではない」


 祖父の表情が、ほんの少し険しくなった。

 その目の奥には、深い哀愁が漂っているように見えた。


 そのとき――。


---


 **ガラッ!**


 玄関の引き戸が、乱暴に開け放たれる音が響いた。


 「探せ! あの石を持ち帰るぞ!」


 低く、荒々しい声。


 突然の事態に、私は息をのむ。


 「燈花、楓、奥の部屋に行きなさい!」


 祖父の声が、これまでに聞いたことがないほど鋭く響いた。


 「え……?」


 私は、状況が呑み込めず、ただ祖父の表情を見つめる。


 だが、祖父の目は真剣だった。


 「早く!」


 そして、男たちが室内に踏み込んだ。

 彼らの視線は、祖父の背後――**あの石**に向けられていた。


 「悪いが、この石は渡せん」


 祖父の声には、微塵の迷いもなかった。


 しかし、男たちは構わず祖父に掴みかかる。


 「じいちゃん!!」


 私は、祖父を助けようと駆け寄る。


 だが――。


 「どけ!」


 突き飛ばされる。


 背中が石に打ち付けられた瞬間――。


 視界が赤く染まった。


 私は、**自分の左腕が、肘から先を失い、床に転がっている**のを見た。


 **「――燈花姉ちゃん!!」**


 楓の叫びが、遠く聞こえた。


 その瞬間――。


 何かが、私の中で弾けた。

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